第3話 山賊 三郎 三つ巴

義経が目を覚ますとベン・ケーはまだ寝ていた。

ZZZZZZ……と外人特有のイビキが響く朝である。


逃げれると思ったのだが、昨日のことを思えば、どうやら悪鬼あっきではないようだ。

おそらく、平家の追手も手を出さなければ、斬られることは無かったと思う。

追剥おいはぎのようなことをしながら生きているのだろう。

金が無ければ、あんな高価な菓子を持っていることはないはずだ。


とはいえ、平家の追手を全滅させたのだ、このままでは済まない。

まして、みなもとを名乗った以上、本気で捕りに来るはずである。


ベン・ケーも無関係では通らない。

巻き込んでしまったのだ。


そんなことを考えていたら、ベン・ケーが起きてきた。

Boyボーイコレ ウリニイクヨ」

嬉しそうに、刀をポンポンとカゴに放り込む。

Let's Goレッツゴー!」

また、肩に義経をヒョイと乗せ、街へ歩き出す。


街で昨晩『追剥おいはぎった』刀や鎧を換金したベン・ケー、いい値でイイネとばかりにホクホクの笑顔である。

「タクサン マニィMoney マニィMoney Happyハピーネ」

帰りは、義経の手をとりブンブン振り回しながら大股で歩く、それだけで義経の肩が外れそうなくらいガクンガクン上下にUp Downを繰り返す。

スキップなんかしようものなら、もはや命を危険を感じるほどだ。

(殺される!やっぱり殺される!)


「ココデ、Lunchラ~ンチ

急に止まるものだから、義経がブンッと前に放り出される。

左手が引っ張られて、ゴキンと肩が外れる義経。

「グッ!ムムムムッ」

うめくような声、ダラリと左肩が不自然に伸びている、いや義経本体が

泡を吹いてのびている。

「HAHAHAHA!Crabクラブ(カニ)マネ Goodグ~ッドネ!Goodグッド!」


「ゴメンソウロウ!シャケメシ クダサイ」


義経が目を覚ます頃、目の前に焼き鮭定食が運ばれた。

左肩の激痛が止まないが、腹は減っている、ベン・ケーに促されるまま飯を口に運ぶ義経。

満足そうに微笑むベン・ケー。

(それにしても、馴染んでいるものだ)

異様な外見の黒い大男を、誰も奇異な目で見ていない。

(都とは、かくも寛容なものだ)


「いたぞ!」

メシ屋にズカズカと入ってくる、検非違使けびいし昨夜の山賊まがいの追手とわけが違う、一応の訓練を受けている統率ある集団である。


ベン・ケーと義経の周りをグルリと囲み、刀の切っ先を突き付ける。

Lunchラ~ンチジャマ マダ Boyボーイタベテマ~ス」

ちゃぶ台を叩いて、立ち上がるベン・ケー、壊れるちゃぶ台、床に落ちたメシ、

身体を支えられずに床に顔面を打ち付ける義経。

(もう泣きたい……)

Boy!ボーイ!Are you OKアー ユー オ~ケ?」

「アイッテ……おけ?」

(桶とはなんだ……)

「Oh~チ ガ デテマス、OK アリマセン」

ベン・ケーの顔色が変わる、いや黒いので正確には解らないが、明らかに怒りを宿した目だ。

「Boy《ボーイ》ケガ シマシタヨ!」

瞬殺!7~8人いただろうか、素手で瞬殺……。

薙刀はいらなかった、検非違使けびいしの一人を両手で振り回して全員なぎ倒したのである。検非違使けびいしの数より、床に倒れた人数が若干多く見えるのは不幸な結果である。

義経は思った。

(怪我は全部、お前のせいだ……)


「ベン・ケー!逃げるぞ!」

「ニゲル?Oh~ Dashダッシュ!HAHAHA Boyボーイmischievous boyミスチボ~スボーイネ クイニゲ ジョウト~ウ」

左肩を庇って走る義経の横を,HAHAHAHAHAと笑いながら並走するベン・ケー。

義経、逃亡の始まりであった。


承安じょうあん四年 1174年 義経14歳の春であった。


都を離れ、逃亡者らしく北へ、北へと8ヶ月、承安じょうあん五年 雪積る蝦夷えぞの手前、本土の果てである。


辛かった……、追手から逃げ、山賊に襲われ、都度ベン・ケーが立ち回り、追剥おいはぎり、路銀ろぎんに変え、なんか追剥稼業おいはぎかぎょうに慣れつつ、奥州おうしゅうまでやってきた。

この関所を超えれば、平家の力及ばぬ平泉の地である。


関所に人影は無く、門は開けっ放し、『奥州は侵さず、侵されず』藤原秀衡ふじわら ひでひら北の王、自信の表れである。


「この門は、ただではくぐれないぜ」

THE 野党!みたいな無精ひげの男、

「どうせ、罪人ざいにんだろう!通行料を収めるか、それとも身ぐるみ剥がされるか、好きな方を選べ」

「門番には見えぬが、野党崩やとうくずれに払う金などない!」

威張って見せたが、本当に金は無いのである。

そこへ、馬のいななきと共に現れる侍、

上野こうずけの野党、伊勢三郎いせ さぶろう!今日こそ討ち取る」

「ちっ!」

三郎と呼ばれた男が舌打ちで応える。

平家の侍5名、どうやら野党討伐に関所まで出向いたようだ。

「そこな下郎、野党の仲間か?」

「いえ、関係ございません、旅のものです、今、野党に襲われていたところです」

義経が道を譲ろうと端に避けた矢先、

HAHAHAHAHAとベン・ケーが平家の侍を串刺しにした。

Boyボーイ!ゴハン タベレルヨ Rabbitラビッツ モウ アキタヨ」

「ベン・ケ~」

がっかりである。

野党10数名も混ざり乱闘の末、ひとり立っていたのは、黒い筋肉ダルマであった。

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