ぬいぐるみ依存

 その翌日、さっそく仕事の依頼が入った。依頼人の名は細川一樹。恋人が持っているぬいぐるみのコレクションを、ひとつ残らず壊して欲しいとの依頼だった。その恋人の名は梨絵といった。依頼人もその彼女も、共に三十歳。

 依頼人の細川一樹は困っていた。デートのたびに、梨絵はゲームセンターのクレーンゲームでぬいぐるみを獲ることを強要してくるという。普段梨絵が乗っている車や、彼女の部屋はぬいぐるみで埋め尽くされているという。

『彼女と付き合い始めた頃は、目をつぶっていたんです。彼女の趣味にとやかく口出ししない、自分だって自分の趣味を否定したら嫌なはずだ、と自分に言い聞かせていたんです。しかし、日がたつにつれ、耐え切れなくなったんです。彼女の異常ともいえる、ぬいぐるみへの依存ぶりに。幼い子供が持っているようなぬいぐるみが、彼女の部屋や車に大量に飾られてるんです。そして僕にもそれをプレゼントしてきて、自分の車に飾るように強要してくるんです。仕舞いには僕の部屋まで、彼女のコレクションで埋め尽くされてしまっている。親や周囲からの視線も痛いんです。別れることも考えました。しかし、かつて梨絵と付き合っていた元彼は、彼女と別れたあとにひどい仕打ちを受けたと聞きます。彼女は周囲やネットで元彼の悪口をあることないことつぶやき、元彼は周囲から冷たい目で見られるようにになってしまったと聞きます。それを聞いたとき、僕は恐ろしくなりました。付き合う前にその話を聞いていたら、きっと付き合っていなかったでしょう。ですから別れ話を切り出すのが怖いんです。ですから、別れるようなことはしたくない。いや、できません。だから、どうか彼女を、ぬいぐるみへの依存から解放してください』

 ブックカフェ<黄泉なさい>で依頼人が書いた原稿にはそう書かれていた。文章から、彼の必死さが伝わってくるような気がした。必死に助けを求めている。依頼人の彼女、梨絵の異常なまでのぬいぐるみへの執着。僕と笹井さんは下調べのため、その梨絵の家にこっそり張り込むことになった。はたして梨絵とはいったいどんな人物なのだろうか。

 

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