第24話 海賊会議
次の日、午前からの海賊会議に備えてアルゴたちは早めに起床する。サルマとアイラも、アルゴ海賊団のアジトに一晩泊まらせてもらって朝を迎える。
「どうなんだ、今日の会議……大丈夫なのか」
サルマはキッチンで朝食の準備をしているデルヒスとアイラを眺めながら、アルゴに尋ねる。
「何とも言えねぇな。ドゥボラ派は多数派のようだが、中には仕方なく付いたヤツらも多い。この島の施設を使いたいからドゥボラに逆らえずに仕方なくついてるヤツらや、ドゥボラについた方が有益だからついてるってヤツらがほとんどだ。本当にドゥボラを支持してるヤツは少ねぇだろうし、ケーウッドの働き次第では形勢逆転も有り得るだろう。ケーウッドなら剣の実力もあるし、ヤツの海賊団は力があるから皆一目置いている。ヤツにならついて行こうっていう海賊も多いだろうよ」
「オマエの方はどうだったんだよ。オマエの働きかけに賛同するヤツはいなかったのか?」
サルマが尋ねると、アルゴは首を横に振る。
「残念ながら……俺では駄目みたいだ。未だに迷ってるヤツはいたものの、反対派についてくれると言い切ってくれる海賊はいなかった。やはり、俺たちの海賊団は三人ぽっちだから頼りなく見えるんだろうよ」
「……そうなのか」
(前は……コイツも海賊たちの尊敬を集めてたんだがな。海賊団の船員ももっと多かったし……)
サルマは、ふと何か思いついた様子で顔を上げる。
「じゃあこの島にいる間だけ、俺をオマエの海賊団の一員にしてくれよ。四人ならまだ頼もしく見えるんじゃねぇか?」
アルゴは目を丸くする。
「なんだと⁉ てことは……てめぇも会議に出るってのか?」
「おう。海賊の会議なんて参加したことねぇし、俺としても、何か有益な情報でも得られるかもしれねぇ。それに多数決にでもなったら、一人でも人数多い方がいいだろ?」
「じゃあ、わたしもそうする!」
食事を運んできたアイラがそう言うと、その場にいた全員が驚きの表情でアイラを見る。今度はサルマが目を丸くし、アイラに言う。
「お、おいアイラ……オマエも海賊団に入るのかよ⁉」
「うん、人数は多い方がいいんでしょ。一回くらい海賊になってみるのも面白そうだし!」
元気よく言ってのけるアイラを、サルマは口をあんぐりと開けて見ている。
(コイツ……ちょっと前までは海賊を恐れてなかったか? なんつーか、ずいぶん俺たち賊に馴染んだもんだな……)
「この子……なかなか度胸あるのね」
キャビルノも目を丸くしてアイラを見ている。アルゴは心配そうな面持ちで言う。
「だが、海賊どもの会議なんて毎度どう転ぶかわからんぞ。多数決なんか無視で、暴力沙汰になるって可能性もあるからな、一応戦う準備もしておいた方がいいだろう。……本当に、大丈夫なんだろうな?」
「……ま、コイツ一人ここに置いてくのもある意味危ねぇし……いざとなったら守ってやるしかねぇな」
サルマはふうっと息を吐き、アイラと目を合わせてにやりと笑う。
「一つ言っておくがサルマ……もしまだ三日月剣を持ってるなら、そいつはしまっとけよ。てめぇは警備戦士ではないにしても、それが他の海賊どもの目に留まると何かと厄介な事になりそうだからな」
「そうだな、わかったよ」
アルゴにそう忠告されて、サルマは頷く。
「じゃ、海賊団のメンバーも増えたことだし、朝ご飯食べて元気つけたら……五人で海賊会議に乗り込みましょ!」
キャビルノはそう言って、目玉焼きを乗せた麦パンを天井に向かって突き上げる。
一行は海賊会議の会場に辿り着く。大きな扉を開こうとするサルマをキャビルノが引き止める。
「ちょっと待ちなさいよ。アンタとその子は部屋に入る前に、これを頭に巻いといた方がいいわ」
キャビルノはアイラとサルマに、アルゴたちが頭に巻いているのと同じ……アルゴ海賊団のエムブレムが描かれている正方形の青い
