-幻想楼華-

◆ 幻想楼華 ◆



夜空そらへ伸びる霊華─── 夜楼華ヨザクラ

長年咲くことのなかった夜楼華が、悲しくも今、満開に。




───起きたらまたみんな変わっちゃうんじゃないかって。だから怖くて眠れなかった。笑っちゃうよね......


「.....みんな、覚えてないのにね」


───今度は.....ちゃんと助けられていたらいいな。



満開に咲いた夜楼華ヨザクラの下、真っ赤な悪霊バクは、誰かを想い、泣き顔のような下手な笑顔を浮かべたかと思えば、唇を弱く噛み瞼を震えさせ、ゆっくりと瞳を閉じた。


「.......。」


夜風が一枚の花弁を泳がせる。どこか必死に泳ぐ花弁はヒラリヒラリと宙を扇ぎ、悪霊バクの耳元で───



───みそ! 今度は私達が助けるから、絶対助けるから.....そこで待ってて!


「 !?───.......っ」



胸の中にぽっかり空いた寂しさにずっと溜まっていた悲しさが、夜風に揺れて、赤い視界を溺れさせる。




「おっと、よぉ クソネミ。長刀コレ 借りるの思ったより時間かかっちゃったぜ.....にしても、髪真っ赤だな」


「........エミー」


所々にまだ新しい、痛々しい傷がある他国から来た【帽子の魔女】は、薬瓶を飲みつつ左手に持つ白銀の剣を腰の鞘へ戻した。

薬の空瓶を放ったかと思えば背中から長刀を取り、鞘から少し抜き、長刀を強く振って鞘を雑に抜き飛ばした。

赤黒の刃に桜模様を持つ【霊刀・楼華】が、月光を反射させる。



「こうしなきゃ抜けねーんだよな、コレ長いし。さて........約束通り助けに.....殺しにきたぜ─── 本当にいいんだな?」


「......」



───今更何を言っても、何も変えられない。


───今更何を求めても、何も手に入らない。


───先程響いた、待っててという言霊も今はもう。


───心まで悪霊化してしまう前に処分してもらった方がいい。そうしてくれた方がみんなに迷惑もかからない。




悪霊としての心はそうだったが、眠喰バクとしての本心は違っていた。しかしもう......。



「.................、うん。お願い」




夜楼華の下、どうしようもない現実に───真っ赤な瞳は泣いた。






武具と魔法とモンスターと

シルキ大陸【幻想楼華】編





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