◇295



ウンディー平原を歩く和國デザインの防具に身を包む緑髪の冒険者、烈風。

普段はアスランやジュジュ、アクロスと共に行動している事が多い烈風だが、今はひとり平原を進む───腰には大小のカタナを2本吊るして。

温厚な性格───あまりガツガツとしていない性格の烈風だが、今彼の視線は鋭く行く先を睨み、足を止めた。

前方に見える人影も、烈風の存在に気付き足を止める。

大きな笠と和國デザインの装備、そして腰にはカタナを持つ何者か。


「港の方から “妖力” を感じたから来てみたけど.....ビックリしたね~」


「その服のマークは.....敵さんじゃないの。他国で会うとかビックリだ」


烈風の和國防具には龍のような刺繍が。

笠の男の笠には華の装飾が。

お互い刺繍や装飾品を見て、一層鋭い雰囲気をぶつけあう。


「......」


「......」


無言のまま向かい合う2人。

ウンディーの風が間を流れた瞬間、同時にカタナを抜き刃はぶつけあう。剣とは違う衝突音を奏で、小さな火花を散らし押し合う刀身。


「そっちから来たって事は....この大陸に上陸して結構経つのか?」


笠の男は鍔競り合いの中、烈風へ質問する余裕ぶり。


「そっちこそ港方向からって事は....上陸したのはついさっきか?」


答える事なく質問を返す烈風も余裕を見せる。


「そんな所だ」


「俺もだ」


笠の男が答えると烈風も答え、再び言葉は無くなる。大きくカタナを押し、競り合いからすぐに連撃の撃ち合いへ。冒険者と冒険者の戦闘───とは違った綺麗さがあり、それでいて相手を仕留める隙を常に伺っている戦闘。ひとけのない午前のウンディー平原に響く鉄音と火花は鋭さを増し、お互い一度下がり烈風はカタナへ “緑色光” を纏わせ、笠の男は “赤色光” を。


それはまるでエミリオが使う、魔女だからこそ実現できた魔術で剣術に属性を与える “魔剣術” にも思える光。しかし魔力ではない別の力がベースとなる剣術。

風属性剣術と火属性剣術が噛み合うように衝突し、お互いのカタナが折れる。


「───ふぅ。折れたねぇ」


「こりゃイカン、仕切り直すにも俺は予備を持っとらん」


烈風、笠の男は気が抜けたように言い、折れた剣先が地面に突き刺さる。


「そりゃこまたねぇー、今回はここで終わろう」


「いいのか? そっちは腰にもう一本あるだろ?」


烈風の腰には小太刀が一本、もちろん刃は生きている。しかし烈風はそれを抜こうとせず折れたカタナを鞘へ戻した。


「本気じゃない “滑瓢” を相手にしても面白くないし、どちらかと言えば殺し合いじゃない状況で相手してもらいたいねぇ」


「そりゃ同感だ。そっちは “鎌鼬” か?」


「正解。どっちが勝っても、お互い生きてたら今度は殺し合いじゃない形でよろしく」


「だな、その時は女性の観客ありで頼む! そっちの方が俺は強くなれる男だ」


「はは、アスラン達みたいな事言うねぇ~.....俺は烈風、そっち名前は?」


烈風は笑いながら名乗り、笠の男の名を訪ねると、男は大きな笠を外す。

細眼と束ねられた白髪が露になり、男は笑い答える。


螺梳ラスだ。探し物をしに来たんだが、武器が壊れたから俺は帰る。もし龍組に会ったら烈風は生きてるって伝えとこうか?」


「いや、一応コレ極秘行動だから上しか知らないし、出来る事なら秘密で。あと多分お互い探してる物は一緒だと思うから言っとくけど───入手するのは無理」


「へぇ.....なんで無理なんだ?」


「今は犯罪者の手にあって、入手したとしても使い方がよくわからん。それに使ったらダメっぽい」


「なるほど......じゃあ無理だな! 外国の犯罪者を相手にしてる暇なんてないし、何か外国の犯罪者って響きが怖すぎる。やっぱ俺は素直に国へ帰って───悪いけど龍組を叩く」


