◇曇り空と
たった1日で大きな変革が地界に訪れた。
イフリー大陸が他三大陸と同盟する。という誰も予想さえしていなかった出来事が飛び込み【地界】は落ち着きなくざわつく。
ノムー、ウンディー、シルキ、イフリー。
それでもイフリー大陸の統括は豪快に、どこか愉快に言い放った言葉。
───不満があるのは当たり前だ。気に入らないなら引きずり降ろせ、ほしいなら奪いに来い。その場合は歓迎してやる。
と、宣戦布告にもとれる石を投擲し波紋は大きく拡散された。
表面上は【地界】の連合に参加しつつ、隙あらば丸ごと戴こうという考えではないか?
そもそもイフリーは大陸、国という規模に思い入れがあるのか?
自国を含めた【地界】を丸々投げるように【外界】の連合に加入するのではないか?
など、様々な憶測が飛び交う。【外界】に連合と呼ばれるものが存在するのかさえ不明だというのに、誰もその点には視野思考を向けずただイフリー大陸を “敵” と確定させるため憶測に憶測を練り込む。
この話題は当たり前だが既に【地界】全土へ広がり、話題が話題を沸騰させる現状。
一度は誰もが
【地界】がいつまでも個として隣国を睨んでいたり、実態を隠し通している様子では夢のまた夢......いや、現実的に不可能───だった。
その不可能が荒削りでイビツでも確かな形となり現実に。その現実が人々に期待と同じ量の戸惑いを与えている。
そんな世の中で、
丸帽子の魔女エミリオは───
◆
たった数枚、数ページを情報
やる気が感じられない。こんな少量な情報を【皇位情報屋】ともあろう者が商品として扱っている時点でもうアレだ。なんか、とにかくアレなんだ。
未読メッセージのランプが点滅するフォンで情報屋キューレが発刊配信している【不定期クロニクル】を一通り見て、地界情勢の記事しかなかった事に残念さを感じつつも、わたしの中に大きく色濃く残っている魔女族の
キューレの記事───フォンページを閉じ、未読メッセージを一通り開く。そこには『炎塵の件は解決しました』とワタポからのメッセージが入っていた事に今度は大きく安心し、フォンをブラックアウトさせ放る。
ダプネの強制的な空間魔法てイフリー大陸からウンディー大陸に飛ばされた。
あのままイフリーに残っていたらわたしは......ダプネと共闘して
でもそれは昔の話だ。
今のダプネは......わたしの───敵だ。
雨の街ではルービッドのギルメンを殺し、霧薔薇竜にも死を......確かにシルキでは助けられたし、イフリーでも微妙な感じの立ち位置で............
「............そもそも
現時点では魔女族にとっては裏切り者。
地界にとっては【クラウン】メンバー......つまり敵だ。
しかしクソ眼鏡の仲間という感じがあまり感じない。
わたしに一緒に来いと言っていた。虚無ってのを探すとかどーとかも............何がしたいんだ。
考えた所でわかるワケもなく、わたしは窓を優しく叩く雨粒を意味もなく見詰めた。
空間魔法に投げ出された先は湖で、それがウンディーで、雨の街【アイレイン】の近くだった。
気力なく沈んでいたわたしも流石に酸素が減って苦しくなって湖から必死に上がった。そのままずぶ濡れ状態で雨の街に入り、適当に宿を借りて今に。
初めてこの街に来た時は......普通に綺麗だと思った。
天気がいいのに雨か降っていて、虹がかかって、雨粒に反応して奏でられる楽器があって、街の人達は傘や雨合羽もファッションアイテムとしてこだわっていた。
雨ってのはただそれだけで気が滅入るものだ決めつけていたわたしにとっては驚きの街だったのを今でも覚えている。
「............外でも出るか」
宿に籠もっているとどうにも嫌な事ばかり考え思い出してしまう。
傘くらいなら宿屋で借りれるだろうし、適当にぶらぶらする事にし傘を借りにカウンターへ向かった。すると宿屋の店主が今日の雨は少し強いとの事でレインブーツもオススメしてきたので傘とセットで借り、剣と短剣、上衣、タイツとブーツもフォンポーチへぶち込み、イフリー仕様にしていた袖無しの中衣を長袖に変更した。
帽子が手元にないうえに、髪を束ねるのも面倒臭いしそのままで街を散歩する事に。
宿屋の店主が言ったように、確かに雨は強い......というか天気が曇りだ。それでも街の人達は普段通り生活している。
普通......なんだよな。これが。
危険なんて無い街中で仕事をして、暮らして、生活するのが普通なんだ。
わざわざ危険な所へ出向いて痛い思いや辛い思いなんてしなくても生きていけるんだ。
もし今、世界がおかしな事になっても───自分ではない誰かが必死になんとかしようと行動するんだ。自分がわざわざ行動しなくても、いいんだよな......。
「にゅぅぅ......雨は苦手ニャ」
「
「じゃあ何でついてきたのよ......」
「うにゃぁぁ〜世界が毎日回ってるニャぁぁ」
ふいに声が、知った声がわたしの耳に届き、その方向へ曲がると───、
「───お前ら......何してんの?」
そこにはやはり知った顔が。
雨を鬱陶しく思っている2人が
世界の回転を堂々訴えているのが同じく猫人族の【リナ】でほぼ酔っている酒猫。
3人を呆れるように見ていたのがギルド【白金の橋】のマスターであり凄腕治癒術師でもあり、医者でもある【リピナ】だ。
「エミリオ!? なんでここにいるの!?」
わたしを見るやリピナが驚き声と共に言葉を。
イフリーへ言ったハズのわたしがウンディーの、それもリピナの故郷にいるとなれば驚くのも無理はない。
「色々あったんだよ。それより何してんの?」
「
「俺は荷物持ちニャ」
「私は酔っ払いニャ」
ゆりぽよ、るー、リナの順番で答え、最後にリピナが、
「私は薬の素材を買いに来たついでに
挨拶、というのは───リピナの姉ラピナと、リピナの親友ルービッドの墓参りだ。
「そうだな、目的もなかったし挨拶するのもいいな。一緒に行く」
買物前に挨拶───墓参りへ向かう事になり、5人でアイレインの奥へ進む。街の復興は完全に終了し、観光客などが訪れない奥地に墓地が建設されていた。灰色の十字架が並ぶ中に赤色の十字架とふざけた形の十字架が目立つ。
「おいおい、いいのか? あんな派手な墓......」
「いいのよ。ルビーなら絶対赤がいいって言い張るだろうし、ラピ姉ぇなら派手にデコってって騒ぐだろうし、これでいいのよ」
言われてみれば確かに、ルービッドは赤色の墓を強く望みそうで、ラピナは墓だというのに派手にキメそうだ。
わたし達は十字架の前で止まり、リピナがフォンポーチからシルキ産の線香を取り出した。
シルキ大陸との関係が築けてから様々な文化が取り入れられ、ウンディーでもこういった文化が広まりつつある。
死者には花と線香を。
シルキでは当たり前らしいがウンディーでは珍しい独特な香りが雨の香りと混ざり合う。
「......───よし、買物行こうか。エミリオはどうするの?」
「あー......バリアリバルに戻るのもアリだな。一緒に行くわ」
有無を言わさず飛ばされた身としては、どの街にいても別に目的など湧かない。それならとりあえず拠点として利用しているバリアリバルに居た方が都合が良さそうな気がした。
曇り空の下、自分の胸の中も似たような状況だな、と少し呆れ笑いを浮かべ4人に同行する事を選んだ。
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