◇能力理論への違和感



 地上───イフリー大陸では他国から支援物資を受け取り、いつ現れるかもわからない魔結晶塔マテリアルタワーに備える。

 未だにその存在を信じられない者が多く居るのは無理もない事だろう。

 四大と魔結晶塔も、もっと言えばごく最近までシルキ大陸も、御伽話の世界だったのだから。


 目に見えないもの、存在を認知できないものを信じる方が難しい。

 それでも、ここまで大規模な動きを認知出来てしまえばもう “御伽話” として流し笑う事は不可能となる。


 各々が自分自身を納得させ、イフリー大陸は備える。





 四大装飾のおかげでわたし達はマグマが沸騰する地殻を進めていた。勿論マグマの上を歩いているワケじゃないが、川のように流れるマグマを見ながら歩ける謎の贅沢───を堪能する時間はないらしい。

 地殻とやらは単調な道で、進むか戻るかの二択だったが、ここに来て下へ向かう道も現れた。


「どーすんだ? 今の時点で地上より下なのにまだ下さがんの? てかこれ以上下にさがって大丈夫なのか?」


 わたしは自分で何を言っているのかわからなくなる程、上だ下だでこんがらがる。


「んんん? 上とか下とか......よくわからなくなるよ......」


 魅狐プンプンもわたし同様に上下意思をバグらせ、わたし達はおとなしく黙る事にした。

 幸いこのメンツは問題を丸投げしてもなんとかなる。


「今俺達が居るこの場所は地殻、、だ。さらに下はおそらく......地脈、、へ向かう事になる」


 黒革を両眼に巻いたトウヤがそう予想するとカイトが一歩進み能力、、を披露する。


「俺が少し調べて見る」


 カイトは自身の影から真っ黒な狼───影で作られた狼───を具現させ、それを自身の影から切り離し下へ向かわせた。


「へぇ......貴方の能力も影関係だと聞いていたけれど、そんな事も出来るのね」


 半妖精のひぃたろハロルドはカイトの能力を見て素早く脳内にメモするように感想を呟いた。

 考えてみればカイトの能力をこうして、落ち着いた状況で観察するのはわたしも初めてだ。


 トウヤもカイトもという共通点を持つ能力......。

 能力は “持って生まれたもの” であり、それが生涯で必ず開花するワケではなく、持っているのに気付く事なく生涯を終える事もザラにある。能力内容も開花しなければ不明......、

 みたいな事を長年言われているが......もしかしたら、いやわからないが───能力の中身は育った環境や精神状況で決定する、って事もありえるのか?

 血統ももちろん関係していると思う。

 でもそれが全てではない、のか?


「なぁカイトヘソ、わかんなかったらいいけど、お前の親や家族......血統ってどうなってる? トウヤもわかるか?」


「いや......俺もトウヤもデザリアのラビッシュで育った。親もわからない」


「ラビッシュで生活していた奴等は必ず検査される。血液や粘膜、他にも様々な検査をされて病気持ちかどうかを調べる。そこで俺とカイトは完全に他人である事も判明する」


 わたしの質問へトウヤは勘を回し、情報提供してくれた。

 この二人は完全に他人───家族や血縁ではないが、能力の媒体は同じくとなっている。

 偶然そうなった、もじゅうぶんあり得るが納得するには偶然だけでは難しい。


「............」


「......なによエミリオ」


 次にわたしはリピナをガン見した。


「んや、何でもねーよ」


 リピナの能力は、触れた対象の状態把握、というもので、どこがどう悪いのかを触れるという条件で瞬時に把握出来る。

 この能力も考えてみれば “リピナが生活する環境” で大きなプラスになる能力だ。

 治癒術師であり医者でもあるリピナにとって瞬時に患者の状態を把握出来る強みは大きいだろう。


 わたし、プンプン、の能力はほぼ確定で血縁、系譜、それらからの派生だ。

 ワタポ、ひぃたろハロルドの能力は突発的にそれが覚醒した系の、言わば能力理論通りと言える───ひぃたろハロルドは例外でもあるが。


 しかしこの三人、カイト、トウヤ、リピナの能力はあまりにも......性質や効果がランダムとは思えない。むしろそれを望んで手にしたとも思える。


「───!? 影が消された」


 わたしが持つ天才的知識を総動員し、能力について考えていた所でカイトの影に反応が。


「......。それじゃあ真っ直ぐ進もお! 下は危ない気がする!」


 だっぶーは一瞬カイトの影を見て、下へ進む事を諦めた。

 なぜカイトの影を見たのか、妙に気になりながらもわたし達はとりあえず前へ進んでみる事にした。





 エミリオ達が地殻を進み始めた頃、地脈では、


『───げふっ』


 グルグル眼鏡の魔女が腹部にあるグロテスクな大口から影の余韻を溢していた。


「うんうん、フレームもステージも2ってトコだっちゃ」


 カイトの影探察を発見した【フロー】は腹部の大口でその影を捕食し、ゲップするように堪能していたのだ。


 そして───、


「そいっ!」


 自分の影の一部を小さなネズミ型へと具現させ切り離す。

 そのネズミ影を今度は自分の足で踏み潰し、


「なーるほど」


 何かを知ったように、または予想通りと言わんばかりに納得し、新しい玩具を手にした子供のように笑っていた。


「使いを出せるナリかなぁ〜?」


 今度は影の一部を小さな虫へと変え、それらを岩の隙間から外へと向かわせる。


「グヒヒ、結構良さげな能力拾ったナリ」


 ご機嫌に笑い、フローはエミリオ達が向かっている方向へと地脈から向かっていた。



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