◇道化の提案



 火属性───その上位互換の炎属性───を得意とする魔女ラヴァイアは当たり前のように環境補正を利用し、風属性を熱風として放ち炎魔術を煽り燃やした。

 さらには爆破魔術という中々に神経を削る繊細ダルさの魔術までも織り交ぜ、わたしの予想を遥かに越えた詠唱速度を披露した結果、わたしは見事見事にぶっ飛ばされた。


 ここでわたしに新たな予想......というより、期待以上の結果が。

 爆破と炎をモロに受けたわたしの状態は勿論無傷とはいかないが、全然余裕、、、、な状態。

 てっきり爆破女帝にやられた時と同じ状態に陥ると覚悟していたが───この【四大装飾しだいそうしょく】の炎や熱に対しての耐性は異常すぎる働きを見せてくれた。


 耐性系マテリアってのはここまで凄いのか、と自分の中にある評価を改めながら、地属性魔術で地面を軽く加工して作ったシェルター風な盾で自分を覆い、いかにも “魔術で吹き飛んで瓦礫に潰されてます” 感を出す事に大成功。このまま死んだふりをぶちかまして状況の把握と理解......自分を落ち着かせる戦法だ。


 ラヴァイアはワタポを前にしつつ、意識は奥のクソ眼鏡に向いている。

 クソ眼鏡のフローは影技でカイトとトウヤをぶっ刺したが......まだ影を完全に制御出来ていないのか、とりあえず2人は死んではない。


 さて......状況はクソだるだ。

 魔女が2人いる時点で舌が弾け飛ぶ程の舌打ちを鳴らしたいというのに、場所が場所だ。魔術でゴリ推しすれば崩落する恐れがメラメラと燃え上がるイフリーの地殻。かと言って地上まで引っ張り出すのも危険。

 ここで上手く対処しなければならない。


「じーーーっ......」


 死んだふりをしているわたしをわざとらしく「じー」と言いながら見るフローにイラつきながらも、わたしは舞台女優ばりの死んだふり演技を続行していると、


 ───死んだふりナリか? 隠蔽魔術も使った方がいいナリよ?


 と脳内に言葉が投げられ、不意打ちの闇魔術に一瞬びびってしまった。


 ───なんだテメー、突然うるせぇな!


 反応しつつも内心では戸惑いが沸騰している。

 昔はどうあれ、今現在フローは敵であり、一番ウザいヤツだ。この状況で初級クラスの闇魔術をわざわざ使ってコソコソ話をしてきた事がもう予想外の域を越えている。


 ワタポはラヴァイアを睨み、カイトとトウヤはダメージを負いながらもフローから眼を離さない。


「グヒヒ、驚いた《びっくした》ナリ? わたしも影撃ぃ〜! グヒヒ」


 と眼の前の2人を挑発するような発言をしつつ、フローはわたしへ声を響かせる。


 ───ラヴァちゃんはイフリート狙いだっちゃ。勿論契約狙いでなく、強奪狙いナリ!


 現状況を長引かせるようにフローは振る舞いながら、どうしてかわたしにそんな情報を流す。

 ラヴァイアの狙いが火の四大イフリート......というのは納得出来た。ラヴァイアが火や炎に特性を持っているからこそ、同じ属性の四大を手に入れたい......って所までは理解出来るが、契約やら強奪やらがよくわからん。特に強奪が。


 ───契約っつーのはあれだろ? 四大と契約すりゃ自分に四大が力やら知識を貸してくれるってノリだろ? 強奪ってのは?


 ここは素直に会話に応じるべきだ、とわたしは判断しつつラヴァイアとワタポの動きに気を向ける。

 ワタポは動かず、ラヴァイアもフローを警戒してか下手に動かない......ワタポに闇魔術を飛ばして現状維持を伝えるべきか? と考えるも、魔術を使った事がラヴァイアにバレれば全てがバレてしまうので、ワタポを信じるしかない。


 ───契約はそうナリ。まぁほぼ不可能だと思っていいっちゃ。んで強奪は文字通りの強奪。ラヴァちゃんは拘束系魔術の上級にある監獄魔術でイフリートを盗むつもりだっちゃ。エミリオちゃんなら何で盗むかわかるナリね?


 気持ち悪い笑い声を響かせながら言ったフロー。その声が異常にイラつきを加速させるがここは大人エミリオとして耐え、ラヴァイアがなぜイフリートを強奪しようと企むのか考えた、答えは爆速で出た。

 契約は不可能。これを前提に考えると、すぐわかる。


 ───四大を隔離......イフリートっつー存在を除外するためか。


 ───正解ピンポーン! 地界四大は魔女にとっても相当に厄介って事だわさ。


 魔女から見ても厄介な存在の四大......それを除外する感覚で奪って、あわよくば利用出来れば魔女にとって最高の武器になる。

 多分ラヴァイアはここまで考えてる。いや......もしかすると天魔女クソババアの指示かもしれない。アイツなら四大を屈服させるくらいやりかねない。


 なら、


 ───......お前はなんで地殻ここに来た? お前もイフリート狙いか?


 フローコイツは何しにここに来たんだ?

 ラヴァイアと同じ目的ならこんな所でダラダラしてる暇はないし、わたしがフローで目的がイフリートなら、ラヴァイアをここで消そうとする。でもアイツはそれをする素振りがない。


 今この場で最も謎なのが、フローの存在だ。


 ───わたしはイフリートにご挨拶しに来たっちゃ。ついでに手札拾いって所ナリね。


 ───挨拶? お前の挨拶って襲撃じゃねーの?


 ───うはー! 酷いナリねぇ! 人を挨拶もまともに出来ないヤツみたいに! でもまぁそうナリ! 今回は襲撃でなくて宣戦布告だけども、グヒヒ。


 ───あ? 何企んだんだテメー、いい加減黙って座ってろよ。


 ───んやんや逆ナリ! いい加減黙って座ってるのを辞めたって事ナリ! ちゅー事で! 朗報ナリ!



 闇魔術での会話はそこまで長くなく、これ以上続けると停滞したままの現状にラヴァイアあたりが違和感を持つ。

 それをフローも理解したからこそ、本題と言わんばかりに朗報を、提案を打ち出した。


 ───わたしとエミリオちゃんで一旦ラヴァちゃんを排除しないナリ?


 ───はぁ?


 ───手を組んでラヴァちゃんをここから追払おっぱらうって事ナリ!



 その提案はわたし達にとってもプラスと言えるが、マイナスとも言える───いや、信用度が相当低く危険と言えるものだった。




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