第26話 決闘、そして決着
「お、やんのか? いいぜ……その度胸は褒めてやるよ。容赦はしねぇがな」
前に進み出てきたサルマを見て、ドゥボラはにやりと笑って剣を
サルマは腰布を少し下にずらす。すると腰につけてある三日月の短剣が
その
「おい、あれ、もしかして……」
「三日月剣……じゃねぇか⁉」
「あいつ、もしかして……警備戦士なのか⁉」
「んなわけねぇだろ。じゃあなんでアルゴの海賊団に属してんだよ!」
「知らねぇよ、俺に聞かれても……」
三日月の短剣を持つサルマを見たドゥボラの顔は――――先程までのにやついた笑みが消え、真っ青になっている。
「お、お、お、おめぇ……何者だよ! まさか警備戦士……じゃねぇだろうな⁉」
「違ぇよ。だが、親類が警備戦士でな……ちょっと借りてるのさ」
サルマがそう言うと、周りの海賊たちがまたもや騒ぎだす。
「親類が警備戦士……だと⁉」
「いや、どっかで聞いたことあるな。警備戦士の家に生まれながら盗賊やってるヤツがいるって……」
「俺も噂だけど聞いたことあるぜ。確か、鼻がきくとかいう盗賊……名前はサルマだったかな」
「しかもブレイズ家出身って話だろ? あの伝説の戦士ブレイズの家系で、代々、
「マジかよ……だから割と立派そうな短剣持ってやがるのか。しかし、よく賊なんかになるの許されたもんだな」
(……実のところ、許されてねぇんだけどな。しっかしなるべく隠してるつもりだったのになんでこんなに広まっちまってるんだ? ま、アルゴ海賊団とかケーウッドとか一部の知り合いには知られてるし、別に隠してくれとも頼んでねぇし……なにより自分がリーシから盗んだ紅竜の船を乗りまわしてるから仕方ねぇか)
サルマは周りの自分に対する噂を聞いて苦々しい気持ちで笑う。
「くっ……」
ドゥボラは恐ろしげに三日月の短剣を持つサルマを見る。そして、自分の剣に向けて呟く。
「おい、またそんな風に縮こまりやがって……頼むからいつもどおり戦ってくれよ。三日月剣持ってるとはいえ、相手は戦士じゃねぇんだぜ」
サルマがドゥボラの剣に目をやると、先程まで元気に頭をもたげていた黒蛇が――ドゥボラの剣の持ち手にとぐろを巻くように絡まり、顔を隠して縮こまっている。
(ドゥボラが……いや、蛇が警備戦士が苦手って話、本当だったのか。理屈はよくわかんねーけど、とりあえずチャンスだ。蛇さえなんとかなりゃ、俺でも勝てる……)
サルマは短剣を構えてゆらりとドゥボラに近づく。ドゥボラは恐ろしげに三日月の短剣を持つサルマを見、一歩後ろに下がりつつ自分も剣を構える。
サルマが先に仕掛け、ドゥボラに向かっていく。ドゥボラも応戦するが、腰がひけているドゥボラに比べてサルマの方が動きがよく――――ヒュンヒュンと風を切るように三日月の短剣を振りかざし、あっという間にドゥボラを追い詰める。
(……コイツ、今ここで殺った方がいいのか?)
