◇297



謎の素材【夕鴉】と【夜鴉】が、今回わたしが払う料金.....といってとお金があればお金を払うのだが、どうやらこの2つの素材でもいいらしい。

むしろこの素材を出した方がわたしにもお金が入るのでウマイ。のだが、素材名以外の情報はなく、その素材名もビビ様が能力で誰かの武具の派生ツリーを見た時に出た名前と言っていたし、存在はしているのだろう......


「.....ん? 誰かの武具を何かするのにビビ様がツリー覗いて素材を知ったって事は.....そいつより早く素材ゲットしなきゃ結局金払わなきゃパターンじゃね!?」


「そうだね。頑張れエミリオさん」


「応援してるよエミリオ」


ビビ、ララは作業を続けつつ軽い声質でテキトーに言う。

まぁわたしレベルならば余裕の楽勝でゲット出来るだろう。そこら辺にいるカラスを片っ端から焼鳥にしていけば、いつか手に入るノリだろうし。知らないけども。


「料金の方はそのカラスで払うけど、武器と防具がないと素材探すにも怖くて怖くて本来の実力出せそうにないんだよな......」


ここで自分から「先に武具をくれ」とは言わず相手が「わかったわかった」となるように上手に雰囲気を作り、上手に話を運ぶ作戦Eを決行する。


「ビビはそれでいいよー。ララの方は知らないけど」


「私もいいよ。あ、デザインやカラーの話した時点で大体わかってたと思うけど、私が防具でビビが武器生産してるんだよね。で、性能面の話を少ししたいんだけど───」


どうやらララが防具の生産をしてくれているらしく、防具の性能面の話をする事に。冒険者は基本的に、自分のスタイルにあったプロパティを持つ装備、自分がターゲットにしているモンスターなどに有能な装備を集める。


わたしが求める防具の性能は───。





自由の街、冒険者の街、女王の庭───などと呼ばれるウンディー大陸の首都バリアリバル。自由な街、冒険者の拠点だったバリアリバルを女王が治め、今では多種族達が暮らす街、ウンディー大陸が国となった。そんな街に暮らすひとりの人間───元人間の【ナナミ】は分厚い古い本を閉じ、一息つく。ナナミが読んでいた本は世に数冊しか存在しない古く希少な本。著者は───フロー。


「この本を書いたヤツがあの眼鏡か......」


著者の名を指で触り、ナナミは悪魔の特徴でもある黒赤の瞳を細める。


フローは魔女族。

見た目は───といっても普段の姿が本当の見た目なのかさえ怪しいが───エミリオにそっくりだった。大きなグルグル眼鏡で顔を隠している状態だが、髪色や体格などはエミリオと変わらない。猫人族として活動していた事もあり、猫人族達はエミリオをフローと呼んでいたほど似ている。

姿形、種族さえも変える事が出来る変彩魔法を操る魔女。ナナミが読んでいた本は、フローが様々な種族になり情報を集め、その種族の特徴などを書き残した物。

ナナミはその本の【悪魔の心臓】について詳しく書かれているページを読み終えた所だった。


エミリオが霧山で出会った妙な悪魔の死体をナナミへ届けてた。その死体をナナミはノムー大陸の騎士団に所属しているヒーラー【シンディ】へ解剖の依頼をした。元人間でありドメイライト騎士団に所属していたナナミは騎士時代からシンディのあまり良くない噂を耳にしていたが、リピナの姉───ラピナの知り合いという事で信用し依頼。噂通り頭のネジは少々おかしな絞まりかをしていたが、噂より話しやすい人物で腕は一流。

シンディは任務でドメイライトを離れていたらしく、数日前に帰還し趣味ともいえる解剖をスタート。その結果をナナミは受け取った。解剖後の死体をドメイライトからバリアリバルへ送っていた際───その馬車は何者かに襲われ、騎士も馬も悪魔の死体も、綺麗に消滅した事も先程シンディから聞かされていた。


