第18話 静ちゃんの戦い

「義経ちゃん…お話があるの」

「なに?」

「静、ここで1度お別れしなきゃ…」

「なに!」

「うん…アタシが一緒だと奥州へ行けない…」


たしかに、女人禁制の御山も通らなければならないのだ。

静を連れて歩けば、通れる場所も制限されてくる。

それを解っているからこその決断である。


「それにね…義経ちゃん、アタシのお腹に…義経ちゃんの子供がいるの♪」

「…なんて?」

「だからね…アタシはココで別れる、京へ一度戻ります…必ず子供を産んで奥州へ戻るから…必ず戻るから…」

大きな瞳に涙を滲ませ、それでも笑おうとする静。

「すまぬ…静…また奥州で必ず、皆と一緒に暮らそうぞ…」

「うん♪」

「ベン・ケー…義経ちゃんを…」

静の言葉を待たず、ベン・ケーは静に微笑み返す。

白い歯をニーッと剥き出して笑う。

「なに…その顔」

静が笑う。

「マタネ…」

大きな手を左右に大きく振りながら、吉野山に消えていく。


2人を見送った静が僧兵に捉えられたのは、その夜のことであった。


捉えられた静は、詰問の末、北条時政の元へ送られた。

「静…難しいこと解らない!お金を貰って付いて行っただけだもん…」

この一点張りで乗り切ったのである。

京へ入り、妊娠を理由に母の磯禅師とともに鎌倉へ送られていた…。


「義経の子を宿しているだと…」

頼朝よりともの目に陰湿な光が宿る。

「殺せ…」

静かに低い声で命じる頼朝。

「お待ちください殿」

政子が頼朝よりともを止める。

「男子であれば仕方ないでしょう…女子であれば、お見逃しください」

「なっ…!それが…」

言いかけて言葉を飲み込んだ頼朝よりとも

(それが、その仏心が義経を今日まで生き延びさせ、我に仇なしているのが解らんのか…政子も所詮は女…)

「あい解った…仮にも源家の血を宿している白拍子であれば、鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうにて舞わせよう、源家の坂東ばんどう万歳ばんざいを祝う舞を源家の血を宿した白拍子が舞う…一興よの」

薄く笑う頼朝よりとも

(このお人は…それほどに義経が怖いと見える…女子を殺したとあれば聞こえも悪かろうに…産まれてくる子が女子であれば、北条ほうじょうに嫁がせればよい、残すべきは源家の血を引く北条の子…静は八幡宮では殺させませぬよ…殿)


(身重であれば、必ず舞に精彩を欠く…八幡宮に義経の血を捧げてみせる)


「舞えないと思っているのね!いいわよ…舞ってみせます…大恥かかせてやるわよ!頼朝よりとも

磯禅師の心配を他所に、高笑いする静であった。


頼朝よりともと政子の思惑が渦巻く鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐう

に静が舞う…。


…………

「しづやしづ しづのをだまき くり返し 昔を今に なすよしもがな」

(頼朝よりともの元にいる「今」を義経と過ごした「昔」に変えることができればいいのに…)


「吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき」

(吉野山の峰の白雪に足跡だけ残して別れた義経が恋しい)


早く鎌倉出たい~…頼朝よりとも嫌い!義経ちゃんに早く逢いたいよ~。

と唄ったのである…。


一同絶句の中…

頼朝よりともが烈火のごとく怒りだす。

八幡宮はちまんぐうで恋を唄うとは何事ぞ!しかも反逆者、義経を想う唄なぞ言語道断!その首跳ねてくれるわ!」


ぷいっと横向く静ちゃんであった。

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