◇宝石魔技



 わたしの知る限りこの世で最も信頼度に欠ける相手は───このグル眼魔女フローだ。

 魔女界にいた頃から信頼度という点では胡散臭さがあり、欠けていたが......実力という点では天魔女にも匹敵する。だからこそ、フローが提案した共闘には大きく心が揺らされる。

 【紅玉の魔女】ラヴァイアは宝石名持ちの中でも4人にしか与えられない【四大魔女】の称号を持つツワモノ。それもただのツワモノではなく、今この場において最も有利な存在。


 現状だけではなく、珍しく先も少し考えたわたしは、


 ───いいぜ、ラヴァイアを撃退するまで共闘してやる。


 共闘を選択した。


「───グヒヒ、今のチミ達に用事はないっちゃ。下がれ下がれ」


 フローは闇魔術を解除すると同時にカイトとトウヤへそう告げ、妙にムカつくグルグル眼鏡をラヴァイアへ向け、


紅玉ルビーちゃん! なんでここに来たナリ?」


 ラヴァイアへ話しかけた。この隙に絶賛死んだふり中のわたしはワタポ、カイト、トウヤへ闇魔術を繋げ、


 ───魔術で直接連絡ちょくれんしてる! 返事はいいから聞いてくれ!


 と有無を言わさず言い、フローとの共闘を伝えた。

 信用度は低い───いや、無い。だからこそ、いい。

 半端に信用度があったりヌルい関係なら、優しさの塊であるわたしにも迷いが生じるだろう......だが、フロー、テメーはカスだ。

 ラヴァイアを撃退出来た瞬間にお前は敵、つまり、その瞬間からわたしの攻撃対象になる。


変彩アレキこそ何してるの? 魔女あたし達を裏切っといて、魔女あたし達が行きそうな場所に来るなんてらしくない......とは思わないや! だって魔女イチの変わり者だもんね、変彩の魔女アレキサンドライトは』


 相変わらず魔女語で対応するラヴァイアにいよいよ違和感を感じる。わたしもフローも魔女語を使っていないのに、なんでわざわざ......ワタポ達に理解されても問題ない内容だし......。


変彩へんさいの魔女の名前は返済へんさいしたナリ───グヒ」


 得意の無意味魔術───星をぽかん、と生み出す魔術と共に変彩返済かけし、フローは戦陣を切る。

 ラヴァイアに負けない速度の高速詠唱で水魔術を炸裂させ、ラヴァイアも勿論対応する。

 ここで、


「───先行け!」


 死んだふりから復活すると同時にワタポ達へ叫び、その前に爆速詠唱していた下級魔術を放つ。


 わたしの作戦はこうだ。

 まずここでわたしとフローがラヴァイアを相手にする。

 その間にワタポ達が先へ進みひぃたろハロルド達と合流し、戻る。

 全員でフローを叩く。


 イフリートに用事があるならここを破壊するような真似はしないだろうし、そんな事をすればイフリートは黙ってない。


『エミリオちゃんピンピンしてるし! って、どこ行くのキミ達!? あーもぉー! めんどくさいなぁ───』


 フローを相手にしつつわたしも背後から下級魔術を乱射、ラヴァイアはワタポ達にも気を向け、ついに【四大魔女】の片鱗を見せる。


「───スピネルフィア!」


 ローブに隠れていた腰の短い杖を抜刀するように抜き、杖先をワタポ達へ向け人語、、をクチにした。

 今まで魔女語を押し通してきたラヴァイアがここで人語を。


 スピネルフィア、という言葉と同時に短杖の先に魔法陣が開花され、そこから火球が数発放たれた。速度は下級魔術よりも速く小さい。

 無詠唱にも等しい───実際は技名らしきものを叫んで発動されている───それは見た感じ威力は低い。が、発動も火球もとにかく速い。


「気にせず進め!!」


 今更魔術での対応は間に合わない。しかし、剣での対応なら間に合う。

 わたしは振り返りそうな3人へ叫びながら地面を蹴り、左手メインの剣で突進系の剣術を使い火球へ一気に迫りひとつを斬り捨てる。残りの火球は3つ、ふたつ目は右手サブの短剣で単発剣術、みっつ目とよっつ目は左手の剣で二連撃剣術を使い全て潰す事には成功したが、剣から全身へ伝わった衝撃......手応えから予想するに、剣術レベルの攻撃じゃなきゃ破壊出来ない程度にはこの魔術モドキにも威力はある。


『あぁー! もぉ! なんで魔女なのに剣なんて使ってるのエミリオちゃん!』


 わたしへ苦情を言いつつキッチリ詠唱を済ませ魔術を飛ばしてくるラヴァイア。炎属性上級魔術を会話の隙間で詠唱してくるあたり、流石は宝石魔女だ。

 さっきの火球とは比べ物にならないサイズの火球が空気を焼き進む。上級水魔術で相殺している最中に今度はフローがラヴァイアの背後から地属性上級魔術を飛ばした。

 炎、水、地の魔術が出揃うだけで派手だというのに、その全てが上級。さらに全員が “自分以外死んだも構わない” という姿勢ときたら派手さは何倍にも膨れ上がる。


 炎と水が濃い水蒸気を散らし、その影からフローの地属性魔術がわたしにも迫ってくるからウザったい。フローアイツは始めからわたしを巻き込む形で魔術を使っていた事くらいお見通しだが、いざやられると結構......いやカナリ腹立つ。


「おい! クソ眼鏡!!」


「ガーネットフィアンメ!!」


 わたしは魔剣術で、ラヴァイアはさっきとは違う人語でさっきより威力が高いであろう魔術モドキでフローの岩槍を対処し、互いに距離を取る。

 連撃系を叩き込まなければ破壊出来なかった岩槍の強度から見ても、共闘と言いながらまとめて掃除する気満々なクソ眼鏡。

 そんな岩槍をガーネットフィアンメとやらの炎で焼き砕いたラヴァイア......さっきのといい、今のといい、一体何なんだ?



「ごめんナリぃ〜、でもわたしの射程にいる方が悪いっちゃ!」


 全く悪びれる様子のないフローはニヤニヤ笑いながらわたしを見た、かと思えば緩んだクチを閉じラヴァイアへ。


「...... 紅玉ルビーちゃん、さっきのは “魔技マギ” ナリね?」


「......まぎ? なんだそれ?」


 まぎ、と呼ばれた “人語で執行する魔術モドキ” の正体を問い詰めるように、わたしもラヴァイアへ視線を突き刺す。



変彩アレキはやっぱり知ってたんだ、つまんないなぁ』


 ふてくされるように言った直後、ラヴァイアは短杖を振り、


「スピネルフィア」


 わたし達に見せつけるように “まぎ” を使ってみせた。


 やはり無詠唱───スピネルフィア、という魔術名のようなものが詠唱扱か。


『これは宝石魔技。まぁ魔技マギってみんな略すかな』



 紅玉の魔女は得意気に言い、短杖をご機嫌にクルクル回した。



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