「気が乗らないけど.....久しぶりに、ドメイライトへ行ってみるか」





悪魔の死体を乗せた馬車が何者かに襲われ、馬、騎士、そして悪魔の死体も綺麗に消え去った。ドメイライト騎士団 王直属の騎士隊に所属しているデバファーでありヒーラーでもある【シンディ】はテーブルの上にある、星屑のように輝くランプを見つめ動かない。このランプが星霊界産だとか、星霊界は地界なのか外界なのかそれとも天界なのか、などを考えているため動かないワケではない。

シンディは、手配した馬車から、馬、騎士、悪魔の死体、が綺麗消えている件について考えていた。最初にシンディが引っ掛かった部分は、争った形跡もなく “綺麗に” 消えているという部分。死体だけを奪うつもりなら馬車でも騎士でも破壊して奪えばいい。そしてその方が圧倒的に簡単。しかしそれをしなかった。

次に気になった部分は “馬や騎士” も連れていった部分。どこへ連れていったのかは不明だが、生きている状態での拉致は中々に面倒。騎士の任務でも拘束や捕獲より討伐の方が思いきりやれるのはシンディも理解している。こうなると、目的が悪魔の死体だったのかさえ怪しく思える。

ここまで考えると、馬車が襲われたのは悪魔の死体を積んでいたからではなく、たまたまで、運が悪かっただけという答えも。


───よくわからないけど、一応報告しておかなきゃマズイか。なーんて報告しようかなぁ。悪魔に関わると本当いい事起こんないな......っと、その前に、


自室の外───扉の前に何者かがいる事に、数分前から気付いていたシンディは視線を鋭く尖らせ、滑るように扉の前へ。一瞬息を殺し、扉の外へ意識を飛ばしたかと思えば柔らかい視線に戻り、扉を開く。


「───何か用ですか? 隊長」


「うん。ごめん突然」


シンディが所属している騎士隊の隊長───ドメイライト王からの信頼も厚い騎士【クロム】がシンディの部屋を訪れた、と言ってもノックなどは無かった。


「いーですよー、突然でも何でも。それよりどうしたんです? 隊長が私のお部屋に来るなんて.....まさか私の巨乳を狙って!? キャー! 変態隊長!」


「おいおい、やめてくれないかな。私はそんな気は」


「とか言って押し倒してくるつもりだったり? あはん、少々お待ちください。今大至急心の準備を」


「だから私は別にそんな気で来たワケではないと......本題はキミが手配した馬車が襲われた件で」


「あら?.....あー....残念。クソつまらない本題でしたか。しかし隊長お耳が早いですね」


「ドメイライト王の元へバリアリバルの女王が訪れていてね。その時、馬車の件を女王から聞いてね」


「あらセツカ姫がここに!? 会いたいですねーセツカ姫に。......あれ? でも、おっかしーですねぇ? 私まだ馬車が襲われた事をバリアリバルの知人にしか愚痴ってないですし、セツカ姫が知ってるのはちょーっとおかしい話です」


「........」


「残念でしたね隊長。隊長の隊にいる騎士は特級隊長クラスなのお忘れですか? あの程度のハイディングなんて簡単にリビール出来ちゃいますし、私の場合は強引に話を盛り上げて相手から本題という名目で本心を引っ張り出させちゃいます。それもお忘れで......って知らなくて当然かな?」


「........」


「残念! 私がなーんにも見抜けないアホだと思ったんですか? それにまだまだヒントはありましたよ? セツカ姫をバリアリバルの女王って呼ぶ辺りとか、セツカ姫が女王として王に会いにきているのに王騎士でもある隊長がどうして席を離れているのかーとか、そりゃもう色々と引っ掛かる点はありましたよ?」


「........やっぱり苦手だな。誰かの猿真似をするのは」


「でしょうね。下手すぎて吹き出しそうでした。さて───心の準備も終わったし、そろそろ逮捕しちゃおうかな。抵抗するとっちゃうよ? 侵入者クンっ」





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