◇499 -幻想楼華-10



 みんな来てるなら初めから誘えばよかった。と思わずにはいられない状態のわたしは枕返しとかいう雑魚そうなハズレ妖怪わちきの肩を借りクソネミの元へ。


「よぉ、死にたがり。気分はどうだ?」


 どこか挑発的に笑うと、眠喰クソネミは台詞とは合わない程の笑顔を咲かせ、


「起きてすぐエミーの顔は最悪な気分だよ」


 わたしのプリティフェイスに最悪という言葉を添えてきた。その隣で、雪女と妖華が眼を見開き眠喰を見ている。フレームアウトせずに戻って来た事が嬉しいのはわかるがその反応はちょっと大袈裟すぎないか?


「みんみん、やっと普通に笑った......」


「うん......やっと自然に笑った」


「スノコ、ゴリ......今までごめんね。何でもかんでも一人で抱えて、抱えきれず押し潰れてた」


 今まで、がどの辺りからの今までなのかは知らないが、わたしが見てる範囲でも確かにお前は無駄に抱えて悩んでウジウジしてたな。

 笑った顔がそんなに珍しいのかも知らないが、吹っ切れたような......何かを掴んだような......見失ってたものを見つけたようなイケてる顔になってるぜクソネミ。

 だけどまだ安心するのは早い。

 まだ終わってない。


「素敵笑顔の話の途中で悪いけど、クソネミ」


「うん。エミーはどんな考えを持っていたの?」


「お前が戻ったら能力をブースター化して、戻す。夜楼華ヨザクラに毒が溜まってきたら能力で毒を喰う。んで自分に能力を使って喰い続ければいいんじゃね? ブースターはSF......能力の成長が止まる。そうだろ盲目?」


 わたしは後ろにいる盲目───トウヤへブースターの質問を投げた。トウヤこそブースター能力を自在に操る例代表と言っても過言ではない。


「あぁ、ブースターは成長しない。今エミーが言った事は理屈上では可能だけど、眠喰の能力は自分も対象に出来るのか?」


 む......確かにそこは気になる。赤衣が喰ってたし、赤衣を出しっぱならちょっと、いやだいぶ妖怪っ気がアップするぞクソネミ。


導入能力ブースターかぁ......能力は自分に使えて、今まさにエミーが言った事をしてるんだ。自分の中にある楼華病を能力で喰べて、また入ってくる楼華病をまた喰べるの繰り返し」


「なに、もうやってんのかクソネミ」


「うん。導入能力までは考えてなかったけど、確かにそれの方が早くて現実的だしいいかも......」


「現実的って、お前も何か案あんの? あるなら言えよ。ブースター化は今すぐ出来ると思うし、フレームアウトから戻ったばっかりなら時間も余裕あるし、時間かかりそうな案でもいいから」


 呑まれず戻ったという事はある種の壁を突破したという事。簡単にロストはしないし、夜楼華は短剣ローユの効果とは別に、なぜかやる気ねーし。時間はある。

 クソネミの案が時間かかる系でもダプネが空ブースターをくれたし、ギリギリまで足掻ける。


「私の案......と言うより幻想だよ。それでも聞いてくれるなら話すけど」


「おう頼む」


 ウジウジ、とまではいかないがやはり素直ではないというか、自分を押し出したり売り込むのが苦手な性格らしく、クソネミは遠慮がちだった。

 わたしはその場に座り、わたしを支えてくれていたわちきことハズレ妖怪枕返しも無理矢理座らせ、寝転がりたいので無理矢理膝枕をさせた。

 自分の太ももをひっくり返せるならひっくり返してみろ枕返し。





 眠喰クソネミの話が一通り終わり、各々が眉を寄せ何かを考えている。冒険者陣もシルキ勢も。

 わたしは───正直よくわからなかった。

 眠喰バクだけではなく、サトリ、アマノジャク、おまけに魅狐ミコまで話に登場したんだ。想像していた規模を遥かに越える内容でわたしの頭はお手上げ......というよりは、他の誰かがこの件について考え、発言してくれるだろうというスタンスだ。実際問題、今ここには眠喰と魅狐しかいないうえにサトリとアマノジャクってヤツは生き残りさえ危ういレア種族。クソネミのフレーム突破、ダプネから貰ったブースター、とわたしの案の条件は揃ってるし時間もあるから考えればいい。


 難しい話は賢いメンツがどうにか───


「───わちき? どうした?」


 絶賛膝枕中の枕返しが妙な表情で顔を下げていた。わたしは見上げる形でその顔を一望し、何かある、と思ってしまった。


「あっ!? え? わちきは何ともないですよ」


「そか。お前って妖怪種族のハズレ引いてるよなー」


 寝返りしつつ投げっぱなしの箒を操作し、夜楼華に刺さりっぱなしの短剣ローユを箒で抜き、箒と短剣を手元へ寄せた。ふわふわとゆっくり寄せる最中にわちきいじりを堪能する。


「枕返しとか雑魚っぽいしクソの役にもたたねーじゃん? 単眼ひっつーの種族もどんな感じか詳しく知らないけど、お前より使えるだろ」


「あはは......わちきは......」


「あ? わちきはなんだよ?」


 腰から短剣鞘を取り、ローユを納めその場に置く。そのまま箒を操作しまたまた投げっぱなしのロザと廃楼塔からパクってきたカタナの回収へ向かわせつつ、わちきいじりを堪能しようと思ったが、やはり何かある雰囲気を感じ、闇魔術の基本とも言えるピーピング───にしては性格が悪い脳内覗きをこっそり使った。勿論対象は枕返しだ。


