◇325 -療狸寺の妖怪-4
エンジェリア。
現在魔女界で最強の座に立つ
幼いわたしを幽閉した魔女であり、幼いわたしを地界へ投げ捨てた魔女であり、幼いわたしを何度も殺そうとした魔女。
その魔女.....クソババーが大昔ここへ来ていたとは驚いた。
「ババーは、エンジェリアは何しにここへ来たんだ?」
「コイン集めじゃの。詳しい事は話しちゃイケン事になっとる」
「.....コイン?」
何の話か知らないが、ロクな話じゃないだろう。アイツが自分から行動する時は絶対にいい事ではない。
「エンリー.....エンジェリアも妖力が1ミリも無かったのじゃ」
「......もう一回おはじき貸してくれ」
「ええが、結果は変わらんぞ? それより色々聞かせてくれると嬉しいのじゃ。懐かしい友の娘が来るなんて、こんな機会そうそうないのじゃ」
.....友? アイツとポコちゃんは友達なのか? よくあんな腐れババアと友達になれたもんだな。わたしなら容赦なくブッ殺して終わりにしてるぞ。
「話す事なんて何もねーよ」
「むぅ.....そんな冷たい事言わんで、話してくれなのじゃ」
「だから何も話す事ねーっての。わたしだって15年前から地界に居るんだし、魔女の1500っつったら身体は人間の5歳だぜ? 魔術の事だけ、しかも自分で学び漁って生きてきたし、1500~1800が魔女の身体が一番成長する時期だぜ? おかげで普通の魔女よりチビよ。ふざけんなっての」
「魔女自体が皆身長低いからのぉ。しかしまぁエミリオは他の魔女に比べると少々控えめじゃの」
なんでここで魔女だの何だの話さなきゃならないんだ。なんでここでアイツの事を思い出さなきゃならないんだ。......クッソ。エンジェリア早く死なねーかな。
「エミリオ、お主エンジェリアが嫌いなのかえ?」
「嫌いだ。別に今は何もしてきてないからシカトだけど、アイツが何かしてきたら迷わず殺す」
最初は、わたしを捨てた事を後悔させてやろうと考え、魔女全員殺してやろうとも思ってた。それしか考えてなかった。が、地界で生活して、冒険者になって、今となってはエンジェリアも他の魔女共もどうでもいい。毒雨の時みたいに何かしてくるヤツがいたら迷わず殺すが、何もしてこないなら別に生きてても死んでても、どうでもいい。
でも、ダプネとフローは許さない。
アイツ等は発見次第殺すつもりでいる。そしてそのために貫通系の妖術が欲しかった。
「.........」
「.....まぁワラワから色々話すワケにはいかんのぉ。この話は終わりにするか」
「そりゃ助かる。聞きたくねーし話す事なんて何もねーし」
「うむ......」
何なんだよクソ。
妖力は皆無でエンジェリアの名前が出てきて、何だってんだよ。
「......
「おいおいおいおい! 今のお主が行った所で死にに行くようなモンじゃて!」
「死なねーよ。鴉パクってウンディー帰るわ」
「待て待て待て待て! せめてここで数日修行していけ!」
「あ? 修行しても意味ねーだろ妖力ねんだし、ひっつーには勝ってるだろ」
「少し落ち着くのじゃ、もう時間も遅いし今日はここに泊まっていけ! 明日は朝6時には起こしに来てやるからのぉ。とりあえず今日はここで休め。お主はまだ安静にしとけい」
無理矢理わたしを泊める作戦を決行し、ポコちゃんは出ていった。数十分後にわたしも出ようとしたが、何らかの魔術───妖術でドアや窓が全く反応せず、魔術で破壊してやろうと考えたが、治療してもらった借りがあるので今夜はおとなしくここで眠る事にした。
「何だってんだよ......」
装備を外し布団に横になった途端、海底洞窟に流れ込んできた激流のように眠気が押し寄せ、わたしはあっさりと飲み込まれた。
◆
寂しそうに灯る月を見上げた
独特な香りを持つ妖酒をひとクチ呑み、虫達の音色に耳を傾ける。
「.......」
竹林で拾った少女は魔女で、エンジェリアの娘だった。
「.......もう2000も前の話かのぉ。エンリー」
妖酒を呑み、療狸は昔の事を思い出す。まだ自分が大神族どころか、神族にもなっていなかった頃の遠い昔。竹林で倒れていた人影を見つけ、近付いてみると魔女と人間だった。療狸はひとまず2人をここへ運び、意識を取り戻した魔女は礼の言葉や自分が今いる場所確認よりも「和國の神を探している」と療狸へ言った。
当時はまだ【シルキ大陸】という名ではなく【多種界-2】だった。狸の一族は和國───妖界から出て多種界に移住してすぐの事だったので、療狸がエンジェリアの話を聞き、
「懐かしいのぉ。エンリーとトワ......確か大暴れしとった
妖酒で懐かしくも寂しい気持ちを流し、療狸は小さく息を溢した。盃に映る月が波紋で揺れ、とてつもなく寂しい気持ちが療狸の胸を掻いた。
「....................馬鹿者が」
盃の妖酒を一気に飲み干し、ほんわりと熱を宿す頬を言葉と共に、旧友への気持ちが撫でた。
「───
下───大門の下から届けられた声はひとつ眼のひっつー。療狸は一度タレ目を瞑り、返事をする。
「ひっつーかえ? どした?」
「湯の準備が出来ましたのでご報告を」
「おぉ、そかそか、悪いのぉ......ひっつーはもう風呂入ったんかえ?」
「いえ、私は最後に」
「そかそか、んじゃ、ワラワと一緒に入るぞ」
「え!? そんな、私はそのような身分では」
「何じゃ? ワラワと一緒は嫌かえ?」
「いえ! そんな事は」
「じゃあ決まりじゃの。ほれ
療狸は大門の上からフワリと飛び、浴場へ向かった。ひとつ眼妖怪はその後を嬉しそうな顔で走り、大門の上には───小さな盃が4つ、妖酒が注がれたままで置かれていた。
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