「え、このバンダナ……俺も巻くのか? 今自分の巻いてるからいらねぇよ……」
サルマはあからさまに嫌そうな顔をして横目で布を見て、それを指でつまんでひらひらと揺らす。
「ごちゃごちゃ言ってないで……それ外してから巻けばいいでしょ! これくらいはないと、アンタたちが海賊団の一員だってわかりにくいじゃない!」
そう言ってキャビルノはアイラの頭に布を巻いたあと、サルマの手から布をひったくり、サルマの頭にも無理やり付ける。
「準備はできたようだな。それじゃ、入るぞ」
アルゴはそう言って会議場の扉を開く。
広い部屋の真ん中には横長で円形の大きな机がある。多くの海賊たちが既に席についており、皆の視線が一斉にこちらに注がれる。
扉から向かって一番奥の真ん中の席には、浅黒い肌の大柄な男が座っており、こちらに気づいて口を開く。
「おう、アルゴじゃねーか。……何だ? 昨日の会議の時に比べて人数増えてねぇか? といっても瘦せっぽちな男と……何だそのちっちゃな女の子は。船員に困ってそんなガキまで船に乗せてやがるのか?」
そう言って大笑いする男につられて、周りの海賊たちも笑う。
「ドゥボラ……」
アルゴはその男、ドゥボラを憎らしげな表情で見て何か言おうとするが、すぐに黙りこんで近くの空いている席に座る。サルマたちもアルゴに続いて席につく。
「……さて、だいたい揃ったようだな。時間だしぼちぼち会議を始めさせてもらうぜ。まず……昨日言ったことだが、おめぇら、俺に賛同するか反対するか……決めてきただろうな?」
ドゥボラがにやりと笑ってそう言うと、ざわざわと海賊たちが騒がしくなる。その様子を見ると、まだ決めかねている海賊も多いようである。
「その前に、何でてめぇにつかねぇと店や施設が使えねぇようになってんだ? ここの施設は皆が共用するはずだろ。頭領にだってそんな権限はないはずだぜ」
アルゴが立ち上がりドゥボラに食ってかかるが、ドゥボラは余裕のある表情でにやりと笑う。
「それは初日の会議に決まったことだぜ……極めて平和的にな。これからは、店や施設は頭領が管理する。会議に遅れてきた野郎に反対する権利はねぇよ」
(そうか、アルゴたちは
サルマはちらりとアルゴを見て思う。
「……本当に平和的に話し合ったようには思えないけど」
キャビルノがドゥボラの話を聞いてぼそりと呟く。アルゴは立ち上がったまま、再びドゥボラに意見する。
「……だが、まだ今回の頭領決めは終わってねぇ。会議の度に頭領の選出は行われるはずだろ。次もお前が選ばれるとは限らねぇんだし、先にそっちから決めるべきじゃねぇのか」
それを聞いて海賊たちが騒がしくなる。その通りだ、といった声も聞こえる中、ドゥボラは鼻で笑って言う。
「おめぇら……わかってんのか? 今店や施設を押さえてんのは俺の力であって、頭領の権限だけじゃねぇ。もし違うやつが頭領になったとしても、今の状況は変わらねぇんだよ」
「でも、さっきはこれからは店や施設は頭領が管理するって……」
矛盾に気づいたキャビルノが思わず抗議するが、ドゥボラは笑みを崩さない。
「はん。女は黙ってな。今管理する権限を持ってるのは俺だ。頭領が変わるなんてことになっても、俺は持っている力を放棄するつもりはねぇぜ」
言ってることが無茶苦茶なドゥボラに対して、不信感を抱いた海賊たちが不満を口にし、次第に騒ぎが大きくなる。
ドゥボラはそれに動じることなく、腕を組み海賊たちをぐるりと見渡して言う。
「そうだ、じゃあこうしよう。これからまず頭領の選出を多数決で行い、俺に票を入れてくれた海賊団には、これからもこの島の店や施設を使わせてやろう。それ以外のヤツらは……どうなるかわかってんな?」
ドゥボラの一言に、海賊たちは再び黙り込んでしまう。
(……そこまで言うってことは、この島の大砲だとか、相当有利になるものを既に押さえてやがるのか?)