「......! なるほどな」


「えっ? 何がなるほどなんですか?」


「お前ハズレじゃなくてアタリだったのか」


「───!!?」


「悪いな。わたし性格悪いからよ」


 身体を起こし痛む再生術の余韻を気合で圧し殺し、わちきに視線を送った。しかしコレと言って何も言葉は出なかった。

 わちき───枕返しは、枕返しではなかった。

 ひっくり返す、という点では同じだが規模が、対象が、能力種類がまるで違う。コイツは......噂のアマノジャクってヤツで間違いない。理由は知らないが本人がそれを隠し、枕返しなどという雑魚妖怪を演じていた。そしてその事をひっつーも、千秋ちゃんも、多分療狸も知っている。


「ってかテルテルお前何で生きてんの!?」


 わたし───正確にはわちきへ心配そうな視線を向けていたひっつーと千秋ちゃんをチラ見し、千秋ちゃんの横にテルテルがいた。観音に殺されたハズのテルテルが......。


「俺は元から死んでるからな。直して貰えればこの通り」


「まぢかよ......どこぞの人形使いを思い出して吐きそうなるわ」


 千秋ちゃんの能力も気になるが、今はわちきだ。


「わちきどうすんの? このまま黙ってるならわたしも下手に言わんけど、眠喰アイツはお前を求めてる感じするぜ?」


「........どうしましょう......」


「ま、お前が決めろよ。自分の事だし」


 ふわふわと戻った箒はロザとカタナ、カタナの鞘を運んできたのでわたしは自分の事をする。

 新しい武器も防具も妖怪共のせいでボロボロだ......ビビララに頼んでメンテナンスしてもらをなきゃだな。


「あの、あの!」


 装備品を回収、収納していたわたしの後ろで枕返しが立ち上がり、眠喰達へ声を飛ばした。

 表情から見て───アマノジャクを使う気だろう。枕ではなく現状などをひっくり返す能力か? わちきの性格だから隠していたんだろう、もしわたしがそんな能力持っていたら乱用しまくるくらい規格外な能力だぞ。


「わちき、その、実は─── 天邪鬼あまのじゃくなんです」


「え? 本当? あ、でも......枕返しではない事はわかってた」


 クソネミは結構ドライに言い放ち、他のシルキ勢も “天邪鬼とは思わなかったが何かしら強力な妖怪” というのは見抜いていたらしく、驚きも薄かった。


「枕返しならあんな直球で枕に手を伸ばさないしな!」


「あれは枕返しの真似をしてるだけってわかってたよ」


「気配も全然消せてないし、強引すぎだったもんね」


「オイラには来てくれなかったけどね」


 螺梳、スノウ、モモ、あるふぁは枕返し風妖怪の雑すぎた今までの行動を思い出し笑った。

 わたしの枕を狙った時も確かに、だいぶ強引だったな......。テーブルクロス引きの感覚で枕引っ張り抜くし、アホかと思ったぜ。


「え、えと、あの、」


「だっせーなわちき! まぁそんな反応なるわな! せっかくオタマジャクシって事を告白したのにみんなの反応がコレだもんな!」


 バシッ、とわちきの背を叩きわたしは冒険者陣の元へ。ここから先はもうわたしの出る幕はない。


「エミちゃ、お疲れ様」


「おうワタポ、おつあり」


 わたしを迎え入れてくれたワタポはポーション───ではなく謎の小瓶をくれたのでありがたく受け取り飲んだ。


「───ぶぉは、なんっだコレ!? まっっず」


「それリピナちゃとししちゃ、だぷちゃがさっき調合したエミちゃ用の薬だよ。ポーションじゃなくて薬だから苦いでしょ?」


「......オエェ、」


 毒かと思うくらい苦くて不味かった。

 ま、わたし毒飲んだ事ないんだけどな。





「ダ〜プ〜ネ〜〜〜ちゃん! チュンチュン!」


 ふざけた声質でわたしの名前を呼び、後ろから抱きついてくるグルグル眼鏡。

 ホールドを解きつつ振り返るとフローの白衣や頬は酷く汚れていた。


「お前それ......何をしてきたんだ?」


 汚れ、と一言でいっても今回付着しているのは紛れもなく血液だ。それもまだ新しい。


「酒呑くんと遊んで来たナリ。あ、これ全部酒呑くんの血だっちゃ! だからご心配無用! フフン!」


「そんな事は見ればわかる! お前まさか、酒呑童子を殺したのか!?」


「まっさかぁー! 生きてるわさ。ただちょーっとだけ痛くしたったナリ。そんな事より、ダプネちゃんエミリオちゃんに空ブースターあげたっしょ?」


「そんな事って......生きてるならいいけど。ブースターはエミリオにあげたがマズかったか?」


「まっずまずナリ! ケーキにチリパウダーぶっかけてケツの穴から食うくらいマズイっちゃ! あれ1個作るのにどれだけクリアストーン使うと思ってんの!?」


「落とすヤツが悪いだろ。そんなに大切な物ならちゃんとしまっとけ」


「ぶーーー! 全フロー女史がブーイングしてるナリよ今! ま、いいナリ。あれはプレゼントって事で───夜楼華はどうなったナリ?」


「さぁな。わたしはもう興味ないからリリスを探してくる」


「あっそ了解ナリ! 結果だけ後で教えてやるっちゃ」


「あぁ」


 夜楼華がどうなろうと、シルキがどうなろうと、地界がどいなろうと、わたしにとってはどうでもいい。


 わたしは知らなければならない事がある。

 それを知るには───



「───魔女界か.......」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る