◇遭遇



「トウヤ! やりすぎるなよ!」


 カイトが友人へブレーキをかけるように言うも、カイト自身も友人に気を回す余裕はない。一瞬、時間にして1秒強、2秒はないという一瞬の余所見へ【ウガル】は獰猛な笑い声と共に大剣を滑り込ませる。斬撃の軌道に自身の身体がある事に気付き、大きく下がろうと床を蹴るも、


「後ろは壁だ」


「なっ!?」


 ウガルが操る大剣の剣先が壁に突き刺さるも強度ある石壁をまるで草のように抵抗なく斬り進む。

 戦闘時の環境───地形などを戦闘中に把握しつつ自身の有利になるよう利用する。

 状況把握と利用は戦闘において当たり前の感覚であり、生き残るにはこういったスキルも要求される。他にも様々なスキルがあり、それらは戦闘経験値を積み重ねる事で養われるが、大半の冒険者は積み重ねの途中で致命傷、または命を落とす。

 壁を斬り砕くように進む大剣は速度を低下させる事なく振り切られる───が、


「アァ? なんだァ?」


 空振りの感覚が濃く伝わる。豪快に壁ごと斬り捨てようとしたウガルの選択が抜け穴となったのだ。剣を進める度に壁は砕ける散り発生する砂埃が、カイトが唯一利用できる環境障害ストラクチャーであり、それを一瞬で悟り利用した。


「───ッ!」


「甘ぇよ犬っコロ」


 背後へ回り込み丸テーブルの影から大剣を振るうも、かすかな砂埃の動きでウガルは感知し危なげなく斬撃を止める。


「チビなりの速度はあるみてぇだな......? おいテメェ、その模様は何だ?」


 押し合いの中でウガルはカイトの左半身から根のように皮膚を這い回る模様アザに眼を細めた。

 アラベスクのような模様はまるで生きているかのようにその範囲を徐々に、徐々に広げカイトの身体を制圧すべく蠢く。


「......チッ、またかよ」


 左頬を見るように視線をさげ舌打ちしたカイトは大剣を強く押し、今度こそ大きく背後へ跳んだ。


「テメェのそれ......奇病だろ?」


「......らしいな。詳しくはわからない」


 不思議な事にウガルは荒々しく尖った敵意を引っ込めた。

 それにいち早く気付いたのはマフラーを装備した褐色の女性だった。

 睨み合う2匹の狼の間を豪快にイスやテーブルが飛び抜ける。カイトとウガルはその方向へ視線を流すと、


「なにそれ......とても便利そうな能力」


「もういいだろ? またの機会にお互いちゃんとした “覚悟” を用意してたらってやるよ」


 リントとトウヤが適切な距離を取り、停止していた。

 今この場で戦闘喧嘩を続ければまず間違いなくトウヤが負ける。明確な武具のスペック差、相手を倒す、、という意も圧倒的にトウヤは足りない。

 冒険者としての実力も経験も、比べるまでもなくトウヤの方が低い。


 それでも、トウヤが纏うある種の雰囲気は武具スペックや冒険者レベルなどを度外視させる程、圧倒的。その部分にリントも興味を示したのだった。

 冒険者という存在が本来纏うはずのない、殺戮的な雰囲気に。


「───はーーーい! そこまで! 終わり終わりっ!」


 発生した沈黙を逃さず声を響かせ、両手を叩き合わせたのはマフラーの女性。

 猫人族の尻尾に裏切られた悲しみを乗り越え、元気な声を発した。


「騒がしくしてごめんねー。ほら帰るよリント。ウガルは修理代払っとけよ?」


「アァ!? 何で俺様が払わなきゃならねぇんだよ! テメェが払えやクソ女!」


「ほとんどテメェが壊したんだろダボ! アタシは何一つ壊してないし、全部短気で脳筋なテメェの責任だ。脳みそまで焦げてっから理解出来ねぇのか?」


 恐ろしいほど変化する女性の口調にトウヤ達は驚いたが、カイトは声に耳を向ける余裕がない。


「......オイ」


「───? 俺?」


 大剣を床に突き、身体を支えるカイトを見てウガルはフォンを取り出す。素早く操作し、取り出した小瓶をカイトの前へ転がし投げる。


「それ飲んどけ。信用できねぇならテメェの模様それを診た治癒術か医者か知らねぇが、そいつに鑑定させてから決めろ」


 言い残し、ウガルはカイトの横を通過した。足取りは集会場ここへ来た時と変わらない。カイトと戦闘した直後だというのに、1ミリの疲労もない足取りと息遣いにカイトは敗北を感じた。


「カイトぉ! 大丈夫?」


「ニャ!? ウネウネがウネウネしてるニャ!?」


「ウゥ、ウネウネ見てたら吐きそ───オロロロロロ」


「......大丈夫だ。だぷ、悪いけどその小瓶拾ってくれないか? あと、中身の鑑定も頼みたい」


 荒い呼吸を整えつつカイトは手近なイスへ腰掛ける。


「オイ! 誰でもいいからユニオンに後で請求書持って来いって伝えとけ!」


 ウガルは誰にというワケでもなく叫び、舌打ちをする。フリムがそれを鼻で笑い、リントは自身の長髪を鬱陶しそうに払う。


 突然始まった迷惑な騒動が終わろうとしたその時、


「わっ!? 滅茶苦茶だ!」


「本当だ......何があったの?」


「これでもクエストカウンターは壊れてないわ。呆れる強度ね......」


 ギルド【フェアリーパンプキン】が集会場に到着した。

 ここ最近、メンバー構成が公表された【フェアリーパンプキン】は四大ギルドや皇位ギルドなど有名ギルドと肩を並べるほどの存在感を持っている事を向かい合う3名は知らない。


 ウガルの横暴に触発され意味不明な喧嘩をしていた冒険者達も、魅狐ミコ、人間、半妖精ハーフエルフ、我が物顔をする愛くるしい仔フェンリルを見て、どっと湧いた。


「アァ? 何だ頭でもイカレたのか?」


 湧く冒険者達の声にウガルがコメントすると、当たり前のようにフリムが「イカレ野郎はお前だろ」とクチを挟む。

 リントは眼の前に立つ、黒眼帯をしてる、、、 野郎、、ではなくヤローをジッと見る。


「何か用かしら? ジッと見られるのは好きじゃないんだけど」


 ひぃたろが声をかけると両者メンバーが眼を向け合う。


「アァ? 誰だテメェ......ア? お前らまさか......」


「え!? お兄さん耳あるんだね!?」


 狼と狐。


「お? これ本命じゃない? えーっと......ワタポ! そうワタポ!」


「え、ワタシ!? てか......この3人もしかして」


 マフラーと手袋。


「......貴女が黒眼帯をしてる......!? 貴方、なんでここにッ......? 色が違う?」


「?......は?」


 竜騎士と半妖精。



 本人達はまだ知らないが、明日の冒険者ランク更新で全員ダブルSS-S2が確定されており、ギルドもダブルとなる【フェアリーパンプキン】とトリプルSSS-S3のギルド【ジルディア】所属のダブルが遭遇した。



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