◇353 -現喰-8



スノコ───雪女のアヤカシ、スノウが放った氷結弾は簡単に払い落とされたが、触れた部分は軽く凍結していた。


ゴリ───妖華のアヤカシ、モモは大太刀をカタナでどうにか弾きやり過ごした。


あるるん───夜叉のアヤカシ、あるふぁ は一旦下がり私達の様子を見るように唸る。


そして私───眠喰の妖怪 すいみん───は足裏が深く根を生やしたかのように、動く事さえ出来なかった。



「みんみん下がってて!」


普段とはかけ離れた氷柱のように鋭い声が私を冷やす。強く響いた声に身体がビクリと震え、考え過ぎていた私の頭は現実に戻される。

スノコの声を合図にあるるんも身体を揺らし、大太刀 鬼殺し を両手持ちで構える。半鬼───半分鬼化している状態で鬼を喰い殺すカタナを構え、鬼殺しは褐色光を纏う。


「ヒェ!? 私、貫通系の妖剣術は苦手だよ」


「私が壁をするからふたりは下がってて!」


「え、え!?」


なんで、どうしてそんな簡単に切り替えられるの? どうして、なんでそんな簡単に武器を向けれるの? 仲間内で争ってる暇なんてないのに、そんな事してる時間ないのに。今の状態で夜楼華が開花なんてしちゃったら、どんな事が起こるのか想像も出来ないのに、


「全部受け止められないから、早く下がってミソ!」


どうしてこんな時に──────いや.....私の方が、どうしてこんな時に夜楼華なんてものを気にしているんだ。今何よりも優先すべきは───


「───受け止められなかった分は私が叩く! スノコは回り込んであるるんの足を止めて!」


昔からそうだ。

思い悩んで、そのまま堕ちてしまいそうになるのは悪い癖だ。


「ミソ.......ッ!」


この判断が間違いだったのか、それは今すぐにはわからない。でも、眼の前でそれが起こっていて、何もしないのは、何も出来ないのは───嫌なんだ。





「お? あの金髪もヤル気か?」


鬼が剣術───おそらく妖剣術───を凄そうなカタナへ溜め纏う中で、首や肩を凍結止血させている白桃髪の謎妖怪と共に金髪妖怪もカタナを抜いた。雪色髪の妖怪は魔銃へ息を吹きかける謎の行動を済ませた所で鬼が土を掻くように地面を蹴った。


巨大鳥の上で隠蔽術を発動させ、許されるギリギリの高度から観察を続けているわたしはやっと始まった鬼退治に視線を釘付けに。

千秋ちゃんは観察せず何かしているが、観察したいのはわたしであって千秋ちゃんは付き添いみたいなものだ。


金髪の妖怪は鬼の武器それとは比べ物にならないほど華奢なカタナを身体の横で構え、緑色光を。白桃髪の妖怪は青色光を。療狸ポコちゃんから教わった妖力データを脳内で開き、色と属性を合わせてる。金髪は風で白桃は水、鬼は褐色光だから.....地属性、貫通か?

緑、青、褐の線が一点へ集まるように寄り合い、激しくぶつかり合う。全員連撃系の剣術らしく轟音と共に三色の剣術光が何度も破裂し、最後に一際大きな音が響き、金髪と白桃が力なく吹き飛ばされる。

褐色光───地属性の貫通効果は受け止めた時点で発生するのか、ぶつけ合う度に金髪と白桃は苦しそうな表情を浮かべていた......よく見ると白桃の方は金髪よりも早い段階で身体を起こしている。なんでだ?


「───お?」


妖剣術同士のやりあいに眼を見張っていたわたしだが、雪色の妖怪が鬼へ回り込み氷結弾を放った瞬間を見逃さなかった。魔銃に吐息.....氷結.....あの妖怪の特性なのか、それがリロードであり吐息が魔弾になり剣術ディレイ真っ只中の鬼の脚へヒット。ダメージこそ薄いが恐ろしい速度と濃度で脚を凍結拘束した。


「やるな.....他の種族も妖力使えたら魔術いらねーじゃん」


妖術についてはわからないが妖剣術はわたしが扱う魔剣術とほぼ同じに思える。が、決定的な違いは詠唱の有無だ。わたしの魔剣術.....魔女剣術は空前絶後の天才魔女であるエミリオ様だから可能となった夢の戦法。他種族どころか同じ魔女でも難しい。しかし妖剣術は自分に妖力があれば可能。そういう点では妖剣術は魅力的に思える。


「エミリオさん、満足しましたか?」


「あ? 満足までじゃないが妖剣術は見れたし、まぁまぁかな」


「なら止めに入りましょう、あの方々は華組.....今は龍組と争っていますが、華も龍もこの国にとっては大切で大きな存在なんですよ」


「なるほどな.....鬼退治して助けるって感じだから寺の連中も外出オーケーくれたのか」


あれだけわたしを監禁したがっていた狸女がここに現れていない事。狸に忠実なひとつ眼と枕返しがあっさりわたしを放った事に今ようやく納得がいく。

つまり───


「鬼を退治してアイツら助けりゃ感謝されてヴァンズがっぽりいただけるってワケだな。そーゆーの何百年も待ってたんだよ」


「え? えっと、それはどうでしょうね?」


「金がねーなら鴉をよこせって話だぜ。ちょーど試したい事も沢山あるし、ちょっと行ってくるぜ」


「あ、え!? エミリオさん!?」


わたしはフォンをスササと操作、1秒とかからず魔箒を取り出し、


「さぁ───飛ばしていくぜ!」


気合いの言葉を残し、魔術の詠唱をしつつわたしは巨大鳥からその身を投げた。



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