サルマは、余裕の笑みを浮かべて座っているドゥボラをちらりと見て思う。
「……果たして、そう何もかもキミの思い通りに運んでいるかな?」
声が聞こえて、会議の場にいた全員が声のする方を見る。
入口の扉の
「ケ……ケーウッド⁉ お前は毎回会議には参加しないはずじゃ……」
「かわいい妹がこの島にいるって聞いたから……ついでにね」
ケーウッドはにっこりとキャビルノを見て微笑んだ後、ドゥボラの方に視線を戻し、指を突きつけて言う。
「……ずいぶん好き勝手に動き回ってるようだけど、僕がこの島に来たからにはそうはさせないよ。キミの押さえていたこの島の店や武器は全て僕が押さえた。だからドゥボラのことは気にせず、皆は自分の思うように発言するといい」
海賊たちは再びざわめき、ケーウッドを賞賛する声もちらほら聞こえる。ドゥボラはケーウッドを睨みつけて言う。
「嘘だ! 俺は時間をかけて島中の施設を押さえた……。おめぇは昨日の会議にも来ていなかったはずだ。そんな短時間で島中の施設を抑えるなんざ無理だ……コイツは嘘をついている‼」
「どうかな。僕の海賊団は、お金だけはたっぷりあるからね」
ケーウッドはドゥボラに向け意味ありげににやりと笑うと、ゆっくりとした足どりでアルゴの席にやって来る。
そしてアルゴの座っている椅子に手をかけ、なるべく唇を動かさないようにしながら、アルゴにだけ聞こえるくらいの小さな声で呟く。
「……感づかれてる通り、全部抑えたってのはハッタリだ。全部抑えるには時間が足りなかったからね。でもこの会議で味方を増やして、ドゥボラを頭領の座から引きずり下ろしてしまえばこっちのものだからね。キミも後で手伝ってくれよ」
アルゴはケーウッドの方をチラとも見ないようにして頷く。
海賊たちはどちらを信じて良いのかわからず戸惑っているようで、さらにざわめきが大きくなる。
「じゃ、キミのお望み通り多数決で決めようか?」
ケーウッドがドゥボラに向かってそう言うと、ドゥボラは海賊たちを見渡し……多数決がこちらにとって有利に働くかどうか判断しようとしたが、判断がつかなかった様子で、自分の腰から剣を抜き、ケーウッドに突き付けながら怒りの形相でまくし立てる。
「うるせぇ! 文句があるならこの俺と決闘しろ! この島の頭領は前々から強いモンがなるって決まってるんだよ! それで勝った方が頭領だ! それでいいだろ⁉ なあ‼」
ドゥボラは海賊たちを見渡す。血気盛んな海賊たちは、それを聞いて盛り上がる。
「いいんじゃねぇか。俺たちどうせ難しいことはよくわかんねぇし」
「結局のところ、強いヤツが頭領ってのが一番納得するよな!」
「ドゥボラとケーウッドか……おい、お前はどっちが勝つと思うよ?」
「両方強そうだけどよ……普通にドゥボラじゃねぇか? 体格が違いすぎる」
「いや、お前ケーウッドの剣さばき見たことねぇだろ。あれは凄まじかったぜ? 俺はケーウッドに賭けるね」
「じゃ、俺はドゥボラに銀貨一枚!」
「何だてめぇ自信ねぇな? 俺はケーウッドに金貨一枚だ!」
「ちょっと待った」
会議の場は賛成意見でまとまりかけていたが、そこにケーウッドが待ったをかける。
「なんだよ、やらねぇのかよ。さては……俺に負けるのが怖いな?」
ドゥボラはにやりと笑ってケーウッドを見る。ケーウッドは首を横に振る。
「別に、キミと戦えっていうだけなら戦うさ。ただ……僕は頭領にはなりたくないんだよね。勝った方が頭領になるって、そんな話に乗るわけにはいかないよ」
「……なんでだよ。お前が勝てば、ドゥボラの野望を壊せるだろ。ここで戦えばいいんじゃないのか」
アルゴが眉をひそめてケーウッドに言う。
「言ったろ、僕はドゥボラが頭領になるのも反対だけど、僕が頭領になるのも嫌なんだよ」
それを聞いて、海賊たちは再びがやがやと騒ぎ出す。
「んだよ、せっかく盛り上がってきたとこなのによぉ!」
「じゃ、どーすりゃいいって言うんだよ!」
「簡単なことさ。誰でもいい、頭領になりたいヤツがドゥボラに挑戦すればいいよ」
ケーウッドが皆を見渡してそう言うが、なかなか手は上がらない。
「そりゃなりたいけどさぁ……あのドゥボラに勝てる気はしねぇし……」
「とはいえ、このままじゃドゥボラに決まるのか……? それはそれで困るような気もするが……」
ケーウッドはアルゴの方をじっと見ている。アルゴはそれに気づいてため息をつく。
(……後で手伝えって言ってたのはこのことか。ま、ここまで協力してくれたんだ。こっからは俺がやるしかねぇか……)
アルゴはゆっくりと立ち上がり、剣を抜いて、ドゥボラに向かって突きつける。
「……俺が相手だ、ドゥボラ。俺が勝ったらお前には……頭領の座を降りてもらうぞ」
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