第39話 闇の賊との対決
「!」
サルマの縄を持っていた闇の賊は、サルマの不審な動きを察知して振り返る。
それと同時にサルマは腰につけている三日月剣を
「‼」
サルマの剣が素早く動いて、アイラのロープを持っている闇の賊を切りつける。闇の賊は負傷し地面に倒れる。サルマはアイラの体と闇の賊を繋いでいるロープを切りながら、アイラに向かって言う。
「今だ、手のロープを外せ! そしてできるだけコイツらから離れろ‼」
アイラはサルマを見る。サルマはアイラの方は見ずに、自分を追ってきた闇の賊と三日月の短剣で応戦している。
アイラは頷くと、ロープを外し、誰もいない方向に向かって駆け出す。
「待て! おい、あの少女を捕まえろ!」
ロシールは残りの闇の賊二人に向かってそう叫んだ後、サルマと戦っている闇の賊に向かって言う。
「おまえはそいつの相手を頼んだ。その男は……そうだな、なるべく生かして闇の世界に送る予定ではあったが、この際……殺しても構わない」
闇の賊はゆっくりと頷く。顔を隠している黒いマントの間から
「少女の方はそこまでする必要はないだろう。少女は生け捕りにして、わたしのところに連れてきなさい」
ロシールはそう言うと、この状況にも慌てず落ち着いた様子で岩の上に腰を下ろし、一息つきながら戦況を見つめる。
ロシールの言葉を聞いたサルマは眉をひそめる。
(殺しても構わない、だあ⁉ 話が違うじゃねーか! だが、アイラの方は生け捕りなら、俺さえ死ななけりゃなんとかなる。とにかく今は、目の前にいるコイツを倒すことが先決だ!)
サルマは三日月の短剣をヒュンヒュンと数回素振りさせたあと、それを目の前にいる闇の賊に突き付ける。
「さあ来いよ、バケモノ。俺様が相手になってやる」
アイラは疲れた足を引きずりながら必死で逃げている。それを後ろから先程の闇の賊二人が追う。
(どうしよう。このまま走って逃げても、すぐに追いつかれそうだよ……。隠れる暇もなさそうだし……)
アイラはそう思うと、自分の荷物を背中からおろし、オルクに貰い天界の泉につけた、退魔の剣を取り出す。
(わたしも……戦わなきゃ! この剣があれば、きっと大丈夫! 今こそわたしの故郷……メリス
アイラは剣を握り締めている手にぐっと力を込め、
「!」
アイラに追いついてきた闇の賊たちが足を止め、剣をじっと見つめる。アイラは闇の賊の方に向き直り、剣を
「あ……あれ?」
アイラは特に何も変わらない様子の剣を見て眉をひそめる。
(闇の賊を前にして剣の
「剣が光を発さない……か」
その様子を後ろから見ていたロシールがそう言って、岩場から立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「どうやら、今の君にはその剣を使うことができないようだな。その可能性が高いとは思っていたが……ほっとしたよ」
ロシールはそう言ってアイラににやりと嫌な笑顔を見せる。ロシールを見たアイラの顔が
「ど、どういうことなの、ロシールさん。もしかして、剣の光が闇の賊を打ち負かすっていうのも……嘘だったの⁉」
「……その話は本当だ」
ロシールはそう言ってアイラをじろりと見る。
「剣が光を発すると、あらゆる闇の力は失われる。闇の賊のもつ闇の力についても、もちろん例外ではない。ただ……その剣は、どうやら今、君には使えないのだ」
「そ、そんな……」
アイラはガックリした様子で、その場で膝をつく。
「剣をしまい、再び荷物の中に入れろ」
ロシールはアイラにそう命じる。アイラは両脇にいる闇の賊から剣を突きつけられ、抵抗する気力も失せたのかおとなしくそれに従う。
「その荷物を背中にしょっておとなしく付いてこい。そうすれば痛い目にあわずに済むぞ。あと……」
ロシールはアイラを見張っている二人の闇の賊に向かって言う。
「おまえたちは、その子の剣には決して触れるな」
闇の賊は頷いて、アイラの腕を掴み、再び山頂に向かって歩き出す。アイラはそれに促されて歩き出しながら、ロシールをちらりと見る。
(今の言葉……どういう意味なんだろう。やっぱり闇の賊はこの剣が苦手なの……? 光は発してなくても、剣で切りつけることができたなら、勝ち目があったのかな。でも、剣なんて使ったことのないわたしには、闇の賊を切りつけることなんて簡単にはできないよね……。こんなことなら、サルマさんに剣を渡しておけばよかった……)
アイラはそんなことを考えながら、下を向いてとぼとぼと山頂に向かって歩いていく。
「くっ……」
一方のサルマは剣を構えたまま、少し距離を取って闇の賊と向かい合っている。サルマの息は荒く、はあはあという息づかいが聞こえる。
(な、なんて強さだ……。闇の賊は戦闘力が高いとは聞いていたが……全員この強さだってんなら洒落になんねーぞ!)
