◇魔女族のやり方



 パーティ①はエミリオ、白蛇、スノウ、トウヤ。

 パーティ②はひぃたろ、すいみん、モモ、だっぷー。

 パーティ③はプンプン、ワタポ、クゥ、カイト、あるふぁ。


 エミリオ達が【首都 デザリア】を目指し岩陰から進み始めた頃、パーティ②は【ジブチアチ】で情報収集を開始していた。

 二つに分けられているジブチアチの観光区ではなく生産区......穀物などを生産しているどこか田舎染みたエリアで情報収集を行っていた所、幸運な事に生産区の住民は皆快く様々な事を教えてくれた。


 まず、今のイフリー大陸は他国の者を【イフリーポート】から先へは進ませない。取引などもそこで全てデザリア軍人が監視の下行われる。

 つまり、今イフリーに上陸している冒険者陣は完全に密入国者となる。

 現在デザリアを指揮しているオルベアの意向により密入国者は即処刑とされる。指揮や意向などという言葉を使っているが、実際は支配という言葉で全て片付く。

 イフリーから他国へ行く場合はイフリー国籍を捨てる事となる。


 思いの外オルベアの支配力は広いものとなっていた。


「目的が四大陸の支配なんて夢見がちな支配と呆れていたけれど、予想外にちゃんと支配してるわね」


 ひぃたろの言葉は褒めではないものの、確かにオルベアはデザリア軍だけではなくイフリー民にも呪縛のような法律を背負わせている。

 ジブチアチの者達がオルベアの文句を一切クチにしなかったのも恐らく呪縛───死罪でも与えられているのだろう。


「それより、こんな服着るの!?」


「お腹出すのはちょっと......」


 シルキのすいみん、モモはジブチアチで入手したイフリー文化の衣服に顔を引きつらせる。


「軍服や民服より踊り子になった方がきっと歩きやすいよぉ!」


 露出度の多い衣服をチョイスしたのは、元イフリー民のだっぷー。確かにデザリア軍服や民間人が着ている衣服よりは動きやすさはある。そしてだっぷーがいう歩きやすさはイフリー大陸を散策しやすい、といった意味合いもある。

 イフリーで男性は基本的に体力仕事、そんな男性を癒す───と言えば聞こえはいいが───のが女性の踊り子達。

 本物の踊り子に紛れ込む事ができるうえ、踊り子は様々な街を巡回するので今のイフリー国内でこれほどまでに歩き回りやすい変装はない。

 オマケとして付与されている【体力消費軽減】【体温上昇抑制】などの特種効果エクストラもあり、日焼けに対しても対策効果を持っている。


「気持ちはわかるけど、これを着ないとバレるわよ? ヘイトを稼ぐパーティはエミリオ達になると思うし、私達はコソコソするくらいで丁度いいのよ」


 まさにそうなるだろう、と3名全員が納得しつつ、すいみんが質問する。


「それじゃあ魅狐ミコ......プンプンさんのパーティは?」


「プンちゃのパテは何か起こらないかぎり何もしないと思うわ」


 これにも納得。

 一番フットワークが軽いパーティでありながらも一番マイペースなのがプンプンのパーティと言える。

 実際ひぃたろも何か起こった場合すぐに駆け付けるであろうメンツでパーティ③を組んだ。


「とにかく早く着替えよお! そしてオルベイアへ向かおう!」


 鉱山の街、オルベイア。

 名前から予想してそこにオルベアの痕跡があると見て間違いないと考え、パーティ②はオルベイア───だっぷーの家がある街へと一旦向かう事を決断していた。


 【クラウン】が終劇しゅうげきした街オルベイアを今、非情が上塗りするとも知らずに。





「みんな、操、るの?」


 独特な句切り声へグルグル眼鏡───フローは答える。


「操るっちゃ。でもまだナリ! いつでも全員一気に操れるようにしといてケロ」


「わか、った」


 長い灰髪とゴシック調のドレスを揺らす青白い肌の少女は様々な異名を持つ犯罪者リリス。僅か数十分───30分とかからないうちにオルベイアの住人をひとり残らず殺戮した。


