◆279



老いた竜の短剣【ローユ】には魔法破壊マジックブレイクの 特種効果エクストラを持つ武器。

わたし、エミリオが危険を侵し女帝へ接近し、魔剣術をブッパしてようやく女帝の謎防御の正体を看破してやったぜ。あれは特性や能力ではなく、水魔術だ。

女帝は自分のマナや魔力に隠して水属性の防御魔術を纏っていた。属性系の防御魔術はバフとは若干違っていて、発動中───効果が持続している限りは微量の魔術魔力を出す。それを上手く他の魔力やマナでハイドさせる戦術を使ってくるとは考えもしていなかった.....が、このわたしが直接叩けばそれが魔術なのかハッキリわかる。お前が水属性の防御魔術を全身に纏い戦っていたという事も一撃だ。そして───その魔術が本来の性能よりもブッ壊れた女帝様仕様になっている事も理解でにる。


「今アイツには攻撃が通るぞ! 構えてないで攻めろ!」


と、わたしは強気の発言をし、そそくさ逃げる。あんなヤバイ相手がわたしをタゲってる時点で敗色しかない。挑発してみたものの、それは大勢の前で格好つけるために挑発しただけで、ひとりだったら何よりも優先して逃げてるぜ。


前衛、中衛の間をヌルヌルと抜け、後衛へ下がったわたしを女帝は狙い続けていた。

タンカーやアタッカーでもVITやDEF───耐久度面が優れている連中はタンカーと一緒になり女帝を食い止める。その隙にアタッカー達は攻撃を仕掛け、女帝はその攻撃に声を荒立てた。


「おっし、攻撃は当たってるな」


わかっていたが女帝に攻撃が通っている事を一応確認し、さらに後ろへ下がる。


「帽子! お前なにしたんじゃ!?」


レイドがここぞの攻めを見せる中、情報屋はわたしの元へと現れ天才的な攻撃手段を知りたがるので持っていた短剣をキューレへ投げ、わたしはキノコ印の体力回復ポーションを煽った。


「むむむ、魔法破壊.....という事は、あやつは魔術で攻撃を全部やり過ごしとったんか!?」


フォンのどんな機能なのか知らないが、キューレは自分のフォンを短剣へ向け、短剣の情報をサーチし特種効果の存在をわたしの予想よりも速く知った。


「.....ぷは、このポーション甘くて飲みやすいな。しし屋からもう少し貰えばよかったぜ」


キノコ印の空瓶をわたしは捨て、空瓶はその役目を終えたかのように小さな音を響かせ、超微量のリソースマナを吐き、砕け散る。消耗品の瓶は何のリソースマナになっているのか気になったが、今はそんな事を考えている暇はない。


「すげーよ女帝。水は攻撃にも防御にも最適っつーか、火や風よりも形を変えやすいから有能なんだけどな.....その分操るのが地味に難しいんだ」


「なんじゃ急に? 魔術講座じゃったら別の機会に頼むのじゃ」


「まぁ聞けっての。操るのが難しい水をアイツは全身に纏って、軟らかくもなり硬くもなる水の特性みたいなものを完璧に使えてた......」


「それがなんじゃ?」


「速く終わらせないとその気になれば水魔術で全員.....いや、街ごと真っ二つに出来るんじゃねーかなって」


わたし自身ほぼ全属性の魔術を使える最強の天才なので水魔術も使える。しかし極めているワケではないし言っちゃえば水魔術を極める気もない。

人間にも他種族にも得意属性というものが必ず存在していて、魔女にも得意不得意がある。わたしに治癒系の才能が破滅的、絶望的に無いのは神様が多分「こいつに治癒も与えたら無敵じゃね? 神の立場危うくなるし治癒は没収な」みたいな感じで与えなかったのだろう、いい判断だ。わたしが神でもそうする。

そんな感じで得意不得意が魔術特化の種族である魔女にも存在している。自分に合う属性が自分の好きな属性であった場合、それを極めるのは必然的な事。そしてそれはただ得意属性を極めるよりも恐ろしい性能を発揮する事になる。


あの女帝───ルービッドは水属性魔術が自分の中で使いやすく、水属性に合った体質、つまり得意属性だったのだろう.....好きな属性が自分の性質や体質に合う属性であり、女帝化という爆発的進化の中で覚醒した魔術性能。そう考えれば特級魔女と肩を並べるくらいの魔術性能は納得がいく。


「.....とにかく今ウチらにはお前さんの魔法破壊が必要じゃ。女帝が暴れ狂っとる間は逃げ続けて、また水防御を纏ったら頼むぞ。ウチは魔法破壊がある事を拡散してくるのじゃ」



即席レイドと言っても、戦闘慣れしている連中が集まったレイド。こうして考える時間があった事に感謝しつつ、逃げ続けるのは好きじゃないわたしは後衛魔術部隊としてレイドへ戻る。