「そうするといい。俺もそろそろ一回帰ろうと思ってたし、そうなったら華組を叩く事になるけど.....仕方ない事だ」


「だな.......んじゃ、俺は帰るわ」


螺梳は笠を装備し、烈風へ軽く手を振りウンディーポートの方へ───シルキ大陸 和國 へ帰っていった。


滑瓢───ぬらりひょんの螺梳と、

鎌鼬───カマイタチの烈風。


華組と龍組。


今シルキ大陸で何が起こっているのか───魔女エミリオは数週間後にそれを知る事になる。





「───どうだ? 痺れる情報を聞き出せたかァ?」


ウンディー大陸の森の中で血色のフードローブを揺らす犯罪者ギルド【レッドキャップ】の混合太刀使いベル。フローがアイレインから消えた際───雨の女帝が降臨した際にレッドキャップもアイレインから去り、次への行動を始めていた。

ベルはまず仲間集めをし、最低でもシングルの犯罪者を仲間にする事に成功。その仲間が今───


「それが聞いてくださいよぉーセンパーイ! なんとシルキ大陸に行くには途中まで船で、霧が濃くなってきたら.....なんとなんと! 歩くらしいッス! 海の上を!」


左手に片手斧、足下にも片手斧、右手には無骨なネイルプライヤーを持ち、ベルを恋する乙女のような表情で見る女性───シングルの犯罪者【テラ】は和國装備を身に纏う者を片っ端から拉致してはネイルプライヤーで爪を剥ぎ、指先を潰し、身体に情報を聴いていた。11人目にしてやっとシルキ大陸の者を引き当て、シルキまで行く方法を聞き出した所だった。


「海の上を歩く!? そんな事信じてんのか? テラ....お前、頭イカレてんじゃねぇのか!?」


「うげぇ~先輩それ酷いッスよぉ~.....───おいゴミ。テメー嘘ついてねぇだろうなぁ? なぁ? なぁ? 起きろ雑魚」


テラは拘束済みの男の髪を掴み、頭を揺らす。すると男は苦しそうな声をあげ、嘘じゃないと答える。が、


「アァ!? 嘘じゃねーならどうやって海の上あるくんだ!? テメェの足はどうなってんだゴラァ! 大体私は年上のワイルドイケメンか、可愛い可愛い男の子以外はソッコーブチ殺したくてしょーがねぇーんだよ! テメェも死ぬか? 死ぬのか? お? マジな事しゃべんねぇーと爪全部剥ぎ取るぞ屑野郎がァ!」


テラは凄まじい口調で男へ言い、ネイルプライヤーで足の爪を剥ぎ、爪を失った指先を強く踏んだ。


「テラ.....そんなに拷問すると喋れるものも喋れなくなるよ。そうでしょ? 和國の人」


「キャー! ジプシーさんにそう言われちゃうと、私もうこの豚ちゃんに何も出来なくなっちゃう.....だってだって、私ジプシーさんに嫌われたくないもの」


狐の尾のような装飾を柄頭に持つ長刀を背に吊るし、テラを注意した男性───ダブルの犯罪者【ジプシー】はゆっくり進み、男の髪を掴み顔を上げさせる。


「.....ねぇキミ、オレ達早くシルキへ行きたいんだよね。だから、シルキへ行く他の方法、サクラってやつとヨザクラってやつの在処と詳細を教えてくれないかな? あ、他の事喋ったら殺すつもりだけど、痛くしないから安心していいよ」


和國の男は荒く削れた呼吸で、シルキ大陸へ行く別の方法を言い、サクラとヨザクラについては何も言わなかった。


「.....まぁ行く方法だけでも知れたし、いいでしょベル」


「オーケーオーケー、行こうぜシルキ大陸」


「行きましょ行きましょ! ってジプシーさん手に持ってる頭捨てた方いいですよ?」


「.....あ、殺した相手の頭を集めちゃう癖がまだ抜けてないや。ごめんね」


「大丈夫ですよぉ~私も....ほら! 剥いだ爪をコレクションする癖はバリバリでーす!」



シングル、ダブル、トリプルの犯罪者は血染めフードを靡かせ、四つ目の大陸───シルキ大陸を目指し進んだ。



───それを空間からピーピングしていたピエロが小さく嗤った。






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