モニター越し

 人が何かに興味を示したり、何かを始めるにはきっかけが必要である。それは偶然訪れたり、人為的に、そうなるように仕向けられたり、要因は様々だ。

 黒沢シロウは、ブックカフェ【黄泉なさい】のスタッフルームから、モニター越しに来客の様子を眺めていた。彼が注目していたのは、妹のアカネが連れてきた少年。先日シロウが、アカネに彼を連れてくるよう頼んだのだ。店員の咲谷から先ほど渡された資料によると、名前を安藤快といい、住所はこの店から三キロほど離れたところだ。彼は学校でアカネと同じクラスの生徒で、アカネの前の席に座っている。他にも彼の普段の様子を、シロウは事前にアカネから聞いていた。そして興味を持った。

 店員の江頭は、安藤快にホットコーヒーを届けてから彼と筆談すると、スタッフルームに戻った。そして『読みたい本は特に無いです』と書かれた原稿用紙をシロウに見せた。

 それを見せられたシロウは、モニターに映る安藤快を睨みつけた。本好きなシロウにとって、その一言はとても許しがたいものだった。本に興味を持たない者は勿論、何にも興味を示さない人間を、シロウは何よりも嫌う。特に何も考えていないような、ただ何気なく生きているだけのような安藤快のその顔は、シロウにある決心をさせた。 

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