◇505 -夕鴉と夜鴉-
薬品漬けにされたガーゼを剥がし、うっすら残る傷痕に弱い治癒術を使う。すると傷痕は綺麗に消え去り、わたしのハリツヤはんぱない魅力的な肌が復活する。
「へぇー、理論的には成功するとわかっていたけど本当に傷痕が消えたね」
「これなら医術で治療して傷痕が気になったりする患者には治癒術で仕上げる、というプランも提供できるわね」
フォンのメモ機能を使い、わたしの怪我を診てくれていたリピナ、それらの経過を観察していた半妖精のひぃたろが指を忙しく走らせて記録を取る。モルモット感はあるが治療費無料は無視できない。こうして治ったし治療費もかからないし、ラッキーだぜ。
「そう言えばその独特な板はなに? ウンディーの人達みんな持ってるよね?」
ヒエヒエ妖怪のスノウは氷を食べながら2人のフォンを不思議そうに見ているとワタポがフォンを取り出しアレやコレやと説明しつつ機能効果を実際に見せる。
元々そこまでの違いは感じなかったし、やはりウンディーだのシルキだの小さい区切りなど簡単に超え、既に普通に接しあっているメンバーを見て「最初に妖怪を発見したのはわたしだからな!」と野暮な事は言わないでおこう。
「もう治療は終わりっしょ?」
プンプンから借りパクしている服に袖を通しつつ言うと、リピナは頷きながら小瓶を3つくれた。一応あと3日はこの薬を飲むのか......と文句は言わず受け取った。
この後の予定もないし、夜楼華祭りの準備がもう完了しそうな賑わう街でも眺めようかな、と立ち上がった時スノウが忘れてたかのようにわたしへ、
「エミリオさん、みんみんが呼んでたから城行って! 多分いるから!」
氷を頬張りながらアセアセと言ってきた。絶対フォンに気を取られていて今の今まで忘れてたパターンだろ。
「城かよ......無駄に広いから嫌いなんだよな───ってそう言えばお前らから治療費や修理費貰ってねーな! ついでに請求したるわ」
すっかり忘れていた治療費や防具修理費の請求を思い出したわたしは外部の音を遮断したかのように部屋を飛び出し、クソネミが待ち構えている城へ爆走───は疲れるし昨日プンプンと爆走してゲロってるからやめて、軽く走ってすぐ歩く。
昨日、
夜楼華が開花してたった4日で、ここまで動けるとは......シルキの連中は強いな。
「なぁ、その爆弾みたいのなんだ?」
街を歩いていると紙で作られた爆弾のような、どことなく大きなダンゴムシのようなものを沢山飾る人達を発見し、わたしはその正体を訪ねた。
「これは
「ほー。風情だな!」
風情の意味はわらかないが、多分きっと風情ある代物だろう。爆弾じゃないのならあまり興味が湧かないので会話をバッサリ切り上げ城へ進む。
道の隅にテントのようなものを張ってる人や、店の入り口を祭りっぽくしてる人など、慌ただしさもあるがみんな笑顔で楽しそうにしている。
これが本来のシルキの姿なのだろう。わたしが来た時のシルキとは雰囲気、空気感が全く違っていて、今の方が絶対いい。
「エミー! 待ってたけど全然来ないから忘れてるのかと思ってたよ」
京と城を繋ぐようにかけられる橋をコツコツと小気味よい音を響かせ歩いて来たのは目的のクソネミ。よくよく見るとクソネミ達はブーツ型の靴を装備しているので、意識しなければ足音も鳴る。
「よーうクソネミ。髪の毛真っ赤でふぁっさーしてるな」
金髪で髪を......束ねてグルグルっとしていた
「エミーこそ、ふぁっさーしてるじゃん」
挨拶代わりの髪型いじりを済ませ、クソネミがすぐに切り出す。
「私に頼みたい事あるって言ってたけど、なに?」
「あー、あれはもういいんだ。夜楼華が開花した瞬間にやってくれたから」
「そう?」
クソネミがフレームアウトから戻り、夜楼華問題が一旦でも落ち着いたらわたしにかけられている魔術を喰ってもらえないか頼もうとしていた。が、夜楼華がいい具合に剥がしてくれたからもういい。てかもう後は自分でどうにかするしかない。
「それより、わたしの腹に根っこブッ刺したり足斬り飛ばしたり、装備もボロッボロなったし、慰謝料と修理費、あと心に多大な傷を負ったからその料金も上乗せで3000万ヴァンズ請求すっからな。さっさと城でも何でも売って金作れよ?」
「あ、そうそうエミー」
「あーん? 話題変えようったってそーはいかねーぜ?」
「うん。で、
「あ? だから何だよ」
「そこで安心して思い出したんだけど、廃楼塔にあったカタナが傷だらけで、カタナがあった場所の近くに何かあったと思うんだけどそれもなくなってるんだ」
む。何を言い出す貴様。
「特別なカタナだから修理も難しくて、近くにあったモノもなくなってて、エミー盗んでないよね? なんて名前だったかな......」
わたしは廃楼塔から霊刀
ポーチにある2本のカタナモドキこそ、わたしがシルキ大陸に足を踏み入れた目的の品である【夕鴉】と【夜鴉】なのだ。これをパクらず何をパクれと言うんだ? そうだろう?
