◇340 -首撥ねジプシー-2



初めて生き物の首を斬り落としたのはいつだっただろうか。


ジプシーはそんな事を考えながら、ヌエの首を切断した。龍組でも実力者だったヌエをあっさりと殺し、すぐに華組のスノウをターゲティングする。


「次はキミの番だ。変化系は変化時に殺せばその姿のままみたいだし、そうだな........氷化している所が欲しいな」


呟きつつジプシーは先程の考え───思い出の箱を漁り続けた。


───虫や魚以外で初めて首を斬り落とした生き物は、子供でも手頃に入手出来る猫だった。上手に切断出来なくてノコギリを使ったが、斬り口は雑になり血液も辺りに散らばり、綺麗さがなかった。


最初の餌食を思い出したジプシーは残念そうに微笑んだ。スノウはその微笑みに過剰な反応を見せ、大きく下がり距離を取る。


───次に切断した首は妹のものだった。猫は綺麗に出来なかったけど人なら出来るだろう、と思ったが、人の方が難しかった。その次はその日のうちにガールフレンドの首を切断した。猫も妹も殺してから切断したが、ガールフレンドは生きたまま気絶もさせずに切断したので、あれは興奮した。


ジプシーは微笑んだままの表情をスノウへ向け、スノウの首を切断するその瞬間を想像する。


───氷化する能力だから、砕けてしまうかな? でも砕けるよりも速く切断してしまえばいいかな? 出来れば生きたまま切断したいけど、あの女性は恐らく自分の意思で氷の強度や質を変化させる事が出来る......から、殺してから切断するしかない。残念だけど仕方ない。


微笑みは薄れ、残念そうな視線でジプシーは言う。


「左胸───心臓部分を突き刺せばキミは死んでしまうのだろう? 割れるように回避したり、攻撃を受けて砕けたりしても、左胸の中にあるであろう華の彫刻を持つガラスのような球体は必ず砕ける事なくそのままだった。そしてその球体に集まるように、身体が再生していた。無敵に見える能力でも能力は能力......必ずどこかに隙があったり、使用者に対してのリスクが存在する」


序盤の攻防でスノウの能力のリスクである、砕けた際に心臓───弱点が露になる、という点を見抜いていたジプシー。首を切断しても殺せない相手.....モンスターなどとはこれまで何度も戦闘し、何度も勝利してきた。今回もその何度目かの戦闘の何勝かにすぎない、とジプシーは思い、どうすれば綺麗に殺せるか、などを考えるのをやめた。


「.......たった数十分で見抜かれたのは初めてだよ。何者?」


ここでようやくジプシーの存在を気にするスノウだったが、既にジプシーはスノウの存在に興味がなかった。今はただ早く首を撥ね、腐らないように処理し、マイハウスのどこにどれをどう飾るか、を考えていた。

切断した首を加工した時点で、それはアイテムと同じ扱いになり、フォンのアイテムポーチに収納出来てしまう。リリスの人形などは不可能だが、人体の “パーツ” を腐らないように処理すればフォンはそれを “アイテム” だと判断し、ポーチへの収納が可能になる事をジプシーは知っていた。


「何者だろうね.....キミは自分が何者で、何のために生きているのか、何のために生かされているのか......答えられるかい? 不必要なら既に死んでいる。なぜ今、この瞬間も自分は生きているのか.......答えられる生き物は存在すると思うかい?」


質問に対し質問で返すジプシー。その質問内容も答えなど存在しない問い。答えが存在していたとしても、それはひとつふたつではない問いをスノウへ飛ばし満足そうに吐息を溢した。


「そうだ、教えてあげる。オレの能力は変化系なんだ。雷になる能力.....さっきの雷獣は獣化して雷を纏う変化系だったろ? オレのは雷そのものになると言えば理解しやすいかな......雷の速度を知っているかい? 凄く速いんだ。それだけじゃない、雷には熱もあるんだよ。焼き焦がす事も出来れば相手を麻痺させる事も出来たり、凄く便利なんだ。あ、よかったらキミにも見せてあげるよオレの能力。雷になるって言われてもピンと来ないだろう? 見るのが早いし、見せよう、そうしよう!」


ジプシーはベルやテラと居る時よりも妙に饒舌で、不安定な視線を泳がせる。自ら相手に能力を語るなど有り得ない事だが、ジプシーが今語った能力は本物。嘘の情報で混乱させるためでもなく、ただ自分の能力を語った。そして、披露した。パチッ、と破裂音を響かせたジプシーの足裏、地面から弾き飛ばされるようにスノウの背後まで飛んだジプシーは長刀を既に降り下ろしていた。

反響するような小音を奏で、刃はスノウの首へ吸い込まれるように迫り、切断───ではなく、粉砕した。


「あぁ、そうだったね。キミは胸をそれを壊さなければ殺せないんだったね」


スノウはジプシーがヌエをあっさりと殺した時点で相当な手練れである事は理解していたが、想像を遥か越えた実力を前にただ粉砕回避する事しか出来なかった。反撃となる氷剣山も氷結弾も放てず、足下に立ち込める薄霧を利用し、氷華水晶を遠くへ移動させそこで身体を戻す事しか出来なかった。


───生身ならば死んでいた。


普段は全く思わない事だが、今はそう思わされるスノウ。もしあの一瞬でジプシーが首ではなく胸を狙っていた場合、確実に殺られていたという事実がスノウの背筋を冷たくする。


「ほらほら、キミも頑張ってよ。妖術だっけ? あれを使ってさ」


「───!? 外の人間が妖術それをなぜ知ってる......」


「あぁ、えっと、オレは20年くらい前に仕事で和國ここに来たことあるんだ。確かあの時の仕事は───狐狩り」


「20年前の狐狩り......狐.....、、魅狐火きつねび!?」


「そう呼ばれてるんだ? あの仕事。あれは良かったなぁ......沢山首を斬れて、その度にみんなが笑顔になって、殺して殺して殺して、最後は人間なかまも全員殺して、強かった狐の夫婦をこの武器にして、その狐の女の方だったかな..... “雷化する” 変化系能力だったんだけどね。それがとても魅力的に見えたんだ。魅了する狐で魅狐.......みんな凄く魅力的な能力や戦闘スタイルで楽しかったなぁ.......それで、その女狐の能力をオレが奪ったんだ。和國ここじゃ外よりメジャーな手段だし知ってるだろ? 導入能力......“ブースター” の事くらい」



ジプシーは自分の頭を指でトントン、と叩き微笑んだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る