◇技能族の新商品



 夕闇に飲まれる平原で、ぽっかりとクチを開くように洞窟の入り口が見える。


「......何人か死んだな?」


 シルキ大陸で傭兵をしていた白蛇しろへびは、わたしの嗅覚では全く感じない残り香から状況の断片を嗅ぎ分けた。


「まだ入り口に近付いてもないのにわかるのか。犬よりすげぇな」


「犬の嗅覚程度だとシルキじゃ死んでるよ。俺が対立していた連中には華や冷気を使う相手が居たからな。微かな華の香りや空気が凍る匂いを逃してたら今俺はここにいない」


「ハハハ」


 白蛇の言葉にあるふぁは苦笑いを浮かべる。

 考えてもみれば、この2人は数ヶ月前まで年単位で殺し合いをしていた仲だ。何十年単位か? まぁどっちでもいいけど、日々命を奪い合っていた者が肩を並べてる状況は......落ち着いて考えるとすげぇな。


「エミー、オイラ達はあの洞窟で起こった爆発の原因を調べればいいんだよな? 入って大丈夫なのか?」


 そう、今わたし達───わたし魔女あるふぁアヤカシ白蛇妖怪というバリバリの外来種チームは洞窟で起こった爆発の原因解明が命じられている。原因解明とか最近こんなのばっかだな......。

 ま、今回はほぼ原因がわかってる。


「入って爆発しました! じゃ笑えないから入らねーよ。いつ戦闘なっても大丈夫なようにしといてな」


 そう告げ、わたしは耳に装備されているイヤカム───イヤフォンを3回、間隔を開けずに指先で叩く。


『───エミリオ』


 セッカの声が聞こえたのですぐに、


「今洞窟の入り口が見える場所にいる。原因解明って事だし、別に中入らなくてもいいだろ?」


『それは構いませんが、外から原因がわかるのですか?』


「余裕だろ、んじゃ始める。何かあったらまた叩くわ」


 イヤフォンを指先で1回叩くと通話が終了する。ひぃたろハロルドはこのイヤフォンとユニオンを繋げたものを送ってくれた。この便利な通話アイテムはフォンを取り出して相手を選んで通話を飛ばす、という作業を単略化してくれている。

 お互い登録していなければ不可能だが、登録していれば叩けば通話を飛ばせる。登録者数は4人までだが、一度登録した相手はフォンに登録リストとして残るので状況を見て設定しておくと便利。

 お互い一度でも登録しているならば、今後相手がイヤフォンの登録からわたしを外していても、こっちから通話を飛ばす事は出来る。つまり、通話を飛ばすにはリストインが必要で、通話を受ける分には過去にリストインさえしていれば問題ないという事だ。前のモデルとは比べ物にならないくらい進化している。

 固有名のTは技能族テクニカのTでEaはEarphones、そして4は多分4代目のモデルって事だろう。

 技能族テクニカってのには一度会ってみたいぜ。


「よし、感知に自身あるのどっちだ? 中に多分......人間がいると思うから感知してみてくれ」


「俺だな」


 洞窟の入り口へ少し近付き、白蛇は独特な感知技術を使う。人差し指を地面につけ、徐々に指を増やし───


「いたぞ。数は......18人」


 地面につく指が3本で気配を掴み、4本で数を言った。そのまま手のひらを地面につけ、


「こっちに向かってきてる」


 距離や場所まで感知してみせた。


「その感知には手を焼いたよ。オイラ達が必死に木を辿って飛びつつ地面に石を落としても全然誤魔化せなかったし」


「俺はひとりでやってきたからな。感知......索敵は生命線でもあった。もうすぐ来るぞ」


 中々に興味深い話だが今は深く聞く時間はない。白蛇の宣言通りわたしでも気配を拾える距離まで対象が近づいて来ている。


「戦闘なるかもだからよろしく」


 話が出来ればいいんだけどな、と思いつつ腰に吊るしてある【ブリュイヤール ロザ】と【ローユ】を抜く。

 ......2分後、姿を見せたのはわたしの予想通り【デザリア軍人】だった。


「おい! 止まれ! 動くんじゃねーぞ!」


 剣を向け叫び、


「蛇、アイツらが変な動きしたら投擲していいぜ。それを合図にわたし達も戦闘開始な」


 白蛇、あるふぁ へ戦闘発生確率の高さを伝えた。


「......ウンディーの冒険者? 助けてくれ、頼む助けてくれ!」


「あァ? なんだお前」


 恐怖が張り付いた表情と、命を掴まれている危機感ある声。


「演技じゃなさそうだけど......」


「助けてもクソもねぇだろ。エミリオ、コイツらが犯人か?」


 あるふぁの言うとおり、演技とは思えない。そして白蛇が思う通り、コイツらが犯人で間違いない。


「蛇、真ん中のアイツが一歩でも動いたら足と地面を固定してやってくれ」


 こっそり告げた直後、中心にいる男が一歩踏み込んだ。足を地面に着地させる前にピックが飛び、足の甲を貫き地面へ突き刺さる。釘のような形状をしているピックは足を通過するではなく、文字通り足を地面に固定する形で突き刺さった。


「動くんじゃねーぞって言ったよな? お前デザリアだろ。爆弾人間を送り込むだけじゃ満足出来なくてついに進撃か? お?」


 イヤフォンを3回叩き、通話を繋げた状態でわたしは尋問を始める。デザリア軍相手にただの会話は通用しない。


「違う、違うんだ! 確かに我々はデザリア軍人だが、違うんだ!!」


「何がちげーんだ? もう1本いくか?」


 違う事なんて何もない。

 デザリア軍はノムーのドメイライト、ウンディーのバリアリバルへ爆弾人間を送り込んできたのは紛れもない事実であり、その爆弾人間はドメイライトの騎士服を装備していた。

 ノムーとウンディーを争わせるために考えた幼稚すぎる作戦。被害こそ最低限にとどめたが不安は予想以上に撒かれた。


 わたしも尋問拷問の趣味はないし、普段ならもう少し会話をしてやってもいいが、爆弾人間の件と騎士学校のラオブミノス討伐で出会った軍人の件もあり、デザリアに対しては敵意しかない。


「おい軍人、知ってる事を全部話せ。簡潔にな」


 白蛇は鋭い視線を流し、ピックを数本取り出した。


「わ、わかった、わかった! 我々も助けてほしいんだ、話す!」


「話す、じゃねぇよ。くだらねぇ時間稼ぎしてんのか? 3秒以内に始めろ」


 ピックを持ち直し、いつでも投擲できるスタイルで、白蛇の視線は奥の軍人を一蹴する。


 凄いヤツだ......初見の相手にも容赦なく対応し、必要な部分は吐き出させようとする。

 あるふぁもクチを出す事なく任せていて、なんだか......こっちが悪に思えてくる。



「我々は、今───爆破を付与された文字通りの爆弾人間だ」



 早速本題に入り、その言葉にわたし達は構えてしまった。



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