第7話 飛ぶ鳥を落とす勢い
「昨夜は愉しんでもろうたようでなによりじゃ」
平服しながら笑いだしそうな三郎、ある意味では平服するしかないのである。
顔見たら笑っちゃう。
「ときに、義経殿、なんでも兄上にあたる
「はっ!そのようで」
「うむ、
「もちろんでございます(ウソ)」
このころ義経、行かなきゃダメかな~、行きたくないな~の迷いが出始めた頃なのである。
なんか、子供の頃から、仇討ちをそそのかされ、その気になってた中二病を経て、見世物小屋に売られ、芝居小屋を立ち上げて独立、商売が軌道に乗った矢先に兄上の敗戦と挙兵。
完全に乗り遅れた感満載である。
今さら、参戦って……今まで何してたの?って聞かれるよ絶対。
「左様であろう」
三郎は思った、
(17万騎の実質的な大将!最高!)
ベン・ケーは思った、
(
「平家の世は
昨夜のふんどし一丁のご老体とは思えぬ王者の
さすが、
「ゆえに、奥州17万騎、1騎たりとも、そなたには貸せぬ」
(甘かった)
平服したまま、三郎が唇を噛む。
「佐藤兄弟を呼べ」
「義経殿、余は
「ん?」
「そなたに鎧を授けよう、路銀も用意した。そして佐藤兄弟、本日このときより義経殿を
(え~っ)
佐藤兄弟、絶句。
佐藤 兄
(捨てられた~)
佐藤 弟
(厄介払いされた~)
三郎
(平泉を追い出された~)
ベン・ケー
(HAHAHAHAHAHAHA!)
義経
(やっぱり行くのか~)
そんなわけで、体よく平泉を追い出された御一行、一路 富士川へ。
合戦を控え、両軍緊張ムード高まる夜、義経ついに参陣である。
「やあやあ、
三郎が名乗りを挙げる。
見張りが大笑いで返す
「4人でか?寝ぼけんな!なにが九郎か!素性怪しき者を殿に会わせるわけにはいかん!」
(ごもっとも)
皆が思った。
「あいわかった……明日、再び、参るゆえ、そのときはよしなに」
それだけいい残し、義経は背を向ける。
陣の端で野宿。
「いいのか?殿」
「よい、兄上とはいえ、面識もないのだ無理もない」
(素性怪しきとは……反論の余地もない)
考えてほしい、ひょろい派手な甲冑の若者、野党崩れ、黒い筋肉だるま、ホモに薄幸である。
笑うしかねぇ
野宿している御一行に酔った武士が絡みだした。
「おい、
5~6人の酔っ払い、三郎が「うるせぇ」と立ち上がる。
酔っ払いの一人が、義経に石を投げた。
カコンと鎧に弾かれる小石。
「てめぇ!」
三郎、
まえに……、ベン・ケーが立ち上がった。
「why? Boy、ガンセキ ナゲタネ!」
(岩石?)
皆が[『?』と思う前にベン・ケーがポンポンと湿地に酔っ払いを投げ込んだ。
ヴアアアアアアアー。
水辺で休んでいた万を超える水鳥の群れが一斉に飛び立った、静まった夜更けに羽音が響き渡る。
あぁ勘違い……。
両軍、羽音を
…………夜が明ける頃、平氏の陣はどこにも無かった。
源氏の陣は辛うじて健在であった。
そんな噂が
「我が力を見たか!平氏など恐るるに足らぬ、坂東武者よ再び源氏の名を知らしめろ!世に我が名を
陣から勝ち名乗りを挙げる男、
HAHAHAHAHAHA!
なんだか解らないが、皆が楽しそうなので、上機嫌のベン・ケーであった。
この男が一人で、富士川の戦いを収めたことは誰も知らない。
本人すらも……。
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