◇248 -残滓と記憶のカケラ-12



 半透明に透ける女性が出した指示、魔女を力業でおとなしくさせる作戦が始まる。

 最初はアヤカシのあるふぁと四鬼しきの4人が突撃。腐食効果を持つ魔力に当たろうが構わず魔女へ突っ込み、魔女に近い部分の魔力を妖刀 鬼殺し で剥がすように斬る。この時ひと太刀加えてすぐに別の鬼へ大太刀を渡し、鬼殺しの特種効果エクストラを最大限かつ最小限で使う。

 鬼の命を啜る事で様々な効力を発揮する鬼殺し。まずは所有者であるアヤカシのあるふぁが二撃を入れ魔力を剥がす。次に星熊が剥がれた魔力の一部を力業で叩き斬り、太刀を受け取った金熊はもう一部を斬り刻んだ。

 ここで魔女は更なる魔力を溢れ出させ、重力魔術を砕き割った。半透明の女性が言った通りに事が進む。

 魔女が重力から解放された直後、鬼の数え唄が炸裂し魔女は数秒時を奪われる。ここで八瀬が新たに湧いた魔力を剥がし斬り、羅刹が魔女本体へ鬼殺しを突き刺した。

 数縛りが途切れた直後、華嵐が巻い魔女の視界を潰し、足下に冷気が走り魔女の足は凍結。羅刹はここで太刀を抜き下がる。するとあの女性が言ったように傷口からも魔力が溢れ散る。


「キリがない、キリがないですよ」


「ヒッ.....っ、凍結が砕かれそう」


『───!』


 ギチギチと軋む氷が突然、恐ろしい強度と冷たさを宿し魔女の足を強固に。女性が雪女の妖力へ魔力を上手に混ぜ込ませた。理論的には可能だがクチで言う程簡単なモノではない魔妖術を初見の妖力相手に完璧なまでに成功させた。


『次!』


 飛んでくる指示よりも速く動いていたのは、だっぷーと療狸寺やくぜんじの妖怪と千秋&テルテル、そしてしのぶ

 だっぷーは独特な形状の───無機質な魔銃を魔女から離れた位置で漂う魔力へ乱射し、魔力に銃弾が触れた瞬間、閃光が炸裂する。銃弾が破裂する前に療狸寺の妖怪は魔力を無属性妖剣術の峰で叩き集め、集まった魔力へテルテルが腕を突っ込む。だっぷーの閃光弾が炸裂すると同時に手に持っていた閃光玉を破裂させ、強烈な光が影を伸ばす。その影へ忍が特種な形状のクナイを投擲し、離れた位置で邪魔に漂っていた魔力をこれで全て縫い留めた。


 それらを、眠喰が現喰イマクイ───現実に起こっている現象などを喰い消す能力で一掃。


 これで今、蜃気楼4階に漂う魔力は魔女から今もなお出るモノだけとなった。


『魔術は飛んでこないわ! ここで一気に本体を叩きなさい!』


 エミリオの能力は多重魔術。一度の詠唱で現在は最大4種の魔術を詠み発動出来る。そこに魔術ランクも属性も性質も関係ない。

 しかし今ここにいる黝簾魔女エミリオはその能力ルールから外れ、複数の魔術を発動させつつ別のをゆっくり時間と魔力を使い詠唱していた。この連撃魔術と腐食性質を持つ具現化した魔力がレイドを足踏みさせつつ追い込んでいたが、今はそれも無くなり、魔女は足を凍結拘束されているので動けない。


