◇347 -現喰-2
風を斬り風に研がれる太刀。
対して夜叉は能力の壁───ステージとフレームの壁にぶちあたり、越えるか呑まれるかの狭間で最悪な事に暴走状態。そこで鬼の枷が外れ、鬼の毒と言われる瘴鬼を纏い散らす存在、躊躇なく大太刀を振るう夜叉。
本来どちらが強いなどはわからない。
しかし今、今後の和國を想う気持ちを持つ烈風は攻めきれず、あるふぁは心を失った化物のように荒れ狂う。こういった戦闘では心中の違いが結果に大きく関わってくる。
「こまたねぇ.....」
眼に見える妖気を纏う鬼、自分の肌が瘴鬼に焼かれ爛れる中で烈風は太刀を器用に回し肩へ担ぐ。
反響音のような和音を響かせ回された太刀は風を斬り、風に研がれ、こぼれていた刃が鋭く滑らかに。
───プンさんが暴走した時は確か.....ひぃさんが尻尾を斬って止めたんだっけ? なら今は角かな?
以前プンプンが街中で暴走した時の事を思い出し、今回に繋げる。能力が暴走した場合は気絶させる。暴走と呑まれは別物なので暴走の場合は極力気絶を狙う。最悪は討伐になるが、呑まれよりも断然、討伐を渋る。変化系の場合は変化時に追加された部分を狙うのが効果的であり鎮静できる事を烈風はプンプンの件で知っていた。が、鬼の角は魅狐の尾に比べ小さく場所も悪い。
「本当にこまたねぇ.....」
ついさっき呟いた言葉と同じ言葉をクチにするも、表情は先程とは違い、烈風は鋭い視線をあるふぁへ突き刺す。肩に担がれた太刀は刀身を緑色光に震わせ、烈風の全身を包むように風が巻く。
風属性の妖剣術と烈風の速度を過剰に上昇させる強化系能力が重なる。
落ち葉を巻き上げ、神速と言える速度で攻撃に出た烈風を───夜叉は待っていたかのように大太刀へ妖力や瘴鬼を纏わせ迎え撃つ。
風を斬るような一閃の撃ち合いは一瞬で終わり、あるふぁは胸を大きく斬られ、傷口は遅れて現れた風の刃により抉り広がり、血液がドバッと溢れる。烈風は鬼殺しこそ受けなかったが高密度の瘴鬼へほぼゼロ距離まで接近したうえに拡散されてしまえば浴びずにはいられない。顔の左側や左腕などが壊死したかのように赤紫に焼け爛れ感覚を失う。
「鬼の瘴鬼は楼華結晶───楼華病と似た症状になるんだな」
半身を一瞬で奪う瘴鬼を前に烈風は自分の甘さ、殺さずの心を自分で笑い、身体は揺れる。
楼華病は進行型、侵食型で他者にも感染する恐れがある。
瘴鬼は楼華病とは違い進行侵食しないものの一撃の威力は楼華病を越え、他者への感染はないものの感染者の体内に瘴鬼は残り、感染者を悩ませる。厄介度数ならば圧倒的に楼華病だが、対峙する場合となれば瘴鬼も厄介に変わりはない。救いだったのは、夜叉は瘴鬼を操れていない上に鬼殺しを持っていたという点だろうか。
半身の感覚を失ってもなお倒れる事なく夜叉の前で武器を構える鎌鼬。
自我崩壊の状態で唸り大太刀を荒振りする夜叉。太く立派な竹を豆腐のように斬り散らす夜叉は鎌鼬との距離はおろか位置さえ把握出来ていない始末だが、瘴鬼の鬼───枷を外した鬼へ迂闊に接近するのは自殺行為に等しい。
───枷なしの鬼は異変種って所かな?
烈風の頭は冒険者達がモンスターなどに使う言葉を思い浮かべるだけの余裕はあるものの、そんな事を考え浮かべた所で何も変わらない。
「はぐれた連中の誰かが来てくれれば楽になるんだけどなぁ......」
呟かれた言葉はすぐに現実となる事を烈風は知るよしもなく、能力で感覚を失った半身を引くように無理矢理動かし、夜叉へと挑んだ。
◆
竹林に渦巻く鬼の瘴鬼へ一直線に向かう気配が3つ。スノウとモモは自分達以外の気配に一瞬警戒し、感知で気配の主を探り驚き顔を向け合った。この場に、夢幻竹林に居るハズのない存在が、今まさに瘴鬼の渦へと接近している。
「ミソ!?」
「止めなきゃ!」
モモ、スノウの順で言い、全力で気配の主───すいみん が居る方向へと進み、ふたりの瞳はすいみんの姿を捉えた。
「ミソ!」
「みんみん!」
「───!? ゴリ、スノコ!」
モモをゴリ、スノウをスノコと呼び、足を止めたすいみんは笑顔を浮かべるもすぐに笑顔をしま込み、子供がとぼけ何かを誤魔化す時のような仕草や表情を浮かべた。
本来ならばすいみんは蜃気楼からひとりで出てはいけない。数名の護衛───モモやスノウをつけて京へ降りるくらいは許されているが、竹林へ訪れるなど超緊急時でない限り許されない。のだが、今はひとり、誰にも何も言わず飛び出して来たうえに、ふたりと遭遇してしまった。
「あ、あれぇ? トイレ行こうと思ったんだけど、寝ぼけて外でちゃったかなぁ? ふぁ~.....クソネミ」
「ヒェ......みんみんそれは酷いな」
「......ハァー」
笑うスノウと、呆れるモモを前にすいみんは一度瞼を強く閉じ言葉を喉まで押し上げる。
「......私も行く。もう起こった後に知るのは───」
───もう大事な人を失うのは、忘れられるのは、その瞬間に何も出来ないのはもう───
「───嫌なんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます