◇425 -残滓と記憶のカケラ-9
眼が眩む程の魔術光───魔法陣に囲まれたワタポは自分を包み潰す閃光の中で、別の色を見た。半透明の赤色をした爪のような腕。
「───!?」
謎の腕───と呼んでいいのか不明な赤靄を追うように広がる冷気と、植物の香り。自分の腹部に何かが絡まり、強く引き戻される。
赤靄、冷気、植物の香り、引き戻される力。これらがほぼ同時に発生し、何十枚ものガラスが砕け散る尖音と共に魔法陣が潰れる。
何が起こったのか知る暇もなくワタポを引いた力は次にワタポを押し飛ばした。
「───行って!」
誰かの声が耳に響いたが、ワタポは振り向く事をせず魔女の元へ駆ける。
───ドメイライトで魔女と対峙した時とは違う、今は沢山の人がいるんだ。
「次はワタシが助ける番だね、エミちゃ」
冷気で冷えた刀身がワタポの意思を汲むように熱を高める。
◆
魔法陣に囲われた人間ワタポを助けたのは華組の三妖。眠喰が特質能力を使い赤腕で、雪女も変化能力を使い冷気で魔法陣を砕き割った。妖華も操作能力を使い根を伸ばしワタポを救出、すぐさまワタポを放るように飛ばした。
打ち合わせも無く、合図もなく、これらを一瞬で行った華の三妖を背に大妖怪の
「陣は任せて良さそうだ」
螺梳はワタポへそう告げつつ、飛んでくる魔術を斬り捨てる。
ワタポは投げ飛ばされた瞬間に瞳を、強化能力の見切り捉える黒円を発動させていたが、それでも捉えられたか怪しい程、螺梳の抜刀技術は凄まじいものだった。
現在魔女へ向かうメンバーはワタポと
ワタポもすいみんも初対面だが挨拶などしている余裕はない。
「みんみん、あっちは大丈夫か?」
「うん、化猫みたいな剣士達が凄い勢いで陣を破壊してる。それに、私の
すいみんが纏う半透明な赤の衣が先程ワタポを助けた腕を何本も生やす。
「それは......
「うん」
会話を終えたタイミングで音楽家は双剣を擦り、綺麗な音を奏でた。行動速度を短時間上昇させる効果を持つ
「私から行く!」
音楽家は言い残し、双剣を構え突き進む。
「半音下げ......ディストーション!」
ユカが考案した自分の性質───音性質を利用した奏剣術。音とは振動であり、奏でるモノ、聴き入る者で様々な色になる。
鍛冶屋ビビが生産した独創的な模様を刀身に持つ2本のショートソードが魔女の魔力に触れた瞬間、ノイズのような不快音を奏でた。
「───!? あらら、それなら......ハウらせる」
魔女の魔力と音性質を持つ魔力が重なり合った事で反発のような現象が起こり、ハウリングする。鼓膜まで一直線に刺さるサウンドに魔女は瞳を歪めるも詠唱は止まらない。三連撃は魔女が瞬時に展開した魔障壁によって受け止められたものの、ユカが初手を強引に選んだ意味、目的は達成されていた。
剣術の終了とディレイが発生する僅かな隙間にユカは体術───足に無色光を纏わせ魔障壁を蹴り、バックラッシュを利用して下がる。
音楽家ユカに気をとられていた魔女の視界の端で、一瞬小さな光が閃き、風が通過した。
『───!!?』
「───頼んだ」
腹部を狙い、一閃した
爆裂音と無数の衝撃、燃え広がる炎に包まれるも、すぐに風が逆巻きそれらを吹き飛ばす。ワタポの攻撃も魔障壁によって止められ、追撃の爆破や炎は風で吹き飛ばされワタポはディレイする。
螺梳の抜刀とワタポの爆破をあっさりと止めた魔女だったが、溢れ纏う魔力を濃密に凝縮した魔障壁で対応したため、それを失えば詠唱も魔術も一旦ストップする。
ユカの機転で発生したハウリングには感知、看破を一瞬だけ狂わせる効果があった。ハウリングさせずともディストーションで感知などを不安定にするのがユカの狙いだったため、結果的にディストーションよりもそれらに効果的なハウリングを起こせたのは万々歳だった。
ハウリングの感覚阻害が終了する前に螺梳は
すかさずワタポが爆破剣を撃ち込むものの、これも魔障壁によって阻害される。一度魔女モードの相手と戦闘した経験を持つワタポはこの程度では簡単に見抜かれいなされる事を理解した上で、単調単純な単発剣術を選んでいた。
音での感覚阻害に滑瓢の一閃が合わさり魔女の意識は螺梳へと移り、すぐにワタポの爆破剣で気を引かれる。爆炎に包まれる中で風魔術を拡散させ、再び見えたワタポの姿に完全に意識を向ける。
ここで、魔女の上から眠喰が薄赤腕を振り落とす。狙いは魔障壁───濃厚な魔力の集合体。
『───!!?』
ここで魔女は舌打ちを入れた。魔女の、エミリオの性格を理解しているからこそ、この作戦で必ず詠唱を阻害出来る。ワタポの読みはクリティカルでヒットし、魔女は舌打ちにより詠唱していた魔術をファンブル。
さらに、眠喰の特質能力【現喰】が魔力の集合体を喰い潰した事により辺りで狂い咲いていた魔法陣も消滅、ディレイが上乗せされる。
ユカは剣術と体術のディレイ、螺梳も剣術ディレイ、ワタポも剣術ディレイ、すいみんは打ち消した魔力量が想像を絶する濃度だったためその反動に襲われる。
「馬鹿かお前ら。決定打なしじゃ意味ねぇだろ」
喉を鳴らした笑い声を混ぜ、虎視眈々と隙を狙っていた白蛇が、まず二本の小太刀を煙らせた。ししとだっぷーからポーションを譲り受け、すぐさま行動した白蛇がここで。
「どうした? 魔女なら魔術で対応してみろよ?」
小太刀を魔女へ突き刺し、未練なく手放したかと思えば次はクナイを投げ刺しつつ蹴りなどでダメージを与える。驚く程身軽な動きに反した重い打撃に魔女がぐらつく。ここで白蛇は背負っていたカタナを抜き、魔女の首へ迷いなく振り下ろす。しかしここでディレイが終了し、魔女はカタナが首に届くよりも速く魔術を破裂させた。
「チッ、惜しかった」
完全に殺す気でいる白蛇へワタポは奥歯を強く噛み、何かを言おうとクチを開いた瞬間、今までの魔力には無かった悪意のようなモノを孕んだ魔女の魔力が蜃気楼4階に、濃密に充満した。
「おい、これは流石に笑えないぞ」
「これは......
「魔女ってこんなにも凄いのか......」
白蛇、眠喰、螺梳が過剰にも思える反応を見せたのは、魔女の濃密な魔力に対して───ではなく、蜃気楼の
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