◇シャーマンの正体 2
高熱に身体が焼かれる、ではなく、高熱が身体にまとわりつくような違和感と不快感がわたしの意識を引っ張り戻した。
「───......?」
「エミ、無事か?」
「......、、、あぁ。どのくらいピヨってた?」
瞼を押し上げるとバーバリアンミノスのシャーマンがわたしを心配そうに見ていた。身体を動かすと、両腕がマグマの中にあるかと錯覚するのうな灼熱の激痛が頭まで駆け抜ける。
「ほんの数分だ、大丈夫か?」
「ダイジョブくない......感覚を消したい......何かないか?」
この痛みは初めてだ......過去に腕や脚が切断された事もあるし、再生術で繋げる時の痛みも知っているのに、それ以上のこの......強烈な痛みはなんだ? 攻撃を受けた瞬間でもないというのに、痛みが戻っただけで───痛みも全開ではないのに───気絶するとか、おかしいだろ......。
「......これは......無理だエミ。この傷は普通じゃない」
「あァ? どゆことよ......」
普通じゃない......って、またそういう普通じゃない系かよ。わたしの魔術反動は......まぁいいとして、奇病だの何だの、普通が全く通じない系。最近それっ気あるの多くねーか? そういうのわたし
「〜〜〜ッ......あべーかも......」
つい熱くなってしまった所で身体にある火傷も沸騰しはじめる。体温が無理矢理上げられて呼吸という行為さえ意識しなければ上手く出来ない。
シャーマンは一応、気休めにもならないが、と言いながら麻痺薬草をわたしの両手へ貼り付け、体温を下げる実をくれたが、本当に気休めにもならない。
「エミが受けた攻撃は
「......おーおー、随分と、喋るのが上手くなったな......その調子で、王様の事教えてくれよ」
覚醒種の攻撃が特種な何か、なんて今更だ。どうでもいいってワケではないが......どうすればいいかわからないなら別の事をするべきだ。
「そんな事言ってる場合か!? エミは今の状態を」
「どうにも出来ねーから違う事をすんだよ。気にすんな、わたしの悪運は天文学者でも解析不能なくらい高いんだぜ」
何か言いたげな瞳で黙るシャーマンへ、わたしは渾身の強がりで笑ってみせた。笑ってられない状況だが、もうここまで何も出来ないとなれば逆に爆笑してやるのも悪くない。
「前王は......
人が変わったように......そのタイミングで当時のレッドキャップが王をブチ殺してリリスが人形劇してたってワケか。
「王の思考が変わる頃に、私は少女と出会い、ミノスに近い姿にされてしまった。そこからはもう地獄だったよ。自分では話しているつもりでも現実ではうめき声しか出ていない。それを知ったのがデザリア軍を発見し自ら話しかけた時だからもう遅い」
ほぅ......その少女が魔女か。地界に居る魔女......
「私は、新種のミノスではないか? と研究され、デザリア軍は新種ミノスの住処などを捜索するも、そんなものあるハズない。結果私は突然変異したミノスだと判断され、突然変異のモンスターは速やかに討伐が基本───なのだが、あろうことか私を使ってミノスタイプの
「へぇ......それで、お前が他のミノスより、小さくて弱々しい見た目......だけど、知能は高い、か」
「そういう事だ。しかしデザリア軍が作ろうとしていた混合種は私みたいなものではなく、簡単に言えば、変化系能力に近い形で自由に形態変化出来る人間だ」
「......その過程で、人工魔結晶か......」
人間を土台に様々なモンスターや種族を混ぜ合わせる。それで土台に上手く収まった場合は......人間であり混合種、が完成しそうだな。知らんけど。
シルキで知った
シルキは能力に視点を定め、イフリーは肉体に視点を定め、どっちもキモイ研究をしてたってワケか......キモイな。
「私は完全に
「そんなモン求めてるとか、キモイな......」
体温が更に上がり、ぼんやりとし始めるがここで話を切るのは勿体無い。気取られぬよう大アクビ風な深呼吸を挟み、シャーマン混合種の話へ耳を傾ける。
「その後、王が死亡し貴族達が玉座を狙い権力を振り撒き始めた。その裏で今デザリア軍を、イフリーを支配している存在が様々な研究を続けさせていた。その結果───今の軍上層部の半数は戦闘型の混合種、燃焼キャリッジは最低限だが完成し、
「今の支配者って......炎塵だろ? そいつの、詳しい目的、わかるか?」
質問しておいてアレだが、そろそろ限界が近い......。痛みよりも今は、この熱だ。集中して意識の端を掴んでいなければ簡単に落ちてしまう......その集中を天井知らずに上がる体温が外側から徐々に削ってくる感覚。
意識の端を掴む、という一点に集中しつつも、
周囲から集中力を削りにくる体温、へ気を配らなければならない、、、疲れるなんて話じゃないぞ。
「四大陸の支配、これは間違いなく狙ってる。ヤツの言う支配は、女帝の力と混合種兵の武力で様々な種族を押さえつけ従わせ───人間という種族は全員奴隷化させる事だ」
「......? なんで人間だけ?」
「ヤツは......炎塵の女帝は、人間の悪欲が人間を壊れるまで追い詰め追い込んだ結果なんだ。悪欲を持つ人間達はその結果も、現実になるまで微塵も考えなかった」
「もっとわかりやすく言ってくれよ」
「......十数年前にオルベイアの街である女性が行方不明になった。女性の夫が必死に探し回ったが発見出来ず、オルベイアの炭鉱夫達も探してくれたが発見出来なかった。それもそうだ、女性を拉致監禁し、欲を吐き捨てる対象としていたのは一緒に捜索してくれていた炭鉱夫なのだから」
「......はぁ?
「女性は子供を身籠っていたが、炭鉱夫達にとっては気にする事でも無かったんだ。自分達の欲さえ満たせれば他はどうでもよかった......欲というのは満たされれば次が湧き、次が湧き、異常が正常となってしまえばもう手がつけられない。女性はその炭鉱夫達の文字通りの玩具にされ、私達では到底想像出来ない辱めを受け、最終的には壊れた」
「死んだ、じゃなくて、壊れた......か。異常に触れていた女性も異常に侵され、普通では考えもしない事を考え、迷う事なく選択した、か? その選択が......」
「そう。共喰いだ」
「......てか、なんでお前......そんなに、詳しいんだ?」
「それは───私がその女性の、炎塵の女帝の母親だからだ」
母親......、
「面白そうな話してるじゃん」
「「───!? 」」
気配も無く───いや今わたしは感知なんて無理な状態だ。シャーマンも心情的に気配を察知する余裕はなかっただろう......他のバーバリアン共は何してるんだ? んや、それは後だ。今は、この乱入者が誰で何の目的でここに来たのか、そもそもここの存在をどうやって知ったのか......それが最優先だ。
「ソラさん、突然そんな風に話しかけたら驚いちゃうよ」
「ソラねぇあの人! 前に本で見た! えっと......ゾンビじゃなくて、マミー! マミーっていうんだよ! 包帯ぐるぐるのモンスターだ!」
あ? 3人......つーかマミーってわたしの事か!? なんだあのクソガキ、初対面で人の事をマミーって、なんだあのクソガキ! 体温上がりすぎて血管ブチ切れたらあのクソガキのせい......
「お、おい、お前......それ、わたしの右手と武器じゃん!?」
マミー発言に沸騰しかけていたわたしの意識を、産まれた時から一緒の右手がガッチリと掴んでくれた。
持つべきものは右手だな。
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