◇424 -残滓と記憶のカケラ-8



 わたしの魔力は60パーセントが魔女力ソルシエールで、それは別のところにある。魔女力を魔術に使えば、ただの魔力を使うよりもぶっ飛んだ威力や性能の魔術になる。

 んでも魔女力を使った魔術───魔女の魔術は必ず身体に反動が飛んでくる。

 魔女力は減っても自分の魔力を魔女力にする事で戻せる。魔力は時間経過や薬で回復する。


 ここまでは体験済みだから知ってる。


「さぁ───飛ばしていくぜ!」


 まず自分のアッホ程ある魔力を全てを魔女力ソルシエールにする。ダプネが言うには60パーセント以上持つとわたしが暴走してしまうからだった。が、今ここで暴走しようが暴発しようが爆発しようが、なんて事ないだろ! 知らんけど。

 60パー以上を魔女力にしようとすると、頭の中に分厚い靄か現れる......これがうざってーから魔力を爆破させるように拡散させてブッ飛ばす!


「よっしゃブッ飛ん───だぁ!?」


 頭の中に直接何かが流れ込んで───いや、頭の中にあった風船が破裂して、その中にあったモノか溢れ出てくるような......


「───濃紺色の空に浮かぶ顔のある三日月......カードで賭けをするスーツカエルと、あれは......魔列車? 魔結晶片の街灯やお菓子の宮殿......これ、は.....魔女界の、記憶?」


 記憶の奥深くで霧かかり凍結していた───遠い昔の記憶がわたしの頭の中で再生される。





「前衛は今自分が出来る最大火力の剣術を用意! 中衛は手数重視! 剣術なら重撃に、魔術なら魔力を上乗せ! 後衛は治癒術を連発! 殺すつもりで一気に攻める、全員周りを気にするな!」


 ひぃたろの声が響き、魔女は臨戦態勢へと入る。それを合図に開戦。作戦とはとても言えない作戦、指示にしてはあまりにも無謀な捨身、しかし今この状況でこれ以上ない仕切りだった。殺すつもりで周りを気にせず挑む。これがどれだけ楽な事か。

 本来、この様な作戦とも言えぬ作戦は最大レートSS-S2を持つ大型モンスター戦や特異個体戦などで劣勢状況時に、命を捨ててでも食い止めなくてはならない、という時に行う捨身の終手。そのカードを小さな魔女へ切る事になるとは誰も予想していなかっただろう。

 魔女が何十という魔法陣を展開させると同時に、何十という剣光、魔光が瞬いた。


───魔法陣から魔術が放たれる前に、魔法陣そのものを破壊する。


 ひぃたろは翅を広げ宙に展開された魔法陣へ剣術を撃ち込む。


「ゆりぽよ! だっぷー!」


 半妖精に名を呼ばれた中衛の2人はすぐに理解し、弓、銃で宙の魔法陣を狙い撃つ。壊しても壊しても展開される魔法陣。破壊対策か展開と同時に発動されるものも。


「下はボク───ボク達が壊す!」


 魅狐プンプンは白雷を纏い、星霊界で見せた桁外れの速度と手数を持つ魅狐剣術【雷月華】で届く範囲の魔法陣を次々と、豪快に、粉々に、砕いていく。

 プンプンの姿は全く見えず、ひとりでに砕け散るような魔法陣。速度の範疇を超えるスピードを追うもうひとつの風。鎌鼬の烈風が能力を使い、自身の速度を大幅に上昇させプンプンとは違う方向から魔法陣を砕く。2人が全力疾走で砕き散らしても手数が足りない。破壊しても次から次へと展開される魔法陣と発動される魔術。


───エミちゃんの同時魔術って最大3つじゃないの!?


 プンプンは叫びたい気持ちを噛み砕き、とにかく狐眼に写る魔法陣を潰し続ける。能力の突破───覚醒した事により魅狐剣術【雷月華】は速度と威力は勿論の事、持続力と精密度が大幅に上昇している。それでも対処が全く追いつかない。

 後衛───治癒術師達がひたすらに回復をしてくれる中で、ワタポは魔術を斬り潰しながら思考を広げる。


───魔術も魔法陣も数は凄まじいけど......魔女の魔術ってこんなにも簡単に潰せるものなの?