サルマは剣を振り上げたままの体勢で少し躊躇する。
その時、大人しく縮こまっていたドゥボラの蛇が、自分がやられると思ったのか急に暴れだし――――突然ドゥボラの腕を噛む。
「うああああああああ‼」
ドゥボラが大声で叫ぶと同時に剣を離し、仰向けに倒れる。
すると剣に巻きついていた蛇が剣から離れ、地を這って逃げてゆく。
周りで見ていた海賊たちが慌てて蛇から逃げ惑う中、ケーウッドはその場から動かぬまま蛇を目で追い――――蛇が自分の足元に来た瞬間、自分の持っている双剣を両方振りかざし、シュパッと蛇の胴体を三分割に切る。
蛇は胴体を切られてもなお少しだけ動いていたが――――やがてぴくりとも動かなくなった。
ケーウッドは剣を
「ふう、これで大丈夫かな……。でも蛇って尻尾切られても再生するんだっけ?」
「いや……そんな胴体三分割にされたんじゃ、流石に生きてねぇと思うぜ」
ジョージというケーウッドの船の船医に治療されながら、アルゴが冷静に突っ込みを入れる。
ケーウッドが少し驚いた様子でアルゴを見る。
「あれ、アルゴ。大丈夫なのか?」
「ああ。体がしびれて動かせねぇだけで、他は何ともねぇよ。おそらく向こうもそんな状態だろう」
アルゴはドゥボラの方をちらと見る。ドゥボラは自分の蛇の毒により体がしびれて起き上がれず、仰向けの体勢のままでいる。
「おい、ケーウッド。コイツのことはどうするよ。俺より先に、あの蛇がトドメさしちまったんだが」
サルマがそう言って三日月の短剣をドゥボラに突きつける。ドゥボラは短剣を見ると、顔を青くして叫ぶ。
「お願いだ……殺さねぇでくれ! 俺はもう、この島中の施設から手を引いてやる! だから……」
「へぇ、そう。でも今回これだけ大きな騒ぎを起こしておいて……本当にこのまま大人しくしてくれる気があるのかな? 殺すのはやめてやってもいいとしても、念のため島からは永久追放しておいたほうがいいだろうね。そのあたりの処遇は……そうだな、警備戦士どもの戦士会議にならって、海賊会議ででも決めようか」
ケーウッドが冷たい笑みを浮かべてドゥボラを見下ろす。ドゥボラはちらりと三日月の短剣を持つサルマを見て、顔を青くしたままぶつぶつと呟く。
「それも嫌だ……島の外に出たら戦士に追われる……」
「やれやれ。キミのせいで、警備戦士がすっかりトラウマになってるみたいだね」
ケーウッドがサルマを見て笑う。
「いや、コイツ俺と戦う前から相当びびってたぞ。リーシにでもボコられたんじゃねーか?」
「……あの気高く美しい、女の警備戦士隊長かい? 彼女は
ケーウッドが死んだ蛇をチラリと見て言う。サルマはそれを聞いて眉をひそめる。
「……
「三日月剣で戦えって言ったのは、その方が警備戦士が苦手なドゥボラに精神的ダメージを負わせられるからであって、蛇が恐れたのは三日月剣よりも……君の目のせいじゃないかな。確か伝説では、君の先祖の戦士ブレイズは蛇にそっくりのぎょろりとした目をしていたそうじゃないか。それで大蛇と睨みあっただけで威圧させて……言うなれば蛇睨み対決で勝ったって。キミはブレイズ家の中でも、ブレイズの血を最も色濃く引き継いでる血統なんだろう? なら、伝説の戦士と似た目をしていてもおかしくはない。……実際キミの目は、ちょっと
そう言ってケーウッドがにんまりと笑う。それを聞いたアイラもサルマの顔を見て笑う。
「ふふ、そういえば似てるかも」
「……ああ? 俺が蛇に似てるだと?」
ギロリと睨まれたアイラは、しまったといった様子で口に手をやりつつ、やっぱり蛇っぽい目つきだなぁとサルマを見て思う。それから少し首をかしげて言う。
「……でもリーシさんとかシルロさんは、全然蛇っぽい目じゃなかったけどなぁ」
ケーウッドが目を丸くしてアイラを見る。
「キミ、ずいぶんいろんな人に会ったことがあるんだね。そうだな……伝説の戦士ブレイズは絶世の美女と結ばれたらしいから、その二人は彼女の血を濃く受け継いでるんじゃないかな?」
「なるほど、だからあのふたりは美男美女なのね」
キャビルノがそう言って、にやにや笑いながらサルマを見る。
「ふん、どーせ俺は美男じゃねーし蛇っぽい顔だよ! でも……どうにもバカらしい話だが、本当に俺の目が蛇を怖がらせたんだとすれば、そんな顔だったおかげで勝てたってことなんだろ? ありがたく思いな!」
サルマはそう言って鼻を鳴らす。アルゴがサルマの方を見て言う。
「お前の言うとおりだ、サルマ……。
「……コンパス? 何の話だい?」
