◇359 -現喰-14
自分ではなく能力が大事。
そんな発言にモモは腹の底から怒りが沸き上がった。しかしそれ以上の寂しさがモモのクチを凍らせた。
「.....みんみん、それはあまり面白くない話だよ」
冷たく、呟くように言ったのはモモではなくスノウ。彼女はすいみんの発言に悲しさと寂しさを感じ、それ以上に純粋に怒っていた。
「
「そう、、だけど、状況が状況だし」
「今みんみんは私達に、自分を殺して悪い事をしろって言ったんだ! 私達はみんみんを大切な友人だと思ってるのに、私達にみんみんがそんな事を言ったんだ!」
雪女とは思えない熱のある声。まっすぐな光を燃やす瞳が眠喰を突き刺す。
それでも、今すぐ瘴鬼を消す方法は他にはないのが現実。
「.....じゃあどうすればいいの」
───これが現実なんだ。
「私達がここにいるじゃん、ミソ」
「───え?」
「ちょっとは頼ってくれなきゃ、みんみん雪女より冷たいよ~」
「どういう事......? だって、瘴鬼は鬼にとっても毒で、私もふたりも触れれば無事じゃいられないかも知れないんだよ!? でも、でも私なら、
すいみんの言葉を聞き、ふたりは笑顔で答える。
瘴鬼が街や村まで流れ触れれば、烈風のように肌が焼け爛れる。外では冒険者だったり国では龍組だったりと、普段から危険と隣り合わせの烈風だからこそ耐える事が出来たとも言える。平和に暮らす者達が瘴鬼に触れれば苦しみ、命を落とす者も現れるだろう。鬼が瘴鬼の存在を知れば夜叉を殺しにくるだろう。そんな状況でも、ふたりはニッと笑い、すいみんへ言う。
「
「そうそう、みんみんが瘴鬼を食べたら次はモモさん、妖華の出番! そして私、雪女の出番!」
「.....え?」
「瘴鬼はここから消えたとしても、ミソの中に残るでしょう? 分解出来るかもわからない......だから、その瘴鬼を妖華が吸収して花する。その瘴華をスノウさんが凍らせる。そうすれば溢れる事も残る事もないよ」
「そういう事! だから───美味しくなくても残さず食べろよ、みんみん!」
「ゴリ.....スノコ.....」
───どうにもならない現実はいつも眼の前に突然現れる。考えて考えて、考えて、やっと見つけた答えはいつもひとりぼっちで。でも今は、今だけは違う。
「───そう、だよね」
あの時とは違う。
眠喰はモモ、スノコ、あるふぁ を人間からアヤカシへと変えてしまった昔の事を思い出した。
そうしなければ、今ここにいない。そうするしかなかった。例え人間の頃の記憶が欠落したとしても、眠喰はそうしたかった。一緒に居たかったから。それが眠喰を苦しめる結果になり、怖くて夜も眠れず、あの頃から何百年と眠らず夜を過ごしてきた。退屈で窮屈な蜃気楼に籠り、徐々に自分の存在と能力を天秤にかけるような考えをしてしまっていた。しかしそれは必要なかった。勘違いだった。
───ゴリもスノコもあるるんもラスカルも、私の友達なんだ! 助けたいし助けられたい、助けて助けられてもいいんだ!
「ゴリ、スノコ───頼むね」
◆
「んな───!?」
大空を飛ぶ鳥の背から見えた赤色の何か。
博識の魔女と名高いこのわたし、エミリオ様でも知らない何かに、驚き声が溢れるのは仕方ない事だ。魔力でも、もちろん
「なぁ、離れてるのに眼で見えるレベルの妖力ってどうなの!? 危なくね!?」
何が危ないのかさっぱりだが、あれが妖力ではなく魔力ならば危険だ。魔力に似て非なるモノが妖力だろうけど、似てる雰囲気が1ミリでもあるなら危険な気がしてしまう。
「なぁおい! どうなんだよ!?」
誰も何も言わないし、見ようともしない。
「なんだってんだよ......あ?」
ここでわたしは短剣がまだあの場にある事を知る。と言ってもテルテルの手を放そうと足掻いた結果、鞘に手が触れて思い出したのだが、とにかくわたしの大事な武器があの場にあるならば、取りに戻らなければならない。決してこの妖力が気になり見に戻るのではなく、自分の大事な大事な武器を回収しに戻るのであって、妖力見たさに戻るのではない。
そうと決まれば、早いところテルテルの手から逃れ鳥の背から降り、戻らなければ。
「...........、........」
「......? なんだエミリオ」
ジッ、とテルテルの顔を見るわたしへ、テルテルも反応する。それでもわたしは見続け、テルテルの気を完全にわたしへ向ける。まるでタンカーのヘイト管理、アグロ稼ぎのようにテルテルのタゲを自分へ濃く向ける。そして───攻撃する。
「!?───.......」
風よりも速く手を動かし、わたしは一撃で、それも一瞬でテルテルを気絶───と言っていいのか不明だが───させた。ゆるりと緩む腕からこっそり抜け出し、わたしは烈風と千秋ちゃんにバレぬよう、ひっそり、ゆっくり、鳥の背から飛び降りる。降りる瞬間にテルテルへ “値札” を返すように適当な位置へ貼り付け、大空へスーパーダイブ。
「.......っ!? エミリオ!」
「ん?」
「えぇ!?」
値札をつけてすぐテルテルは眼を醒まし、わたしの名を呼ぶも、残念ながら噂のエミリオさんは、
「武器忘れたから取りに戻るぜ。テルテル───やっぱお前も死体なんだな」
竜の魔箒【ピョンジャ ピョツジャ】に足を乗せ、わたしは妖力溢れる場所へ爆走する。鳥が追ってきてもブッチギリするため、風魔術を使い速度をギリギリまでブーストした急降下は中々の恐怖だが、特別な訓練を受けているエミリオ様だからこそ耐えられる速度なのだ。
それにしても、やはりテルテルも死体だったか。巨大鳥の値札とテルテルの値札は文字こそ違ったが、紙質や文字色は同じだった。両方とも千秋ちゃんがつけたものだろう。つまり、千秋ちゃんの
「リリスの能力に似てんな」
そう考え呟いているうちに、例の妖力噴水の上空へ到着。予想通りの濃度を持つ妖力、ここで臆する事なく急降下をキメるのがわたし.....だが、それは海底洞窟を破壊した頃のわたしだ。大人になった今のエミリオさんは危険行為をしない。
少し離れた位置にゆっくり着陸し、苦手な隠蔽魔術を詠唱、発動させる。省略詠唱───魔女の詠唱だとハイドレートを上手く稼げない魔術になってしまうのは、わたしが隠蔽系に向いてない性格だからだろう。そんな事はさておき、箒を握ったままひっそり、コソコソと妖力ドバドバエリアへ接近し、竹の影から覗き見えたソレに、
「───!?......なんだ、あれ」
わたしはただただ、驚いた。
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