◇フレームアウト 2
しかし、使えば使うほど、能力に呑まれる。
段階的に能力フレームが上がり、必ず壁に到達する。その壁を越え、限界点を突破した能力は突破や突破能力、覚醒、などと言われ、能力に呑まれる───フレームアウトの心配は無くなると同時に次はロストの心配が浮上する。
実際にロストを心配するよりもフレームアウトを心配───恐れる方が圧倒的に多く、生涯でロストを体験する能力持ちの方が稀。突破したとしてもロストする前に寿命や事故などで命を落とす結果が圧倒的に多い。
能力に呑まれる───フレームアウトした時点でその者は討伐対象となる。
これは地界だけではなく、能力を持つ者全員に対してついて回る絶対的なルール。どうにか呑まれず突破に成功した場合は討伐対象外となるが、そう簡単な話ではない。
「呑まれるって......どうしてそんな事わかるんだ!?」
少女メティの言葉にカイトは質問をした。誰もが思う質問を向けた。
本来、能力の進行度合いは本人か能力に詳しい者しかわからないうえに、明確なタイミングなど本人でも中々見極められない。後者の場合は主に魔女や悪魔などで、その中でも能力というジャンルに歪んだ興味を示し、膨大な知識と深い理解力を持つ者のみ。
メティは悪魔でも魔女でもなく、メティ自身は能力に対して知識も興味もない。
それでもわかる。
「マナが切れそうなくらい細くなったと思ったら、マナが膨れ上がった───って。さっきの人の能力ってマナ依存でしょう?」
誰かに聞いた、というような言い回しにカイトとだっぷーは困惑するも、嘘をついている雰囲気は全くない。
「マナ依存かはわからない......けど、本当に呑まれ───フレームアウトするのか!?」
嘘をついていないのはわかる。が、にわかには信じられない。カイトは疑いではなく明確な何かを探すように質問を続けると、少女は深い呼吸を一度入れ、眼を閉じた。
「!? カイトぉ! 女の子の髪が......髪だけじゃない......!」
「コレは......変化系能力?」
茶色だった髪は微量の青を銀に足したような銀髪に変色し、頭には猫よりも長く犬よりも細い耳のようなものが。雰囲気が大人びたせいか顔つきもどこか大人の気配を漂わせ、背後には扇状に広がる幅広の───四本の尾。
閉じていた眼には赤色のアイラインと眼下に同色のラインが線を走らせる。
「───初めまして、になるのかな? 私はメティじゃなく
それは静かな水面に波紋を起こすように大胆に現れ、波紋が静まったかのように落ち着いた声音で言った。
「な......変化系で人格まで変わった?」
「そんな事あるのお!? それに魅狐って......プンプンちゃんと同じだよねえ!?」
驚くのも無理はない。
まず、魅狐という時点で驚きは大きい。シルキ大陸の
現在、生き残っている魅狐はプンプンただひとりであり、彼女以外の魅狐の生存を予想さえしていなかったカイトとだっぷーは驚かずにはいられなかった。
そして、変化系能力でありながらも人格そのものが変化する現象。
能力により性格が人格レベルで変わる者は珍しくはないが、メティ───
「私の話は別の機会にした方がいいよ。それより、さっきの......千秋ちゃん、だっけ? 彼女は能力に呑まれる。私は水の魅狐でマナや妖力、魔力も含めて、対象を見れば
プンプンには出来ない芸当───対象を肉眼で見た際にマナ、妖力、魔力の動きで状態を感知する技術で千秋を見た
能力の状態を見極めるのは自分でも難しく、他人となれば不可能に近い。しかし、不可能に近いだけであり、ある領域に達した能力状態は
おそらくプンプンが今の千秋を見ても「何かとてつもなく大変な事が起こる」程度には感知出来るだろう。エミリオやひぃたろ、ワタポならばハッキリと「フレームアウトの前兆」を見抜く。
それだけ大きな変化が今の千秋に発生しているが、カイトはそういった変化を感知する技術を持ち合わせていないうえに瀕死の状態だった。だっぷーはそんなカイトを助けるために錬金術に集中力を注ぎ込んでいたので、変化に気付く事が出来なかった。
フレームアウトしてしまえばカイトも、錬金術を執行している最中のだっぷーも気付けるレベルの変化が拡散されるが、まだフレームアウトしていない、内側で膨れ上がっている状態。
「千秋ちゃんの能力って......操作系?」
「たしかそう! エミーの話だとシルキではおっきい鳥を操ってたとか!」
「操作系......操作対象が鳥などの動物なら、フレームアウトした場合、能力範囲内の動物を無差別に無理矢理操作する確率が高い。とにかくフレームアウトは確実に起こ───......」
「「───!? 」」
メティとは全く違う雰囲気───落ち着いて状況を瞬時に把握し、仮設を素早く並べ最も可能性が高いものから浮上させる
今度の変化にはカイトとだっぷーも否応なく感知させられた。
膨らんでいた風船が破裂するように、中の空気が一瞬で拡散するように、不安定なマナが拡散した。
「......私が見た時点で既に手遅れだったけど、今、フレームアウトしたね」
◆
裏路地でそれは静かに破裂した。
能力の限界を、一線を超えてしまった千秋は石畳に両手をつけ、自分が自分ではない存在に塗り替えられて逝く恐怖が容赦なく彼女の中を廻る。
「う、あ、」
喘ぐような声が喉から押し出され、意識の糸がピンと張り詰める。微かな刺激で簡単に切れてしまいそうな意識の糸を必死に掴み留めている中、彼女の前でゆっくりと起き上がる人影。
「......、、千秋ちゃん。直してくれてありがとう───? 千秋ちゃん?」
バラバラになっていた遺体───テルテルを千秋は能力で直し、起動させたのだ。
千秋の能力は遺体を対象とした操作系。
リリスは魂を縛り付け操作、魂を抜いた空っぽの死体も操作可能。
千秋は魂を本来の遺体に宿したままでしか操作出来ない。
もっと細かく言えば、リリスは糸、千秋は符や印で操作する。
リリスは対象を操り人形に。千秋はキョンシーとして操る。
テルテルに貼り付けられていた符には千秋の血液で操作の条件が書かれていて、その符が離れれば強制的に停止する。
そして今、テルテルに符はない。その代わりに千秋はテルテルを修繕する際に肌に直接、印を刻み込んだ。
印を符ではなく直接刻む。これは能力のレベルが上昇しなければ出来ない芸当と言える。そして千秋の能力水準では不可能な芸当。
それでも彼女は無理矢理行い、成功させた。
自分が立つステージより上に登り、フレームを無理矢理こじ開けた代償が───フレームアウトとしてのしかかる。
「テル、君......助け......、う......う───」
「千秋ちゃん!? どうし......た、、......」
苦痛に全身を強張らせる主を見てテルテルは心配し、何が起こっているのかを考えようとしたが、千秋の「───動け」という言葉を最後にテルテルの思考は停止し意識が途切れた。
「動け動け動けうごけウゴケウゴケ!!」
指先を強く何度も何度も噛み、千秋は周囲にある人の気配───
一番近くにある気配はカイト達───ではなく、デザリア軍の本部である塔を目指しラビッシュから登ってきたトウヤとヒガシンの元へ。
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