◇530 -12日目、剣術の授業-



 ノムー大陸、ドメイライト。

 地界で一番繁栄している街としてその名を轟かせる皇都にある騎士学校、オルエス スコラエラ。

 その騎士学校で8番目に強い凄いヤバイ格好いい存在となったエミルこと、わたしエミリオさん。

 8番目だ。そこらにいる雑魚学生とはデキが違うというのに、なぜ、なんで、


「なんっで授業出なきゃなんねーんだよ! わたしは8席だぜ!? なぁウェンブリー!」


「そんな事言ったら俺は次席、2席だぞ? それに席次があろうとなかろうと、俺達は学生なんだ。授業を受けるのは当たり前だろ?」


「あーあーあーあー、そういう事を言うのか。そういう事を言うならもうお前は嫌いだ」


 なーにが当たり前だ。授業なんてクソつまんねーもん出て何の為になるんだよ。草の授業とか石の授業とか、他にも意味不明で無意味な授業が多すぎて時間の無駄しか実感できねーぞ。


「授業に出ないと卒業なんて出来ないぞ? それに次の授業は剣術だ」


「......む? 剣術?」


「そうだよ。たしか今日から卒業までは実践型の授業になっていて、オゾリフ達もいるよ。剣は学園支給の刃の無いものだけど、少しはやる気でたかい?」


 少しどころじゃなく、カナリやる気でたわたしはイスに脱ぎ捨てていた制服の上着を拾う。朝イチの授業がどんな内容だったかも覚えていないわたしは自室に戻ってすぐ上着を脱ぎ捨て、溶けるような姿勢で長椅子に身を任せていたが、今は襟も整えた優秀な学生。


「今は9時か。授業は何時からだい? ウェンブリー君」


「次は10時から12時まで2時間の剣術授業で修練場だよ」


 修練場......星賭戦した場所か。ギリギリに出ても余裕で間に合うぜ。

 略奪種の時は本当に少ししかオゾリフやネリネの剣を見れなかったから楽しみだ。


「エミル」


「うん?」


「キミは......騎士になるのかい?」


 妙な質問を、と思ったが考えてみれば妙でもない。ここにいる生徒は全員が騎士志望ではない。


「どーだろうな。お前は?」


「俺は......騎士になりたい。でもやっぱり怖い部分もある」


「怖い?」


「騎士になれば毎日のように任務がある。調査や討伐、犯罪者との戦いで死ぬ事もあるだろう......そういうのを考えると、怖いって思うのは臆病だからかな?」


 怪我や死は怖い。当たり前の事だ。こういうのは経験値を積めば自然と変わる部分かもしれないが、経験値を積むにはその恐怖がついて回る。

 わたしは騎士としてではなく冒険者として、そういう恐怖がピッタリ背中について回ってると思う。だからこそ死なないように必死になってる。

 けど騎士となれば必死の中心は自分ではなく守るべき存在がくるだろう......街の人を守って死んだ騎士は沢山いるだろうし。

 ウェンブリーが臆病かどうかは、今簡単には答えられない。


「調査中にモンスターと遭遇する事もあるだろう。討伐任務は戦闘必須。だからこそ任務前に情報を集めて準備をして、挑むんだろ? ただ......犯罪者は情報自体が嘘という場合もあるし、難しいよな」


「そうだよね......」


「いきなり犯罪者を追うなんて事はないと思うけど、いつどこでどんなヤツに会うかはわからない」


「......」


「相手がモンスターでも犯罪者でも、お前が逃げたら誰かが犠牲になる。でもお前ひとりで戦うワケじゃない。ひとりの時に遭遇した場合は仲間が来るまで待てばいい。そのために最低限でも戦闘出来るように剣術の授業があるんだろ? 実戦の経験値が手っ取り早いけど、その実戦に何もなしで挑まないために次の授業は頑張ろうって事だ」