「カタナの方は仕方ないしシルキのみんなも怒ってない。気にもしてない。カタナの近くにあったモノの話なんだけど」
その話はよせ、やめろ、今すぐやめるんだクソネミ! くっそ、箒があれば今すぐ飛び去る所なのに装備類は全部ビビ様に渡してある......くそ、くっっそ!
「アレが何なのか私は知らないし、そもそも廃楼塔にカタナや他のモノも存在していた事自体、誰も知らない。だからもしエミーが何か持ってるならそれあげるから慰謝料とかの話はナシにしてよ」
......コイツ、さてはわたしが持っている事を知っていて言ってるな? 昨日廃楼塔に行ったなら色々漁って来たんだろ? そこで貴重品リスト的なモノでも見つけたんだろ? そうだろ? 観音は何となく神経質で潔癖っぽい感じあったしリストくらい作っていても全然不思議じゃない。神経質で潔癖から知らんけど。
「ま、まぁアレだ。今回はお互い様って事で金の話はナシにしてやるよ。言っとくけどその貴重品みたいなモンはわたし知らねーからな? ただ今回はわたしもクソネミや愉快な仲間達へ攻撃したし、お互い様で終わろう」
「そっか、そうだね。そうしよう」
「そうだろ? んじゃこの話は終わり! お疲れさん!」
あっぶね、何とか逃げ切ったぜ......窃盗なんてみんなにバレたらタイミング的にわたしのガン上がりしてる株価は暴落してしまう。それを避けつつ確りとダブル鴉はいただく。これがカリスマ性の集合体であるエミリオさんの天才的閃きからの回避術だ。
しかしクソネミがこんなに上手に、そして鋭くカードを切るタイプだとは思いも.........思いもなにも、考えてみれば、シルキ勢ほぼ全員の根っこにある性格をわたし達は知らないのか。そりゃそうだよな、大陸の生存をかけた大喧嘩の中に突然湧いたのはこっちの方だ。知るチャンスもなかったし、わたし個人はそんな事知ろうとも思わなかった。
「エミー、冒険者って......」
「ん? 何か言ったか?」
「冒険者、ウンディー大陸って、私達みたいな存在も受け入れてくれるかな?」
「お、今度はハッキリ言ったな」
本音を隠し潰す癖があるクソネミも、今回はハッキリ、そして真っ直ぐ言ってきた事がなんだかとても嬉しい気持ちになった。
私達、という言葉にも嬉しさや楽しみを感じられた。
「大丈夫だ。ってか、安心しろよ」
「安心は......出来ないなぁ。だって私達は妖怪で───」
「私は魔女だ。
シルキ勢は───トウヤはシルキ勢に含めていいのか不明だが───どうして自分の種族や状態をそこまで気にするんだ? そんな小さな事を気にしてたら生きていけねーよ。
「でも、私は眠喰で自分の能力もまだわかってないし、妖怪ってだけでみんなを怖がらせたりしそうだし」
「怖がる、のジャンル......種類が違うから安心しろ。これはカバーで言うんじゃなくガチで、外の大陸、外の世界にはお前らの想像を軽く飛び越えてる化物が数えきれない程いる」
これは本当だ。
種類だの状態だの気にしていたら馬鹿臭く思う程、真っ当な種でいる事がアホ臭く思う程、デタラメな奴等が沢山いる。
そこに種族という枠は既にない。
「数えきれない程......」
「他の連中がどう思うかは知らん。けど、わたし個人はお前ら妖怪ともう友達だから頼るぞ? ほら、妖力とかそこらはお前らが詳しいし。それ以外にも助けて欲しくなったら頼るし、暇だったら遊びにも誘うぜ。妖怪に何か用かい? って感じにな!」
「え......っと、、え?」
「え?」
いらん事言ったな。反省しよう。
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