◇430 -金剛と黝簾-



 魔女としてウルトラ級に覚醒したわたし、エミリオはこの腐れ空間に飽き飽きしていた。そんな時、ここへ近付いてくる魔力───魔女の気配を察知し、出口を聞くついでに少し修行相手になってもらおうそうしよう! と意気込んでいた所に、


「何でお前がここにいるんたよ......クソ魔女」


 全魔女の中で最も嫌いな魔女であり、今の魔女の頂点であり、わたしの母魔女、エンジェリアが現れた。


『......』


 黙り込むコイツは過去に何度かわたしの命を狙ったクソ魔女だ。狩りきれず最終的にはわたしを魔女界から弾き落とした魔女。

 そして───


「ダプネの母魔女、メリクリウスを殺したのもお前だろ」


『......ええ、そうよ』


「───ッ!」


 ブリュイヤール ロザを抜き、わたしはエンジェリアへ斬りかかった。動こうとしないエンジェリアの首をわたしの剣は綺麗に撥ね飛ばし、鮮血を噴き出し身体は折れ倒れ、首は落下する。


『───気が済んだかしら?』


「済むワケねぇだろ、人の記憶をいじり回してお前の罪を人に植え付けて、何がしてーんだよ!? アァ!?」


『貴女......とんでもなくクチが悪くなったわね。元々品性が乏しかったとはいえ、ここまで酷くなるとは予想外だわ』


「この空間もお前の魔術か何かだろ? わたしの記憶をいじり凍結してたコレも、全部お前の仕業だろエンジェリア!!」


『そうよ。記憶の方はストック オブ メモリア......未完成の魔術よ』


「何がストックだ..........何しに来たか知らねぇけど、わたしの前に来た事を死んでからどっかで勝手に後悔してろクソババー」


『あら? さっき貴女に首を撥ねられたんだけれど、後悔がないわね? でもまぁいいわ。久しぶりに “ママ” が魔術を見てあげるわ、エミリオ』


「───ッッ!!!」





『118回。最短で2秒、最長で6分弱。この数字が何なのかわかるかしら?』


 いつの間にか現れた床。真紅と純白のブロックで造り磨き上げられた冷たい床に倒れるわたしは、耳障りなエンジェリアの声で点になっていた意識が線となる。

 118回。これはわたしがエンジェリアに殺された回数。一番速くやられて2秒、一番粘って6分。

 わたしは今出来る全て───魔術は勿論、剣術、体術、全てを使って挑んだ。それでこの数字。


『よかったわね。幻想術の世界で相手が残滓の私で。全てが本物だったなら、一瞬で死んでいるわよエミリオ』


 わたしは確実に強くなった。強くなったのに、全く歯が立たない。こんな事あるか? こんな事あっていいのか?


『もうやめるのかしら?』


「うるせーよ......」


『これからその力、魔女力ソルシエールを貴女のスタイルで使い熟していきなさい。そうしなければ私どころか特級隊にも勝てないわよ』


「うるせーって!」


 そう叫び散らす事しか出来ないわたしは、本当に子供のようだった。全てを否定された気分だった。今までの努力も、全て。

 圧倒的な差を見せつけられて、何も出来ず鼻を鳴らしてる自分。


 わたしじゃ......本当に勝てないんじゃないか? エンジェリアどころか他の魔女にも勝てないんじゃないのか? 特級魔女の隊にも勝てないって言われたが、下手をすると単体にも勝てないだろ? だって特級魔女だろうと上級魔女だろうと、奴等は “魔女界” で長年修行をしてきた、今この瞬間も他の魔女を出し抜き超えてやろうとパワーレベリングする連中だぞ? 魔術に関しては世界一の魔女界で......環境が違いすぎるだろ。


『───そうね』


「あ? なにが......お前、頭ん中見てんじゃねぇよ!」


『魔女や悪魔と話す時は闇魔術、幻想魔術、幻惑魔術に気を付けるのは当たり前よ』


「ッ───......あのクソ眼鏡もそんな事言ってたな」


 以前フローに言われた事をそのまま言われたようで、気分が悪くなる。でも、認めたくない事たが、本当に認めたくない事だが、フローもエンジェリアも、確実にわたしより強い。そんな2人がクチを揃えてそう言うって事は本当に気を付けるべきなんだろう。

 そんな認めたくない輩のひとり、クソ魔女エンジェリアが言った魔女力ソルシエールを “わたしのスタイル” で使いこなす......アイツに教えてもらったワケじゃない。アイツが何も言わなくてもわたしは自分のスタイルで使う。そう、アイツに言われたからそう考えているワケじゃない。


「いや........こんな考えの時点でガキなんだろうな......」


『???』


 認めるしかない。今の自分と相手を認めて受け入れろ。胸糞ババアだが、わたしより強い。

 わたしより強いやつが今ここにいるんだ。魔女なんてもうどうでもいいって思い始めた矢先にシェイネとグリーシアンが地界に来た。ダプネがフローと手を組んだ。そしてエンジェリアが今ここに来た。

 どうでもいいって言葉でシカト出来る程、魔女共コイツらはおとなしくない。


 認めろ。わたしは───弱い。


「エンジェリア」


『なにかしら?』


「わたしはお前が大嫌いだ」


『......そう』


「殺してやりたいが、今のわたしじゃ殺せない」


『そうね』


「...........お前を殺せるだけの力をくれ」


『───?』


「お前を殺せるように、お前がわたしを育てろ」


『───は?』


「お前を殺せりゃ他の魔女にも勝てるだろ。そこまでお前が、わたしを育てろ───母親だろ」


『貴女───本当に何を言い出すか、何を考えているかわからない子ね』


「あ? どうすんだよ? やるのかやらねーのかお前が決めろ」


『教わる側の態度とは思えないわね?』


「育てた報酬としてお前を殺してやるって言ってんだよ。さっさと決めろクソ魔女」


『いいわ───最初からそのつもりだったし、貴女がそう言うように運ぶのは大変だったわ』


「あ? わたしが今こうするべきだって自分で考えて自分で決めたんだ。お前は黙って魔女力ソルシエールだの色魔力ヴェジマだのの事をわたしに教えてりゃいいんだ」


『自分で決めた.......そう、そうよね───いいわ、助言くらいならしてあげるから、実戦の中で自分で理解して自分で覚えなさい。』


「それで充分だ。速く終わらせたいし───」


『そうね───』



「───飛ばしていくぜ」

『───飛ばしていくわ』



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