◇341 -首撥ねジプシー-3
今から約20年前、シルキ大陸で起こった【魅狐火】事件。人間達が手を組み、楼華魔結晶───サクラを使い、魅狐族を滅ぼした殺戮事件。
一夜で魅狐の里は跡形もなく消え去り、魅狐族は絶滅した。
その事件に冒険者として参加していたジプシー。当時から首を撥ね飛ばしていたが、犯罪者ではなかった......犯罪行為がバレていなかった、と言うべきか。当時から首を撥ね飛ばし、キッチリと処理し、飾り眺めていたジプシーは「妖怪、魅狐の首が欲しくないか?」と声をかけられ殲滅戦に参加。そこで欲情しきったジプシーは仲間の首にも手をかけ、生き残った者の証言によりジプシーの犯罪はバレにバレ、最初はA指定犯罪者として世に名を轟かせた。
その【首撥ね】が最近レッドキャップに加入した。その理由も首だった。
───お前首集めが好きなんだろ? どうだ? 欲しいと思った首を遠慮なく斬り撥ねてみないか?
黒をベタ塗りされたような長髪の男、パドロックがジプシーを勧誘し、承諾。レッドキャップとしての最初の仕事がサクラとヨザクラの入手だった。懐かしき大陸───シルキへ再び足を踏み入れる事が出来る。それだけで心踊ったジプシーは今まで使わず眠らせていた長刀を手に、和國へ舞い戻った。魅狐の夫婦を素材として生産された無銘の長刀をカシャリと鳴かせ、雪女の背後を取る。
足裏に雷を溜め、移動と同時に弾く───プンプンがよく魅せる移動方法をジプシーも使い、一瞬で背後を。斬りの構えではなく、突きの構えで背後から胸を狙い───ジプシーは長刀を圧し突こうと腕を伸ばす。スノウは背後を取られている事に気付いた時にはすでに胸の数十センチ前で刃先が冷たく光る。
「「 ──────!!? 」」
殺れる。殺られる。
お互いが胸中にその言葉を抱いた瞬間、空気を揺らし焼くような瘴鬼が竹林を駆け抜けた。
一瞬、1秒もない一瞬が停止した瞬間をスノウは逃さず長刀の腹を手で叩き、先を心臓の線から外す事に成功。長刀は胸の中心を通り、スノウの身体は砕け散る。
「鬼.....どこの鬼か知らないが、いい所で邪魔してくれたものだ.......」
「助かった、
胸までを人化させ答えたスノウは霧へ妖力───自身の冷気を混ぜ隠す。溶けているように汗粒を落とすスノウを横眼で見たジプシーは鼻を鳴らし笑った。
「そろそろ限界みたいだね、その能力。上半身───胸までしか形に出来ていないうえ、溶けている。やっぱり能力は万能ではない......キミが後何回で死ぬのか知りたくなった。首はそれからにするよ」
「私の魔力の残量的に考えて......あと2、3回で生身かな?」
パキパキと音をたて、身体を創るスノウ。周囲の霧を使い、なんとか身体を再生させる事に成功したスノウだが魔力を抑えたせいか、どこか薄く頼りない。
「なるほど、その
「凄いね、あっさり見抜かれちゃったよ。最初はどっちも魔力だったんだけどね......逝く所まで逝って奇跡的に戻ってこれてね。それからだよ、魔力と妖力で効果を分けられるようになったのは」
「───......、、ステージとフレームを越えているのか?」
ジプシーが言う、ステージ、フレームという言葉をスノウは理解していないが、スノウ能力は覚醒ラインまで達していた。呑まれる事なく戻った瞬間からスノウは魔力と妖力で効果を変える事が可能となり、覚醒した者に与えられる派生能力───スノウの場合は魔力と妖力を両方使う事で、周囲の水分を短時間自在に操る事が出来る操作系に近い効果を持つ能力が覚醒していた。今の今まで使わなかった理由は、単純に反動が大きく危険だからだったが、今そんな事を気にしていては殺されるだけ。
「少し冷えるけど、怖がらないで」
能力の覚醒。
stageとframeの危険ラインを呑まれる事なく越える事で自身の
「少し冷える? .........───!?」
全身から冷気を放出し竹林を凍えさせるスノウ。吐息もすぐに結晶化するほどの気温低下にジプシーは驚き、雪女のアヤカシを凝視する。
スノウは全身から冷気だけではなく、小結晶も放出していた。
───体温が外気に触れて吐く息のように結晶化しているのか?........いや、違う、、あれは.....
「........自分の身体を削ってる!?」
ジプシーの声を合図にスノウは左腕を水平に大きく振り払った。手を洗った時に水滴を振り飛ばす要領で自身の水分を飛ばし、その水分は瞬時に氷柱の矢へと姿を変えたかと思えば霧を吸い外気に研がれ、ジプシーへ迫る最中で水粒は氷結の槍へと変わった。
自身の身体を溶かし水滴を飛ばし、氷矢から氷槍へと変わりジプシーへヒットするまでに僅か2秒とかからなかった。詠唱や構えを必要としないスノウの攻撃は並みの魔術や剣術よりも起動が速く、環境によっては矢から槍のように形態変化も瞬時に行える優秀な攻撃手段。自身の身体を文字通り削り使うので連発、乱発する事は自身の命を削る事へと直結しているが、数発ならば肉体的な反動はない。
対象へ接近しつつ形態を変え、氷結の槍へと変わった時点でジプシーへヒット。水滴の速度、変化速度は速く、未知の攻撃にジプシーは棒立ちのまま観察し情報を集めていたが、気付いた時には氷結の槍の先端は自分の数ミリ前。防御も破壊も間に合わないどころか、その行動さえとれないままあっさりと串刺しに。
「外じゃどうだか知らないけど、
ヒュー、と冷たい息を吐き出しスノウは能力の解除をしようとした瞬間、嫌な気配と冷たい線が背後から首を撫でた。
「───!? っ......ッッ、、」
大きく仰け反るように回避したスノウだったが長刀と攻撃範囲は広く、刃先が喉を掠めた事により首から出血。喋ろうとするも血液が声を湿り潰し、クチからは空気と共に血液が押し出される。
「やっぱり斬れた。キミの今の能力......周囲を支配するような能力は凄いけど、必ずすぐにリスクが発生する。例えば───氷化出来なくなったり」
氷結の槍は確実にジプシーを貫き地面まで串刺しにしていた。しかし、今スノウの背後を取り長刀で喉を斬ったのはジプシー本人。
「何をしてくるかわかったものじゃないのはどこの世界でも一緒だよ。キミもオレも、探り合いながら隙を見付けては手を伸ばす。事前情報もない殺し合いって、とても楽しいよね?」
長刀を持ち、スノウの前に立つジプシーの身体───防具にさえ、氷結の槍の傷痕は見当たらなかった。
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