◇443 -モズ-
甲冑で武装した人型モンスター。
フォンを向けマナのやり取りをしても、モンスター図鑑にその詳細は無い。そうわかっていても試さずにはいられなかったのは、アイツがその辺りにいるモンスターとは桁違いな存在感を放っているからだ。
深く被る兜から煙のように息を漏らす和國産の鎧モンスター。名前は───
「鎧の鳥の印、アレが噂のモズか?」
「はい。あれがそのモズですよモズあれが」
あのモズという人型モンスターは根本的なマナの性質は人間で間違いない。しかし見た目も全体を占めるマナも完全にモンスターだ。つまりアイツ......モズは “異変が起こり異変種となり特異個体へと進化した” 人間? ハロルドも共喰いという形をとり、今は半妖精の一応 “異変種” と言ってもいい。それでもハロルドはハロルドとしての人格も体格も全て残っている。だがあのモズはどうだ? 完全にモンスター化してるだろ。
「......動かないね?」
「ほんとな。寝た?」
巨体鎧モンスターを前にしてもニコニコ笑顔を崩さない
向かってきたくせに停止したモズに、何だお前感が湧く気持ちもわかるが、天使族の顔芸はそれ以上に何だお前感が強い。
「みょんその顔やめろよ、笑わせにきてるだろ」
吹き出しそうな自分を必死に抑えていると、羅刹は呆れ声で言う。
「遊んでる暇ないですよそんな暇ないです。先輩の鬼がモズと戦って今も癒えない傷を負いました。鬼の再生力を持ってしても癒えない傷です。そんな相手と殺り合うのは嫌です嫌。今のうちにここを離れま───頭を下げろ!!」
羅刹が退却をクチにした直後だった。停止していたモズがその巨体をまるで花弁のようにふわりと軽く揺らし、赤紫の眼光が線を残すように動いた。
元々瞬発力がいい方ではないわたしは何か来る、というマナや妖力の変化を感知出来たものの反応は出来なかった。いや、反応が間に合わなかった。しかし狙いはわたしではなかったらしく剣風がジャケットの燕尾を揺らして終わる。
「っ───......速すぎだろ」
「
謎のスピード自慢が終わった、と思っていたわたしの襟首を強引に引く滑瓢の螺梳。わたしは抵抗する事なく引っ張られながらモズの背を見ていた。甲冑に包まれる巨体───の下、足元に何か......
「.......おい、おい!」
モズから相当な距離を取った螺梳はわたしを離し、強い声をわたしへ刺す。
「動くなよ、エミリオじゃ反応できないだろ」
「そんな事言ったって!」
「動くな!!」
突然すぎて脳が追いつかない、軽いパニック状態とも言えるわたしへ螺梳は強く声をぶつけ、わたしの腕を掴む。
「とにかく落ち着け!」
掴む手が強く、痛みさえ感じるものの奥歯を噛む螺梳の表情とその掴む痛みがわたしを止めた。
「あのメンツなら大丈夫、そんなヤワじゃない」
鍛冶屋ビビがわたしを安心させるように声をかけた。今この状況で慌てているのはわたしだけではないが、無謀な事をしようとしていたのはわたしだけだった。しかし無謀な考えも過る。なぜなら、今モズの前には斬り伏せられている仲間達がいるのだから。
剣撃はまさに風のように一瞬で駆け、白金ヒーラー3人と単眼妖怪ひっつー、ワタポ、音楽家ユカ、猫人族ゆりぽよ、人狼カイトを斬り伏せた。
落ち着いて確認してみると致命傷ではないものの、あのメンバーが斬られる程の速度を持つ攻撃だった事がわかる。迂闊に動いてタゲられたらマズイ。螺梳の判断がなければわたしは十中八九斬られていただろう。
「モズだっけ? アイツは動くものに反応すんのか?」
「わからん。が、下手に動くと狙われるだろ」
螺梳もモズの実態を知らない......巨体に似合わぬスピードを持つブショーモンスター。あんなのがこの島にいるのか?
「エミリオ、範囲隠蔽みたいな魔術ないの?」
鍛冶屋ビビは普段の熱量───誰よりも落ち着いた状態───でわたしへ魔術を要求しつつ、視線はブショーモズへ向けている。何か気付いたのか、それともガッツリ観察したい何かがあるのか、とにかく今はビビ様の案に賛成だ。
とは言え高効果の隠蔽魔術は環境が必須。例えば夜だったり霧だったり.......花弁......いけるか?
植物系は確か、水、地、風の組み合わせ派生......本来なら2属性を混ぜた魔術をまず覚えてからそれをアレやコレやと手を加え知識をしぼり生み出すモノだが、わたしの能力なら即興魔術くらい余裕だ。
「やってみる。合図を出したら眼を閉じて、次の合図でやられた奴等を救出してくれよ!」
そう伝え、水、地、風を同時詠唱しつつ混ぜ合わせ、発動する前にまずは花弁のイメージを魔術へ埋め込み、放出するように発動させた。
想像とはだいぶ違うが、ギリギリ花弁と呼べなくもないようなものが辺りを色濃く隠した瞬間に幻想魔術を詠唱、発動させる。
花弁を見たモズは眼光をブレさせるものの倒れたり膝をつくアクションは見せない。それでも今確実に幻想術に囚われている。
「───今だ!」
2度目合図で斬り伏せられた面々の元へ躊躇なく走る。ビビ様は付き合いがあるとして、他のメンバーはよくわたしを信じたな......と思いつつ、対象の重さを一時的に軽くする魔術を使い、倒れている者達を羽毛のように軽くした。
簡単に打ち消されるデバフだがバフとして考えればこういった場面では有能な魔術。
「こちらへ!」
抱き抱えた瞬間、療狸寺唯一の人間 千秋が声を張り退却ルートへわたし達を導く。先頭を走る千秋ちゃんの足取りはスムーズで、簡単にモズから逃げる事に成功。しかし足を止めず走り続ける事数分、建物が現れた。
「
「はい、とにかくあそこへ入りましょう」
鬼の羅刹でさえも驚いた建物の名前は
落ち着いて状況を整理出来るなら、洞窟でも地下水路てもいい。
小さな倉庫にも見えるが倉庫にしては作りが丁寧すぎる建物───社へわたし達は駆け込んだ。
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