闇の賊はゆらりとした動きでサルマににじり寄り、剣を向けてサルマに迫ってくる。そして先端がノコギリのようなギザギザの形をした、黒い刃を持つ大剣を、サルマめがけて振り下ろす。
「……ぐっ‼」
サルマはそれに応戦し、なんとか相手の剣を短剣で受け止める。
(おっ、重ぇ‼ なんて威力だ。こいつはアルゴの大剣並か……それ以上に重たい剣だ。それを自由自在に振りまわしやがる。闇の賊ってのは、皆こんなバケモノみてぇな奴らなのか⁉ だとしたら、この世界がこいつらに乗っ取られちまうのも時間の問題だぞ‼)
サルマは剣を持つ両手に力を入れて、必死で相手の剣を振り払おうとする。
(……駄目だ、びくともしねぇ。こんな奴とまともにやり合うんじゃなかったぜ。力と力の勝負じゃいずれこっちが負ける。早く、この剣をなんとかしてどかさねぇと)
サルマは片足を素早く上げ、闇の賊の
(……これが精一杯か。思いっきり蹴飛ばしたつもりなんだが、体が吹っ飛ぶか腹抱えてうずくまるかしねぇのかよ。闇の賊は体も相当丈夫ってことなのか……?)
闇の賊はサルマの蹴りで倒れることもなく、落着き払った様子で再び剣を構え、サルマの様子をじっと
サルマも剣を構えなおし、闇の賊の様子を観察する。
闇の賊は真っ黒い色の衣服や靴、そして腹の下あたりまである、これまた真っ黒のマントを着用している。
マントのフードを深々と被り、口元もそれで隠しているため表情は見えにくいが、肌や衣類の色と対照的に真っ白く輝いて見えるギョロリとした白目と、不気味に赤く光る瞳を持つ二つの目がフードの下からチラリと
顔を含めた全身の肌は浅黒く、全身が
(あの黒ずんだ肌の色と、気色の悪い赤く光る目は明らかに俺たちと違う……が、さっき蹴りを入れた時の感触、それに、全体的な姿形は俺たちと同じ……人間そっくりだ。だが力の強さは明らかに向こうのほうが上……。なんなんだコイツら、一体何者なんだよ。それに……コイツの剣からは嫌な気を感じる。あの時……闇の大穴を上から見た時と同じだ。これが、闇の力ってやつか……?)
「!」
闇の賊が再び剣を振りかざし迫ってくる。サルマは、今度は相手の剣をまともに受けないようにひらりと身をかわす。
闇の賊は大剣を振り回し続け、徐々にサルマを崖の方へと追いやってゆく。
(まずいな、このままじゃ崖の端まで追い詰められちまう。なんとか方向転換して……)
サルマはタンッと軽やかに宙に舞い、ごつごつとした足場の悪い岩の重なる地面の中でも、一番安全に降りられそうな大きく平らな岩の上に着地しようとする。
「!」
その時、闇の賊の黒い大剣が、サルマの降り立とうとしている岩の上に勢いよく振り下ろされる。
(ちくしょう、読まれてたか!)
振り下ろされた大剣によって、岩が勢いよく砕ける。その破片がサルマの方にも多数飛んでくる。
サルマは腕を交差させて顔を覆い、なんとか岩の破片を避けながら着地しようとする。しかし砕けた岩によって足場の悪くなったところに着地するかたちになり、岩の破片に足をとられて体勢を崩してしまう。
起き上がろうとしたサルマの上に、黒い大きな影が現れる。サルマが振り返ろうとすると、サルマの耳のすぐ横にぬっと大きな剣の先端が現れる。
闇の賊の大剣が自分に向けて突き付けられていることを悟ったサルマの頬に、つうっと一筋の冷たい汗が流れ落ちる。
(……俺は、ここまで……なのか?)
闇の賊は剣を突き付けたまま、じっとサルマを見ている。そうやってしばらくサルマのことをどうしようか考えているようだったが――やがて殺すことに決めたのか、剣を両手で持ち、すっと静かに振りかざす。
(くそっ……まだだ! 俺はこんなところで終わるわけにはいかねぇんだ! アイツの……アイラの目的地に辿り着くまで、俺もアイツも生き延びなけりゃいけねぇんだよ!)
「こっちにゃ不利な体勢だが……あがいてやるぜ、最後まで……」
サルマはぼそりと呟き、今にも自分の首めがけて振り下ろされようとしている剣の気配を後ろから感じつつ、地面から顔を上げて闇の賊の方を見る。
「⁉」
まず目に入ったのは、こちらに向けて剣を振りかざしている闇の賊であったが、その上空にある――――ぽっかりと開いた黒い空洞のような謎の穴に、サルマは目を奪われる。
「な、なんだあれは‼ おい、オマエ! 今度は何の魔法だ! あれも闇の力ってやつなのかよ⁉」
サルマがそう
「なんとか言えって……うわああああぁっ‼」
サルマは自分の体が急に上に引っ張られるような感触がして、大声をあげる。
それは単なる感触でなく、地面から足が離れ、黒い空洞の方に自分の体が吸い込まれていることを知ったサルマは、上空の穴をもう一度見、そして今まで自分がいた場所を見下ろす。
そこには、さっきまで対峙していた闇の賊が振り上げていた剣を降ろし、目を見開いてサルマの方を見上げている光景があった。
その闇の賊の表情の意味を考える間もなく、サルマの体は黒い空洞の中へと消え――――それからすぐに、上空の穴はしゅるんと消えて跡形も無くなった。
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