治癒術を使い続けるヒーラー達の横に立ち、ヒーラー達へ魔力消費を軽減するバフや魔術発動時に削れる体力を軽減するバフをかけてから、攻撃魔術で暴れ怒る女帝へ遠距離攻撃をした。





怒号を吐き散らし、女帝アイレインは八刀の飛燕剣術を器用に放った。異形な剣から切り裂く幅広い斬撃はタンカー達を圧しはね、アタッカー達をも餌食にする。攻撃速度、威力、範囲、その全てが規定とはいえ即席でつけられたレートに見合った実力だった。

押し退けられた前衛───タンカーとアタッカーの隙間を抜ける女帝、中衛まで進まれると後はトントン拍子で後衛のヒーラー達も潰されてしまい、レイドは再起不能状態に陥ってしまう。雨の女帝アイレインは足を止める事なく進み中衛達を複雑な視界で捉えた瞬間、地面は沼のように抵抗を失い女帝の足を飲み込む。

中衛のドメイライト騎士達が水属性と地属性を同時に発動させ、阻害系魔術を作り出し女帝の足下にある地面を沼のように変化させた。しかしこの魔術は状態異常系ではなく一時的な行動阻害系。女帝は一瞬停止するも力任せに足を引き抜く。前衛達はやっと身体を起こせる程度で立ち上がれる者はひとりとしていない。ヒーラーが圧倒的に足りない状況下で女帝は怒りの声を響かせ中衛達をターゲットに。攻撃魔術や阻害魔術などが飛び交う中でも気にする事なく突き進む女帝は飛燕系ではなく連撃系剣術を八本の異剣に乗せ、中衛達へ振り切った。

剣術は複雑な連撃、巨体とも言える身体を踊るように動かし、剣を振り斬り進む。雨粒のように散り捨てられる中衛を越え、女帝は後衛───ヒーラー達を充分狙える範囲まで到着、八本の異剣のうちの一本はまだ無色光を纏ったまま。


雨の女帝アイレインは元々人間───ルービッド。

今披露した踊るような連撃剣術もルービッドが使っていた剣術でルービッドの戦闘スタイルそのもの。しかし腕の数も身体の大きさもルービッドとは異なり、範囲、威力、速度、全てがオリジナルを軽々と越えていた。連撃の最後になるであろう一撃も恐らく強攻撃で、ヒーラー達は治癒術を継続発動している状態。ここで逃げるためには治癒術を中断ではなく終了させなければならないが、継続発動させている治癒術は最後にもう一度同術の詠唱を行い、発動する事で終了となる。つまり今逃げるため身体を大きく動かせば中断───ファンブルとなり普段よりも大きな疲労がヒーラー達を襲う。事実上逃げる事も回避する事も、防御する事さえ不可能な状態で、女帝アイレインは最後の一撃を放つべく地面を蹴った。


「───治癒を続けろ!」


女帝が動くよりも一瞬速く、雨具屋ラピナはヒーラー達へ言い放ち、魔女エミリオは女帝と同時に地面を蹴った。





回避は論外、防御は無理、剣術での相殺も短剣じゃ無理、何をしてもどうせ食らう。それなら魔術ブッパでお前ま吹き飛ばしてやるぜルービッド。


わたしはヒーラー達の前へ出て、女帝を引き受ける事を選んだ。後衛は治癒術師と魔術師がいる。魔術師達は女帝へすでに全力の魔術を放っている───が、中衛地点での女帝を見ていた限り、水の防御術は復活しているだろう。いくら全力で魔術を放っても女帝には届かない。でも、謎防御はネタバレ済みだ。

そして、ネタさえわかっていれば魔女わたしの魔術で水の防御なんて余裕で貫通出来る。


瞳を色濃く魔煌させ、魔女魔力ソルシエールを使った魔術を高速詠唱したわたしだったが、女帝の動きの変化に一瞬戸惑った。


前のめりで地面を蹴った時点では100パーセント物理攻撃をヒーラーへ放つつもりだったのだろう。しかし今女帝は地面へ剣を向け、空気を大きく吸うような深呼吸とも言えない行動を見せ、剣術を地面へ放った。

水飛沫と斬り砕けた地面が舞い上がる中、女帝はその反動を一身に受け停止するだけではなく数メートル下がる。

その程度距離を取ったくらいでわたしの魔術からは逃れられない、と強気で思った直後、わたしの全身は粟立った。


空気を大きく吸うような呼吸モーション。

これは───ドラゴンや特定の大型モンスターが “ある攻撃” をする時に行う溜めのような行動。


「───ブレス」


詠唱済みの魔術がファンブルしないギリギリの音量と声質で呟いた直後、女帝アイレインの口元には水が渦巻くように集められ小さな球体に。

それを呑み込んだ女帝は腹ではなく胴そのものを膨張させ、八本の腕を地面へ突き立て一気にブレスを吐き出した。


視界が一瞬で塗り潰される中、女帝ではない───今まで感じた事のない質の魔力が広がった気がした。





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