 冒険者達は迷う心のまま魔女へ攻撃───総攻撃を仕掛ける。


治癒術師ヒーラーは溢れる魔力が消えたら治癒していげて頂戴。それであの子も止まるわ』


 総攻撃の雨の中、魔女が詠唱へ入る前にワタポは喉を叩く容赦の無さを見せ、一番エミリオを気にし心配していた者が一番容赦無く攻撃する姿に全員が迷いと遠慮を捨てた。

 攻撃がヒットする度に魔力が溢れ、それを鬼や妖怪が妖力を用いた剣術や術で潰す。一方的な猛攻が十数分続き、やっと魔女は魔力を切らした。


「流石は魔力バカね」


「本当だよ、攻撃を当てれば魔力が出る、出し切れば終わる って言われて簡単に考えてたけど、、、」


「はぁ、はぁ、やっと終わった...........」


 数十分間休む間もなく全力で剣術、魔術を繰り出していた面々は疲労困憊。フェアリーパンプキンはその場に座り、倒れている魔女を見る。

 治癒術師達は魔女を治癒した後に他の者の怪我などを治癒するものの、減った体力は休まなければ回復しない。

 突如現れた女性は妖怪達や冒険者へ声をかけて周り、最後にフェアリーパンプキンズの前へ。


『ありがとう、あの子を救ってくれて』


 深く、頭を下げた。他の者にもこうして深々と礼を言っていたのを見ていたワタポは立ち上がり、


「こちらこそ、エミちゃを救う方法を教えていただき、ありがとうございます」


 深く頭を下げた。その行動、言葉に女性は泣き出しそうに瞳を揺らした。


「......貴女が誰で、どうしてあの帽子バカの為にそこまで必死になってるかは聞かないわ。ただ、これだけは教えてほしい」


 半妖精は体力回復ポーション───と言っても体力の回復速度を大幅に上昇、活性化させるポーションだが───を飲み干し、


「エミリオの魔力、魔術、雰囲気そのものが完全に魔女だった......もし万が一エミリオが起きた際に今の同じ状態になったら、同じようにすればいいの?」


 同じようにすればいい? という質問、言葉に女性は数粒の雫を落としたが、誰にもそれは見られていない。


『そうよ。でもその万が一は絶対に起こらないわよ』


「? どうして、あなたがそんな事言えるの?」


 今度は魅狐プンプンが女性へ質問した。


『今のが魔女として、生きる者の覚醒......みたいなモノだから。強い魔女は皆あの状態になって、やっと本物の魔女として認められるのよ。本当は魔女界で済ませるべき儀式だったのだけれど......巻き込んでごめんなさいね。ところで貴女達もしかして───』


 女性はフェアリーパンプキンの3名をまじまじと見て、何かに気付いたように瞳を丸くした。

 残滓の女性は記憶のカケラが形となって未来いまにある事を知り、未来みらいへの種が美しく大きな花を開いていた事に、安堵した。


『本当はあの子は人に恵まれたようね......』


 女性は呟き、3名に背を向けるように倒れ眠っている魔女エミリオの方を向き、


『半妖精の貴女はこれから花の種を薬として摂取なさい。自分に合う種を見つける事が先決ね。魅狐の貴女はその耳を畳み尾を束ねる事を覚えなさい。そのままでは生活も満足に出来ないでしょう? そして人間の貴女は左右の瞳で効果を限定なさい。そうすれば両眼時限定で別の能力が開花するわ』


「花の種?」


「耳と尾を?」


「左右で限定?」


『ええそうよ。それと時間を作れるなら多種界-4の妖精の森にある城の地下、多種界-2のアキツキにある神社、多種界-1の叛逆の砦へ足を向けるといいわ。勿論それなりの覚悟をして行きなさい』


 そう言い残し女性は魔女の元へ歩み寄る。徐々にその姿が薄く消え始めている事にワタポは気付き、


「あ、あの!」


『? どうしたのよ?』


「えっと......ありがとうございました」


『───......どういたしまして』


 にっこり笑い、女性の姿は完全に消滅した。


 色々と聞きたいことがあったものの、ワタポはそれらを押し込みお礼を言った。





『手荒な真似で貴女の魔女力ソルシエールを起こしてしまって、外の皆には迷惑をかけたわ。貴女からも謝っておきなさいね?』


 それは突然響き、この空間に現れた。


 何千年と聞いていた声であり、何年も聞いていなかった声。ここに現れるなど微塵も思っていなかった存在。


『本当に......大きくなったわね、エミリオ』


「───何しに来た......」


 わたしの母魔女であり、わたしを何度も殺そうとした天魔女......


「.........エンジェリア」



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