◇431 -収束-1
シルキ大陸、通称【和國】。
地界にある四大陸のひとつで、長年その存在が迷彩かかっていた。他国との関係を最低限の中の最低限しか築いていない和國は鎖国大陸、空想の大陸......中には極楽、などと呼ぶ者もいた。しかし確実に大陸は存在しており、今ウンディーからシルキへ数十名の冒険者が上陸に成功し、その実態を明らかなものとした。
人間、妖怪、アヤカシ......ウンディー大陸に負けず劣らず、一癖も二癖もある様々な種が暮らす大陸であり、三大陸と肩を並べられるだけのシルキ特有の技術が存在していた。
そのひとつが妖力と呼ばれる力を用いた戦闘手段。
これについて基礎的な事を詳しく知りたいと思うフェアリーパンプキンだが、今はそんな事をしている場合ではないと、この場の雰囲気が訴えかける。
シルキ大陸 首都 京にある華組の本丸【蜃気楼】の2階大広間。4階は魔女が暴れたせいで落ち着いて休める状況ではない。他の階でもよかったのだが、知らぬ間に大所帯となった面々を一箇所に集めるには2階大広間がうってつけだった。そんな理由で2階に降り集まった面々は沈黙に包まれていた。
ウンディー勢は治療───薬品調合などをし、怪我人へ無償でポーションを提供している。
華組の兵隊は京の者達へ落ち着くよう伝え回り、遠くの空が赤く起き始める。
シルキの者───華組が「魔女が暴れて崩壊した城内の修理代うんぬん」と言い出したら「腐敗仏が暴れて出た怪我人の慰謝料と、そもそもなぜ魔女が暴れる結果になったのか説明を」と切り出すつもりでいるリピナ、ひぃたろ、ジュジュだったが、どうやら今この瞬間ウンディー勢は蚊帳の外らしい。
華、龍に雇われていた傭兵、大名から仕事を受けた鬼、の三組は一定の距離で互いを見合う事数時間。誰もクチを開かない状況にまさかまさかの天使みよがシビレを切らす。
「なぁおい」
なぜか半ギレの天使は三組が見合う中心へ進み、なぜか不機嫌そうな顔で、
「何やってんのよ? 喋る事ないなら早く終わりにしろや」
完全なる部外者が堂々とした口調と態度で組に割り込んだ。しかし、ウンディー勢は誰もみよを止めない。むしろみよが行かなかったのならば他の誰かが遅かれ早かれクチを挟んでいただろう。
「アレだろ? お前ら喧嘩ばっかりしてんだろ? 丁度いいじゃん。今言いたい事いえよ。喧嘩なったらあそこの連中が止めてくれっから。そしてさっさと終わらせて朝ごはんをご馳走してください」
朝ごはんを食べたい。腹が減った。食欲が天使みよを動かしていた。三組が喧嘩しようが殺し合いを始めようが、空腹状態のみよにとってはどうでもいい事。勿論お腹が満たされた時のみよは優しさを持つ余裕もあるが、今のみよは飢えた獣とそう変わらない気の短さだ。
「大人がいつまでも黙って睨みあってんならこの街の食料全部食うかんな。それを止めたきゃサクッと言いたい事言い合って、朝ごはんをご馳走してください」
朝ごはん要求を最後に言い、みよは戻る。
どうやらシルキ大陸───和國はウンディー勢が思ってる以上にデリケートで大きな問題を抱えているらしい。
◆
最初に動いたのは
「私達は大名から仕事を受け、
四鬼の二番手だが、頭のキレや対応力など、頭脳面が優れている八瀬はこういった場面では四鬼の
華組からは
「元を辿れば雇い主は大名だ。その大名が俺達を邪魔に思ったか知らねぇけど、掃除を始めるか......酒じゃなく金を出してくれりゃ俺がやるってのに、いい仕事もらったな四本角」
仕事内容は簡単なモノだった。華組の眠喰を拐い、邪魔する者は排除せよとの内容。ここをそのまま解釈するようなら大名も頼まない。邪魔する者は排除、これはその瞬間ではなく、今後も予想して、の排除。つまり、華と龍の戦力と戦意を削ぎ落としてから眠喰を連れてこい、との仕事。
残念ながら八瀬以外の四鬼はそう理解していないが、黙って眠喰を渡す事もないので結果的に血戦必須となる仕事。
こんな仕事内容───自分の命を狙われてる身でありながら白蛇は余裕ある発言と態度を見せた。四鬼を四本角と呼ぶ煽りも混ぜながら。
「四本角発言は......後で買ってやるからしまっとけ」
八瀬は白蛇へそう答え、白蛇は「そりゃありがたい」と言い螺梳の反応を待った。
「......これは、俺達に見せちゃまずくないか?」
最もな反応だった。仕事内容を教えてはいけないもいう決まりはないものの、大名からの仕事は基本的に汚れ仕事で、明日自分が対象になる事も当たり前にある。大名絡みの仕事は完遂後はキッパリ切り捨て忘れる、他言しないのが基本であり暗黙の了解とも言えるが、八瀬は依頼状まで晒した。
「私は螺梳に負けた身だ。それに、あそこの連中が大いにかき混ぜてくれたおかげで仕事どころの騒ぎじゃない」
傷こそ治癒しているが、本来の治癒速度では治りが遅かった魔女の攻撃に体力を大幅に削られた鬼。予想外が予想外の範疇を超えていたため、仕事優先に考えるのならば今ずく出直すのが吉だが、華組の上層部や崩壊寸前とはいえ龍組、そして四鬼が揃う場面はここを逃せば戦場以外にない。戦場では会話など無く殺し合うだけ。会話する機会は今この瞬間しかないと踏み、八瀬は踏み込んだのだ。
「私達鬼は......いや、私個人は今のシルキに不満はない。満足しているかと聞かれれば答えられないが、不満という不満はないというのが私の答えだ。しかし、仲間には今のシルキに不満を抱く者もいてな」
そう言い、八瀬は
「今回は彼女の意見を尊重......と言えば感じが悪いが、彼女の意見を汲み取り私達も彼女に力を貸そうと思っている。大名の仕事は私が螺梳に負けた時点で不達成、終わりだ」
八瀬は大名から受けた令状をこの場で破り捨てた。この行為は大名への裏切りだが、螺梳に負けた時点で八瀬は大名から命を狙われる身となっているので今更裏切ろうと結果は変わらない。
「そうか。んじゃ俺達華組は姫さんの意のままに動こう」
螺梳は眠喰を見て言い、下がった。
「俺は傭兵だ。元々金払いの悪い大名がそんな仕事を鬼に出したって事は、今回の料金も払わねえつもりだろう......俺は報酬を貰えるならどっちにだって付く。何だってやるぞ。報酬さえ貰えればな」
白蛇はあくまで傭兵と言い、話のまとめは任せる姿勢を見せた。
「私も傭兵だから、同じくお任せで」
ニコニコ笑うニンジャの傭兵、
「そうか───で、烈風はどうする? 一応龍組だろ?」
螺梳は黙り座っていた烈風の意見を求める。
「俺は......まず華と鬼の話を聞きたい。この国をどうしたいのか、それを聞かせてくれ」
龍組で唯一会話が出来ると言われていた烈風は噂通り会話を求めた。
長年叶わなかった、各組との会話───対話が今外の者がかき混ぜた事によりやっと始まった。
やっとシルキはシルキ大陸としての一歩進めるだろう。ここから、新たな一歩を。
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