◇293
【クラウン】【レッドキャップ】【雨の女帝】これらのワードを聞かない日はないほど、クラウン襲撃の件は広まっていた。雨の街アイレインでは勿論の事、バリアリバルやアルミナル、ドメイライトやデザリアでもこの手の話題で持ちきり。そこへ様々なワードが混ざり混ざって、今では何が本当で何が嘘なのかさえわからない内容になっていた。
ウンディー大陸───ウンディーポートの小さな酒場で和國産の酒を小さなグラス───というより皿に近い形状の器で呑む男は、リニューアルされた冒険者雑誌【不定期クロニクル】を読んでいた。
元々はフローが作っていた情報雑誌だが、フローはクラウンとしての活動を再スタートしたためこの雑誌は廃止されると誰もが思った。しかし今で発行された雑誌自体に嘘などはなく、これを楽しみにしている者達が大勢いたのも事実。不定期クロニクルの特許をフローから買い取っていた商人は、その特許を【皇位情報屋】へ譲り、今不定期クロニクルを発行しているのはウンディー大陸の【ユニオン】となっている。皇位情報屋が手を加える雑誌なので以前よりも信用度が高く、以前はフローひとりで作っていたが今では他種族や数々のギルドなども手を加えているので売り上げも大幅にアップ。ユーモラスな内容からシリアスな内容まで様々なコンテンツを盛り込んだ【不定期クロニクル】は以前以上の人気で、ウンディーだけではなくノムーやイフリーにも多く発行されている。
勿論、情報屋も情報を格安で提供するワケだが、情報の質や内容などは値段に見合った分だけの掲載となっており、情報屋だけではなくギルドや店などの宣伝もいい分量で上手に読者を刺激している。
リニューアルした集会場を宣伝するにも便利で、冒険者ではない一般の者達も気軽に足を運んでくれるようになった。
ノムーとイフリーの関係、ウンディーの関係なども掲載されており、以前以上に他国との関係は良くなっている事を雑誌で知った者も多い。
「面白いな.....これは “新聞” に近い」
世界事情や大陸情報なども掲載されているため、大人も手に取るようになった不定期クロニクル。男は新聞というワードをポツリと吐き出し、皿のような器へ和酒を注ぎ、喉へ流した。
「しっかし、この和酒は保存が悪いな」
透明な酒を見て、渋い顔を浮かべる男は笠のような被り物から束ねた白髪を垂らす。被り物だけではなく、装備も和國産で、腰にはカタナをさしている。
「おい.....あれ見て見ろよ」
別の客が和國装備の男を指差し、コソコソ───にしては少々ボリュームが大きすぎる声で会話を始める。
「ありゃ和國の装備か?」
「あんな不味い和酒を呑んでるヤツなんて初めて見たぜ」
和國装備の男を見て話す冒険者───にしては格好が少々お粗末な連中。
「和國って本当に存在してんのか?」
「さぁな。たまに流れてくる和國のモノは正直微妙だし、適当なヤツが適当に吹かして作ったモン売ってるだけだろ」
「冒険者に和國装備の奴等もいるけど、アイツ等はデザインを似せてスミスに作らせてるんだろ? やっぱ和國ってのは存在しねーだろ」
和國───シルキ大陸は他大陸とは必要最低限の交流しかしない。その際和國の者を見たという話も聞かず、どんな手段で他国と交流しているのかさえ謎だが、商品の交換や代金などはキッチリ行われている。
年に数名の冒険者が「シルキ大陸を目指す!」と言い、ポートから出発しているが、誰ひとり戻っていない。
シルキから入る商品はどれも微妙な品で、酒は本当に微妙で、食べ物は米や麦、豆などの穀物が多く、手を加えなければ食べられず水などの分量を間違えればとても食べられる物にはならない。装備品も微妙で命を預けるには頼りないプロパティばかり。しかし数が少ないためコレクターが多く、武具として使うには弱すぎる装備品でも和國産というだけで高値が付けられている。
「シルキが存在するとかしないとかどうでもいい。とにかくあの装備いただこうぜ」
連中は和國装備に眼をつけ、男を襲い奪う雰囲気を出す。連中は冒険者ではなく、ポートを拠点に他国から来た観光客などを狙い、刃をちらつかせて金品を奪う盗賊。犯罪者としてのランクは低いものの、犯罪行為を繰り返しているならず者。
和國装備となれば強い弱い関係なく高値がつき、和國装備は基本的に弱い。そんな装備を身に纏う相手は盗賊から見れば恰好の餌食。
「ごちそうさん、金はここに置いていく───あ、和酒も他の酒と同じで酒に合った保存方法がいいぞ。そうすりゃ今より旨くなる」
和國装備の男は酒代をテーブルの上へ置き、店主に一言残し店を出る。
潮風が笠から下がる花の装飾とマントを揺らす中、男は港ではなく裏路地へ進む。
人の気配もなく道も無くなった所で男は止まり、振り向くと、
「はーい、ストップ」
4人の盗賊が剣や短剣を手に勝ち誇った顔で男の前に。
「酒場にいた連中だろ? 俺は争い事が嫌いなんだよなぁ.....俺の事見なかった事にしてくれないか?」
「その装備一式置いていくなら見逃してやるぜ?」
「いや、それだと俺素っ裸になるだろ!? それは流石に酷くないか!?」
「お前の事なんて知らねーよ。さっさと装備置いて消えろよ」
盗賊達は武器を構え、さらに威圧、脅しをする。
「それは無理だ! 昼間から素っ裸で女性の前に出るのは流石に恥ずかしい! 夜なら少し考えてたがな!」
和國装備の男は堂々と言ったかと思えば、笠をの端を指でつまみ「待て.....夜でも場合によっては裸じゃない方が雰囲気でる事もあるだろうし、相手の性格とかも知りたいな」とブツブツ言う。
「なんだコイツ?」
「頭イカレてんじゃねぇか?」
「俺達はCランク指定の盗賊だぜ?」
「怪我したくなかったら装備一式置いてさっさと消えろ」
盗賊がリレーするように言った瞬間、
「承知した、消えて見せよう! 正確には“消えてる様に思わせる” “消えてる様に魅せる” だが、確り見とけよ───って見えないか!」
和國装備の男は苛立つ盗賊4名を前にして「こりゃやっちまった!」と余裕な雰囲気で自分の発言を自分で処理していると、盗賊はシビレを切らし襲いかかる。
盗賊が進み、武器を振ろうとした瞬間、和國装備の男は足音も無く盗賊の背後───盗賊の間を進み抜けたような位置で腰のカタナへ手を伸ばしていた。しかしカタナは抜かれる事なく男は手を放し、盗賊達は突然倒れた。
「......やってもうた。ま、まぁどのみい罪人だろうし人呼んでくれば大丈夫か。さて───俺はキンタマ探しを再開すっか.....にしても、キンタマって名前つけたヤツはふざけすぎてていいな」
和國装備の男は一瞬で盗賊達を気絶させ、何もなかったかのように港へ向かい足を進めた。
潮風がマントを靡かせ、花の装飾を揺らして。
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