 何かが引っ掛かる中でワタポは能力により瞳に浮かんだ白黒の円の黒───先読みではなく見切り───を内側にし、魔女へ視線を集中させる。動きの先を見る白ではなく、今現在の動きを的確に捉える黒は、集中する事でフォーカスを強化しズームする事が出来る。


「ッッ.......」


 眼球が痙攣し瞳の奥が重く神経が焼ける中、ワタポの視界は小刻みに動く魔女の唇を捉えた。


───詠唱!?


 魔術を使いながらも魔術の詠唱をする魔女。発動と溜めを同時に行えるものなのか? と考えたがすぐにその考えが必要ないものだと気付く。そう、相手は魔女でありエミリオ。常識に照らし合わせても何の意味もない存在である事をワタポが一番よく知っている。

 瞼を閉じ、能力を解除したワタポは大きく息を吸い込み、


「───魔術を詠唱してる! ワタシは本体を叩いて阻害する、この魔術の雨を抜けられる自信がある者は続け!」


 何年ぶりだろうか、騎士時代を思い出す口調で叫んだワタポは長剣を荒く撫でた。熱を宿す刃を大振りし、手近にある魔法陣を砕き割り魔女へと駆ける。


 大量の魔法陣がワタポの周囲に展開され、視界が魔術光に潰される。


───やば、





 酷い記憶だ。使魔をグリーシアンに殺されて荒れ狂ったわたしを止めるべく、当時の特級と宝石魔女が駆け付けた。そしてわたしはその魔女を殺した。幼い魔女子レベルのわたしが、特級と宝石を。

 グリーシアンを追い詰めた所でダプネが来て、泣きながらわたしを止めようとした。そのダプネを吹き飛ばし、黒眼の魔女グリーシアンへ魔術を放った。しかしその魔術はフローの魔術で潰され、フローの魔術にわたしはねじ伏せられた。


 そうなんだ。わたしはフローを知ってる。いや、フローに魔術を教えてもらっていたんだ。

 でもこの日からフローはわたしに魔術を教えてくれなくなった。そしてこの数日前からわたしは幽閉されていたんだ。

 その理由が思い出せない。思い出そうとしてもまた靄が現れる。


「......チッ、誰だよ......わたしの記憶に靄かけたアホは」


 これは間違いなく、何らかの術だ。魔術なのか呪術なのかは不明だが、意図的にわたしの昔の記憶が凍結、隠蔽されている。それも相当凄腕の術者によって何重にも。

 今そのカケラが解凍した。理由はわたしの魔力とこの術の魔力がいい感じに絡み合ったからだろう。となると、この術者はわたしを、わたしの魔力をよく知る者であり、いつかこうなる事を予想していただろう。


 フローかダプネか......或いは......。


「......まぁいいや。わたしの魔力で溶けるような凍結だ。もう少し魔力そのものの使い方を覚えれば自力で溶かせるだろ、それより───」


 わたしは打ち破った魔術の破片を───と言っても眼で見えるモノではないが───分解する事にした。


 地界で生活していて、これに似た違和感───考えなくていい、知らなくてもいい、と誘導されるような違和感をわたしは知っている。

 それをぶっ壊すヒントになるかもしれないこの魔術を分解し、その特性を応用すれば対となるものが作れる。


 わたしは初めて見た魔術や剣術、能力などを、こうやって自分で分析、分解、そしてアレンジを加えて自分のモノにしてきた。

 プーの雷纏いの移動やワタポの先読み、タイタンズハンドもこうやって自分に合う形で再構成───パクってきた。


 それをこの謎の術でやればいい。


「誰だか知らねーけどバカだぜ。何でもホイホイ見せびらかしてるとパクられるぜ? わたしみたいな天才にな」



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