◇409 -桜香る都の夜-1
蜃気楼で四鬼が暴れ酔う少し前の京。
道なりに咲く桜は月光を浴び、薄月色の花弁を降らせる。ひらりふわりと泳ぎ落ちる花弁の先には───京の者達に囲われる形で濃桃色の毛を持つ
所々に藤色のメッシュが走る猫人族は形の良い耳をピクピクと動かし、尾を立てる。
キノコ帽子の獅人族は周囲の者達をグルリと見渡し、人間の中に人間ではない存在───妖怪が居る事を知る。
「やっちまったニャー......街の人が私達にぃ敵意ムンムンにゃったとはニャ」
「争うのはいくない、お願いしてみよ」
敵意の視線に囲われる中でもキノコ帽子の獅人族、ししは臆する事なく語り寄る。
「友達が怪我をして、安静に出来る場所へノコノコ向かってたです。通してください」
「お
頭を下げるししに習い猫人族のゆりぽよも頭を。敵へ頭を下げ首を差し出すような姿勢はどうなんだ? と考えるも今はししの行動に合わせるべきだと、ゆりぽよは直感で思った。
「何が友達だ.....我々を守ってくださっている華の皆様を襲撃した分際で!」
───それ私達じゃニャいニャ!
───それエミたんだ!
と強く思うもクチにはせず頭を下げていると、人間か妖怪かはわからない男の発言は周囲へ飛び火する。もう誰が何を言っているのかさえ聞き取れない状況で───ゆりぽよは聞き取れているが───京の夜は騒がしくなる。いざとなったら何人か吹き飛ばして突っ込む。と血の気の多い猫人族が考えるも、ゆりぽよの表情からそれを読み取ったししは頭を揺らし強行作戦を止める。
「大体お前達はどこからきた!?」
「そーだそーだ!」
相槌を打つ声をゆりぽよの耳が妙にハッキリ拾った。
「服装も
「それ! ほんとそれ!」
また相槌を拾う。先程よりも明確に。
「猫又なら尾が二つ......コイツは一つだ!」
「って事は化物じゃね!? でも猫かわいい!」
この声を......知ってる。ゆりぽよの記憶はそう訴えかけ、周囲を見渡す。すると明らかに和國衣服ではない物が群衆に紛れ込み「明日はキノコカレーか!?」だの「キノコカレーってうまいの?」だのひとりで全く馴染まない相槌を堂々と発する。ししもそれに気付き、2人は同時に眼を見開いた。
「「あ───」」
その者の名をクチにしようとした瞬間、しびれを切らした群衆のひとりが2人を死角から長棒で突き伏せようとする。相槌する者に気をとられ、ゆりぽよの感知は遅れる。長棒が30センチ程前まで突き進んで来た所で、バチッ、と破裂音が響き棒を焼き折った。
それは小さな雷だった。棒を焼き折り、地面を軽く焦がす雷に群衆はどよめき、
「───アイツらだ!」
「む!? また他国の.........!?」
雷を放ったであろう影を指差し声をあげるも、その姿を見て京の民は言葉を失った。月光と桜吹雪を浴び、言葉にならないほど幻想的な姿を披露する半妖精。その横には眼鏡をかけた知的な顔立ちだがどこか派手な髪型の女性。そして、京に、シルキに違和感無く溶け込む銀毛を夜風に揺らす朱眼の狐。
「お、お狐、様?」
震える声で溢れた言葉に京の民はさらにどよめく。銀の髪と高く形のいい耳、そして扇状に開かれた九本の尾。その姿は京の者ならば誰もが知る存在。
「ミ......
「───うぇ!? ボク?」
歓喜するような声の雨に噂の魅狐様、プンプンは驚き戸惑う。群衆はゆりぽよとししの事などすっかり忘れ、プンプンへ駆け寄る。そんな群衆を
「それ以上近づくな」
散る桜の奥で刃よりも鋭く光る半妖精の眼光と行動は京民を黙らせるには充分だった。妖艶な魅力を纏った半妖精、ひぃたろ はプンプンへ視線を流し、頷く。
「みんな、ボクは魅狐だけど、みんなの知る魅狐じゃない、お狐様ってやつでもないんだ」
静まった群衆へプンプンはハッキリと言い「ごめんね」と付け足した。それでも、プンプンが魅狐族である事は嘘ではない。そもそも狐耳と狐尾を持つ種は魅狐以外に存在しない。属性をそのまま操る力も魅狐特有のモノで、狐耳があるのに通常の耳もある。どこをどう見ても魅狐である事は疑いようがない。
再び活気付くように騒がしくなる京民へ、プンプンは一言。
「ボクの事をどうこう言うのは後にして、まずは───どうしてボクの友達をみんなで囲い突いていたのか聞かせてもらえる?」
プンプンは耳先をパチッと鳴らし、線雷で脅すように言った。しかしそんな必要もなかった。群衆のひとりが渋る事なく事情を説明し、ゆりぽよとししも話す。早とちり、というには違うが、犯人違いである事を納得し京民は2人へ謝罪。2人も騒がせてしまった事を謝罪し───ゆりぽよは謝りたくなかったらしいが───魅狐様の願いならば、と宿屋の一室を提供してくれた。
部屋に入るやすぐに知的眼鏡の派手女ことリピナがキューレを無理矢理にでも起こし、その
それからなぜ4人が和國にいるのか、なぜキューレが大怪我を負っていたのか、なぜ京が騒がしかったのかなどを話した。竹林道で天使みよが感知した “やべーやつ” の正体が
「───んあん!?」
という声と共に煎餅を少しクチから飛ばした。竹林道から京へ向かうただならぬ気配を感知。その気配のうちのひとつをみよは妖精の都で直接ではないものの、その気配に出会っていた。
「おいおい冗談じゃねーぞ! アイツいる!」
「アイツ?」
煎餅の破片を飛ばすみよへ呆れるように反応した半妖精へ、みよは熱を下げる事なく、
「妖精の街にいた人間! 直接会ったことないけど......こっちにすげー敵意向けてる!」
みよの優れた感知力はその気になれば種族も敵意も一瞬で感知する。今みよは竹林道のみを見た感知をしていたが、ひぃたろとの会話中に
「え!? 誰!?」
と今度は手に持っていた煎餅を砕いてしまう程の驚きと共に、麻酔で眠るキューレの方を指差した。そこには、
「こんばんは」
と柔らかく言うニコニコ笑った───知らない人がいた。
軽装に身を包み、眠るキューレを覗き混むように見ていた見知らぬ女性。みよの声の後、全員が素早い警戒を広げ、その者は、
「凄いね、特にアナタ。一瞬で私を殺ろうとした」
半妖精を指差し、ニコニコ笑う女性は「驚かせてごめんね」と謝り、足音もなく歩み、砕け落ちる煎餅の破片をつまみあげ、みよへ渡した。
「私は
忍と名乗ったニンジャは「そっちにも落ちてるよ?」とみよへ言い、変わらずニコニコしていた。
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