「なんだかエミルが先輩に思えてきたよ」


「先輩って呼んでいいぜ」


 コレといった答えは言えなかった。誤魔化すようにそれっぽい事を言っただけで、実際に今犯罪者と遭遇した場合......どうなるか予想も出来ない。

 もし、学生を手招きしてる犯人とウェンブリーが遭遇した時......犯人は間違いなくウェンブリーを殺しにくる。その時自分もそういう気持ちで迎え撃たなければ殺される。

 精神論だが、結構馬鹿に出来ない。

 まぁこういうのも授業で言うだろうし、わたしは下手な事を言わず学生を演じきるだけだ。


「んし、そろそろ行こうぜ」


「そうだね。よし、行こうエミル」


 晴れたワケじゃないが曇が無くなったウェンブリーはいつものように制服を正し、わたしにも制服を正せと言い、一緒に部屋を出た。





 修練場に集まっていたのは全員、上級騎士学生。席次持ちは勿論だが、この中に剣術で何位という成績を持つ生徒も勿論いるだろう。

 そしてこの授業の講師は2人いる。

 ひとりはネリネの姉で元騎士の【グリフィニア】。これは予想どころかほぼ全ての授業に彼女はいる。問題はここからだ。

 ドメイライト騎士の......確か【ルキサ】だ。

 まさかガチ騎士が今日の剣術授業の講師として呼ばれていたとは。

 わたしがルキサに直接会ったのはこの極秘任務を始めてからだが、存在は知っていた───と言っても顔と名前が一致したのもここ最近だが───わたしが謎に処刑されそうになった件で、半妖精のひぃたろが遭遇した「操作系能力を持つ騎士で、能力の使い方が残念だったけれど剣は中々だったわ」と地味にレアな操作系の能力ディアを持つ騎士。

 あの忌々いまいましい “魔女エミリオ謎に処刑されそうになる事件” から1年は経ってるのでルキサも相当経験値を積んできたのだろう。なんせ特級騎士の隊長らしいからな。楽しみだぜ。


「時間だな。よし、授業を始める───が、剣術の授業はこれが最後だ。今日この後は授業も任務も入れていない。存分にやるといい」


 グリフィニアが言うと、生徒達は剣を取りに行く。今ので説明終わり? と戸惑っているのはわたしだけらしい。

 これが最後の剣術授業......卒業までまだ2ヶ月くらいあるのに剣術の授業をもうしないってナメすぎじゃね?


「上級に進級出来た者は授業よりも任務をメインとし、自主的に自分の得意な分野、不得意な分野を伸ばす一年とも言える」


「武器を研き、弱点を補い、新たな武器を得るのです。それが上級生になった者が行う最後の一年の過ごし方ですのよ」


 主席と3席が背後からわたしへ言う。まだ振り向いていないが、この2人の気配は既に覚えているうえに声でも判断出来た。なんだろう......友達、仲間って感覚があるのに、どこか距離があるこの気持ちは。


「って事は1年前からお前らはそーゆー事してたのか。すげーなオゾリフ、ネリネ」


 すっかり友人化している2人へ挨拶すると武器を取りに行っていたウェンブリーが戻る。わたしの武器まで持ってきてくれるとは、いいヤツすぎて使魔にしたくなる。


「やぁオゾリフ、ネリネ。キミ達はルキサさんとグリフィニアさんのどっちにするんだい?」


 なるほど。あの2人のどちらかに授業してもらうのか......迷う事なくルキサだな。グリフィニアは何か苦手だ。


「俺達は “キャンセル系” をもっと理解したいからルキサさんの所かな」


「エミル、俺達もそうするかい?」


「そうしようぜ」


 即答したものの、キャンセル系とやらが何の事だかサッパリ。この調子だとグリフィニアの方を選んでいたら呆れ溜息と小言を食らっていただろう。

 納得いかない事にグリフィニアはなぜか、妙に、理由不明だが、わたしに厳しすぎる。


 今回はウェンブリーの選択に全わたしが拍手しながら噂のキャンセル系を学ぶべく、わたし、ウェンブリー、オゾリフ、ネリネの4人は騎士ルキサの元へ。どうやら他の学生達もグリフィニアよりルキサがお好みらしく、席次持ち達とも合流する形で騎士の元へ、12日目の学生生活がスタートした。


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