「そっか、お兄ちゃん知らないんだ。後で私が話してあげる」
不思議そうに首をかしげるケーウッドにキャビルノが言う。
「でも……アルゴさんは大丈夫なの?」
アイラが心配そうに言うと、アルゴはアイラに頷く。
「大丈夫だよ、体のしびれは数日って話だろ。それなら船を直してる間におさまる」
「俺たちとしては、なおり次第出発してくれるってのはありがてぇが……オマエ、これから頭領になるはずだろ? この島のことは大丈夫なのか?」
サルマが眉をひそめて尋ねると、アルゴは再び頷く。
「この島のことも、船がなおるまでにカタをつけるさ。……てめぇが嫌がるから俺が頭領になってやったんだ。てめぇも後始末は手伝ってくれるって話だろ? ケーウッド」
アルゴがケーウッドを見ると、ケーウッドは肩をすくめる。
「やれやれ……まるで僕の代わりに頭領になってやったみたいな言い方されちゃったね。僕としては、キミに頭領になって欲しい気持ちがあったから、身を引いたんだけどな」
「……身を引いた? どういうことだよ」
アルゴが
「だって、キミたちの海賊団……どんどん人が減って、
「そ、そんな、
デルヒスはショックを受けた様子でそう言うも、アルゴに横目で睨まれて口をつぐむ。
「……前から思ってたんだが、おめぇ、キャビルノをここに置いたままでいいのか? 俺たちの海賊団はやたらおめぇに心配されてるみてぇだし、信用ならねぇんだろ? 何より大事だっていう妹を、目の届く場所に置いておきたくはねぇのか?」
アルゴがそう言うと、キャビルノの表情が少しこわばる。そして不安げな表情でケーウッドの方を振り返る。
ケーウッドはキャビルノを優しげな表情で見つめる。
「それは僕が決めることじゃないよ。キャビルノの人生はキャビルノのもの、キャビルノの自由だ。キャビルノの乗りたい船に乗ればいい。でも……これだけは忘れないで。僕はいつでもキャビルノのことを思って、キャビルノの助けになることをするつもりだよ」
「お兄ちゃん……! ありがとう‼」
キャビルノがケーウッドに抱きつく。ケーウッドはそれを受け止め、アルゴの方を見る。
「ま、なんだかんだ言ってはいるけど、僕はキミのことを信頼しているし、実を言うとそんなに心配はしてないんだ。キミの強さはよく知っているからね。ただ……ちゃんと食べていけてるのかとか、そのあたりが心配でね。そうだ、船の修理代はあるのかい? なんなら僕が……」
「いらねぇよ。てめぇに助けてもらわずともやっていけるだけの金はある」
アルゴが即座に断ると、ケーウッドは肩をすくめる。
「……余計なお世話だったみたいだね。さて、そろそろお喋りはやめて、もうひと仕事しないと」
ケーウッドはそう言って、周りの海賊たちに向かって言う。
「ドゥボラは蛇の毒で動けないようだけど、念のためしばって、会議場に連れて戻ろう。会議の続きをしたら……ドゥボラの海賊団の船員たちの押さえている施設を皆で取り押さえる。……そうだよ、さっき僕が全部押さえてるって言ったのはハッタリだったんだ。悪いけど……皆協力してくれるね?」
海賊たちに指示を出すケーウッドを眺めながら、サルマはアルゴに言う。
「……オマエ、結構プライド高いんだな。船の修理代もらえるんなら、喜んでもらっときゃいいのに。そんなに儲かってるわけでもねぇんだろ? 俺だったらとりあえずもらえるもんはもらっとくぜ」
「大丈夫だよ。修理代払ってもなんとかやっていけるくらいの金はある。それに……もうじき金が入るアテがあるからな」
「アテ? そんなのがあるのか? なんだよ俺にも詳しく教えろよ」
サルマが目を輝かせてアルゴを見る。アルゴはそれを聞いてふっと鼻で笑う。
「てめぇが持ちかけてきたクセに……よく言うぜ。てめぇが一番よく知ってるんだろ?」
それを聞いてサルマはぽかんとしている。そしてしばらくした後、眉をひそめて尋ねる。
「間違ってるかもしれねぇが……それって、もしかして俺との約束……アイラのコンパスの先に連れてって、お宝が見つかりゃちょっとは分けてやるって話……なのか?」
アルゴはにやりと笑って頷く。
「ああそうだよ。今回こそはと信じて付き合ってやるぜ。てめぇのお宝探しにな」
サルマは目を丸くしてアルゴをしばらく見ていたが……こちらもにやりと笑い返して頷く。
「ああ、期待しとけよ。今回のは……今までで一番強烈なニオイがするからな‼」
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