◇445 -楼華の社-
長年使われていなかったであろう楼華島にある小さな
「とりあえずポーションありったけぶっかけたけど、本当にこれでいいの?」
天使が空瓶を放り投げ、砕けた瞬間微量のリソースマナを放出し瓶の破片は消滅。螺梳や烈風が「おいおい」「社でポイ捨てとは」と呟いている事から、社というのはシルキでは神聖なモノなのだろう。しかし今はそうも言ってられない。神様ってヤツがいるなら今はこっちを見るな、黙って寝ててくれ。わたしは天使の言葉へ頷き、怪我人達の元へ。
「傷はコレでいい。でも、この傷口付近の毒っぽさは専門家じゃないとわかんないな」
傷自体は深くない。浅くもないが......問題は傷口を紫っぽく染める毒風味な傷痕だ。
斬られた箇所が熱を持っているのはよくある当たり前の現象だが、少々熱が高い気がする。冒険者となって1年と数カ月、わたしも怪我という怪我をしてきた。眼球なんて1回奪われてる。そんな不死身のエミリオさんでも、この症状は謎。
「......この症状はもしかして」
ニコニコ顔のまま真面目なトーンで呟くニンジャ傭兵の
「痛ッ......、うっわ、斬られたの夢じゃないのか」
「......ここは、社?」
「「 よぉ! 起きたか 」」
魔女&天使、美女&美少女のわたしとみょんが2人の眼覚めを喜ぶも、2人の辛そうな表情を見て、思ったより深刻な状態なのかも、と不安が過る。
「起きてよかったぜ、てか鬼とニンジャは何に気づい───」
「ババア! みんな来るぞ!」
みょんの恐ろしい感知力が───今回は無意識に感知しただろう───炸裂し、数十秒後、ドタバタと忙しく走る足音が社に届く。
外には千秋&テルテルの療狸寺コンビと、眠喰&夜叉の華組が周囲の警戒をしている。すぐに気付き社へ案内してくるだろう。ならば今は───
「何に気付いた? この毒っぽいのが何なのかわかるのか?」
傷痕を染め熱する毒跡にも似たコレの正体を看破する事が最優先。
「この症状は多分、
「───サクラ」
サクラに侵されたピョンジャピョツジャの姿が過る。
騒がしい声で社へ入ってくる面々、空間魔法で散ったメンツが合流したというのに、わたしはピョンジャピョツジャの最期を思い出してしまっていた。考えぬよう記憶の隅へ追いやっていた白薔薇のように綺麗な竜の最後。思い出せば最後の感覚が今も手に蘇る。
もし、もしも、このサクラどくがピョンジャピョツジャの時と同じく、手遅れな状態になったならば、わたしはどうするのだろうか?
「酷い顔ね。ちょっと外で落ち着いた方いいわよ」
「......ハロルド」
「ボクも付き合うよ! ボク達がいちゃ社の中が混雑しちゃうし、何も出来ないならせめて邪魔にならないようにしたいしさ」
「......プー」
気が付けば社内は混雑、周囲の警戒をしていた4名も戻り、何やら不安そうな表情で仲間を心配している。リピナ、しし屋、だっぷー、わちき、千秋ちゃん、鬼などが忙しそうにポーションや治癒術を使っていた。
「ほれ
わたし、キューレ、ハロルドことひぃたろ、プンプンの4名は社を出る事にした。みょん や 脳筋猫人族は何の役に立つんだ? と思ったものの、リピナの指示で残るらしいので何かの役に立つのだろう。
治癒術を使えるハロルドも残るべきでは? と思ったが、わたしは治癒術師でもなければ医者でもないので考えるのをやめた。
◆
「───......そっちはそんなヤツに遭遇してたのか」
お互いの情報を交換し、何の気配もしない社の周囲を一応警戒する。
「さっきはどうしたのよ? 酷い顔だったわよ」
「あぁ......ハロルドはワタポ達の傷見たか?」
「見たわよ。プンちゃんもキューレも見たわ」
「そうか......アレはサクラの毒かもって」
ダプネの空間内で遭遇した焼け爛れたピョンジャピョツジャの話はしてある。サクラという毒の塊のような魔結晶が引き起こした肉体腐敗も。
あの時わたしはピョツジャに触れ、手が感染する形で爛れた。
「うむ。気になっとったんじゃが、サクラ竜に触れた時お前さんの手は爛れたらしいが、どうやって治したんじゃ?」
「治ってたんだよな......頭キテたから覚えてないけど、知っての通りわたしは治癒術のセンス皆無だぜ。奇跡でも起きたか?」
これなんだ。本当に気が付けば治っていた......。あの時は気にもしていなかったが今思い返すと疲労なども綺麗に消えていた......怒りで〜なんて事は有り得ない。そんな事で傷も怪我も疲労も綺麗に治り回復するのならば、誰もがそうしている。
「それって何かしらの魔術がエミリオにかけられていて、それが発動した、という事じゃない? アンタ鬼の腕が腹部に貫通したらしいじゃない。それなのに起きた時には傷痕さえ残っていない.... ..眠ってる時に何かあったんじゃないの?」
鋭すぎるハロルドの質問にわたしはクチ籠る。確かに眠っている時なにかあった。そしてそのなにかが言っていた。わたしに魔術をかけていた、と。でも残念ながらその魔術の正体はわからないし、わかった所でわたしにはきっと使えない。冗談抜きで治癒系のセンスがないわたしには.......まてよ? “コイツ” なら、イケるかもしれない。まだサクラの症状も弱いし、コイツなら......
白薔薇竜の剣【ブリュイヤール ロザ】が持つ、
「───? 社が騒がしいのぉ? 何かあったんか?」
キューレの声でわたしも騒がしさに気付き、一旦中へ戻る。すると状況は予想以上に最悪なものだった。傷を中心に根を張るように赤紫色の筋が伸び、傷が蒸気をあげる。傷付近の皮膚はやはり焼け爛れ、肉を喰らうように蝕む。
そして、何があったのか不明だが華組の雪女と妖華は頭を抱えるようにし、話せない程苦しんでいた。2人に比べて症状は軽いものの華組の夜叉も同じように。
「こっちは間違いなく
クチは笑っているものの瞳は鋭く息詰まる眼光を向けるニンジャ傭兵の忍。和國勢がサクラだと断言した以上、疑う余地はない。
試せる事は全て試すべきだ。
「モズを捕まえにいく、わたしの剣ならもしかしたらサクラ毒をどうにか出来るかもしれない」
ブリュイヤールロザの特種効果を使うにはマナが必須、まだハッキリと理解出来ていない剣の性能だが、腐敗仏を思い出せば今ここにモズを連れてきてヤツのマナを利用すれば霧の花が咲き圧倒的な治癒再生力を持つマナを吐き出してくれる。
もうこれ以外に方法は───
「───なんだ!?」
余裕のないタイミングで何かとてつもない力が......爆発するような感覚、と同時に華組の3名は一層苦しそうにする。それだけではない、リピナやキューレ、ジュジュ.........ウンディーの人間達も華の妖怪だかアヤカシたかと同じように苦しみ始める。
「.......なんで......こんな時に..........」
「───!? おいクソネミ、なんか知ってんのか!?」
サクラに蝕まれているワタポやリピナギルドの面々───人間がさらに苦しそうに。
「......夜楼華が......蕾を......」
それが何を意味しているのか、わたし達ウンディー勢には理解出来なかった。
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