「リリスは強いなぁ! うわっ、赤ん坊の足が落ちてる」


 落ちているそれを拾い「ハハハ、小さい」と笑うのはシルキ大陸の鬼、酒呑童子。瓢箪をしゃくり酒を呑みながら散らばる肉片と血液を吸った地面を歩く。


「フロー、ダプネはどこ?」


 あっという間に空っぽになった瓢箪のクチを覗きながら、もうひとりの【クラウン】メンバーの所在を訪ねる。


「ダプネちゃんはもうすぐ来るナリ。すんっごく強くなったナリよー!」


「そんな、に? 楽し、み」


「仲間少ないんだから喧嘩で済ませてよ? どっちか死ぬなんて僕困るよ〜。これ以上僕は働きたくないんだからね」


 仲間、という言葉がこれほどまでに似合わない連中も珍しい。

 クラウンのリーダー、フローは自分の目的のために使えるメンツを揃えているだけであり、そこに信頼関係など無い。

 リリスもフローと居た方が自由に動けるとの理由で、あくまでも自分の目的のため。

 酒呑童子はコレと言って考えはなく、ただフローが誰よりも先に誘ってくれたから乗っただけ。

 ダプネは......この中で一番、このメンバーを仲間とは思っていないだろう。


「さてとさてと、次はデザリアに───......は? なんでここにアレが」


 いつもの調子でフローがヘラヘラとクチを動かした直後、その調子は崩れ鋭い声を空へ向けた。

 リリス、酒呑童子もただならぬ気配を察知しフローの声よりも早く夜空を見上げ、そこにあった巨大な眼球を睨む。


「リリス! 酒呑! マナや魔力を感じたら全力で逃げぞ! コレはまぢにシャレになってない!」


 普段の態度からは予想さえ出来なかったフローの緊迫する声と口調にリリスは白骨色の大剣を構える。酒呑童子も楼華結晶サクラで生産したカタナを抜き夜空へ意識を向ける。


『───やっぱり居たのね、フロー』


 声が響く。


『およよー? その声はエンジェリアたん! おひさ』


 フローは答える。

 声の主は天魔女エンジェリアだがリリスと酒呑童子は魔女語での会話を理解出来ない。


「会話中に隙があれば迷わず逃げるぞ」


 ポツリとフローは呟き、夜空から見下ろす眼球へと意識を戻す。


『そこに魔結晶塔が出現するのは知ってるみたいね』


『むむむー? 何の事だかさっぱりんこナリ』


 ケタケタ笑うフローだが内心に余裕はない。


『そう、まぁいいわ。さぁ貴女達───下で鳴いてる虫を処分なさい』


 フフ、とエンジェリアの笑い声が溢れ、眼球は消滅し、入れ替わるように無数の空間が展開される。

 フローが指示を出す間もなく、空間から様々な魔術が降り注いだ。



 魔女族、、、を相手に戦闘をするな。

 外界ではどの種族もクチを揃えて言う。

 魔女を相手に、ではなく、魔女族、、、を相手に、というのがポイントであり、絶対に避けたい戦闘だ。

 その理由は強い弱い以前に、戦いにならないからだ。


 今フロー達の頭上に広がる夜空には、数えるのが不可能なほどの空間が展開されていて、その空間から魔女達は魔術を落としてくる。

 合理的で一方的な蹂躙。

 それが魔女族の戦闘やり方だ。

 規模は基本的に、対象の居るエリアが滅ぶ程度で行われる。街なら街全体を、村なら村全体を、山ならその山が消える規模で、海ならばその海を消し飛ばす範囲で。


 鉱山の街オルベイアは街だけではなく火山もその対象に含まれており、一瞬で粉々に消え去った。



 そこに街や火山など、はじめから無かったように。



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