ポークキング
無才乙三
厩舎にて 1
「早いもので、今年もピグキングレースの季節がやって参りました。今年の注目カードは前回二位のピンキーと歴代優勝者の家系である、名門イーストン家のデビット! これはピグキングレース始まって以来の競馬顔負けのレースが期待できそうです!」
黒のスーツに白いシャツ、そして赤い蝶ネクタイを身につけた一人の人間が、建物の中央でマイクを片手に声高に叫ぶと、それに合わせて歓声が湧いた。ビリビリとした興奮と悲痛のような叫びがドーム中に響き渡り、狂気にも似た雰囲気を醸し出していた。
そしてドームから少しだけ離れた位置に存在する、小奇麗な豚小屋。ここがピグキングレースなるものに出場する豚たちの控え厩舎である。
この厩舎は一般的な厩舎より何倍も広く、風よけの為に造られた木製の屋根と壁は豪華な造りをしていて、誰が見ても特別仕様だと分かる豚小屋であった。
部屋の四隅には最高級の品質を誇るであろう、ふっかふかの藁が高々と積み上げてあり、豚たちは思い思いの体勢で横になっている。
その中でも特に赤、青、黄色と、色彩豊かな服を着た七匹の豚たちは、器用に後ろ脚で立ち、ちょうど彼らの首の位置にある小窓から外を眺めていた。
青い蛍光灯で照らされた、ちょっとだけ固い質素なベッド。
その上で寝転がっている宍色の皮膚に、くりくりと可愛いお目々、スラリと長いお耳、そしてスベスベのお鼻に糸こんにゃくのような尻尾をした彼こそが本作の主人公――いや、主豚公、ポークである。
彼は緊張の面持ちで小窓の隣にある異様な雰囲気を醸し出す、鉄製の扉を見つめていた。
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