◆265



真っ暗な空間で青白槍の雷撃と朱銀槍の雷撃が空気を震え焦がし弾き飛ぶ。


『始めに言っておくけど、ボクは本気で.......、キミを呑み込むよ』


銀色の魅狐が朱色の瞳を鋭く尖らせ、紅色の唇を軽く舐める。金色の魅狐は朱色の瞳を厳しく細め、キバを噛む。

何もなく、何処かもわからない空間で、何もわからないまま能力の魅狐じぶんが襲い来る状況に、金色の魅狐は戸惑うばかり。


「キミは.....何がしたいの!?」


質問を飛ばしつつ、青白の雷撃を放つ金色の魅狐。戦う気はないとしても、戦わなければ本当に消されるのだと直感的に理解し、牽制にも見える攻撃を続ける。


『ボクはキミが大好きなんだ。だからキミを悩み苦しめるものを全部消してあげる。嫌な事も辛い事も苦しい事も、ぜんぶぜんぶ、ボクが変わってあげる。ボクが全部引き受けてあげる』



能力ディアは自分の中に “自分の悪魔” を飼うようなもの。悪魔と言っても種族的な悪魔ではなく表現のひとつ。規格外な “悪魔のような能力” という点から、個人が持つ個人だけの能力を魔女語の悪魔───DiabloやDiavoloからディアと名付け、そう呼ぶ事に大昔の魔女達は決めた。

その悪魔にも特徴や性格があり、ワタポの持つ能力ディアの性格はどこか尖っていたり、マユキの持つ能力ディアは掴めない性格をしていたり。

この、自分の悪魔と対話、対面する事で本来ならば自分で辿り着けないStageへ辿り着き、突破できないFrameを突破する事が可能となる。

他にも能力関係で様々な現象が起こっているが、全てを知っている者は存在しないだろうとまで言われている不確定な能力がディア。

今現在プンプンの生身はSF3、90%が能力の悪魔に呑まれている状態。いままで使われる身だった悪魔が70....80%辺りで表に濃く出る事ができ、今度は使う側になる。そうなると能力の悪魔は喜んで本体を呑み込もうし、本体は何が何だかわからず、流れに身を任せてしまう。もちろん例外も存在するが基本的にStage3辺りからは能力が主導権のようなものを掴み、出るタイミングを今か今かと狙っている状態、何もわからないまま引っ張られ、何もわからないままSS-S2指定の討伐対象と判断さ、気が付けば自分を無くしている者が大多数.....能力を持つ者の9割がこの末路を歩む。


現時点で、本来ならばプンプンはSS指定の討伐対象。しかしまだその判断を下す者達───権力者などがプンプンの状態を確認していない事が唯一の救いとなり、そこでプンプンの能力があまり存在しない “表の自分を嫌いではない” 性格だったので、恐らく───能力はチャンスを与えたのだろう。呑まれるか呑み込むかの。



『ここは真っ暗であまり気分がのらないね......移動しよっか』


「......移動?」


『眼を閉じて』



銀色の魅狐は言い、瞳を閉じた。金色の魅狐もそれに習い瞳を閉じると───浮いていたような感覚が消え、足裏に感覚が。


「───!?.....ここ......どこ?」


見知らぬ場所に立った金色の魅狐は周囲を見渡す。大きく真っ赤な鳥居や狐の狛犬、朱色や黄色の花が咲き、見たこともない建物がひとつ。


『ここは魅狐神社。階段の下にはアキツキっていう魅狐の都があったけど、今はもうないよ』


「神社.....アキツキ.....和國───シルキ大陸?」


『さぁね。さて、続きをしよう』


「まって!」


『またない』





プンちゃが纏っていた朱雷の衣は不安定になり、消えた。同時にプンちゃは眠るように倒れ、ワタシは何が起こったのか理解する。


恐らくプンちゃが───ワタシが黒円の瞳の自分と対峙した時と同じような状況になったのだろう。


「とりあえず今は大丈夫かな.......痛ッ、腕壊れちゃった」





複雑に迫る朱雷槍に、金色の魅狐は青白の雷を全身から放電、拡散させ雷槍をいなす。落雷のように轟音をあげ地面を抉り消す朱雷槍の威力に金色の魅狐は驚きを見せるものの、銀色の魅狐はその威力を自慢する事もなく次の攻撃を仕掛ける。

腕を軽く振り針状の朱雷をいくつも飛ばし、金色の動きを伺う。


───ボクに出来るなら金色キミにも出来るよ。


銀色の魅狐は胸中で呟くと、伝わったかのように金色も同じ攻撃で朱雷針へ対応して見せた。細い雷針は見事にヒットし宙で弾け消える。


『うん、いいね。今のは攻撃力こそ低いけど相手を麻痺させたり、相手に雷を纏わせる事が出来るから便利だよ。それじゃあコレは───出来る?』


「え───!?」


一瞬で銀色は金色の背後まで移動してみせた。出来る? と呟かれなければ金色の反応はもっと遅れていただろう。それほどまでに一瞬で、何の動きも捉えられずに背後をとられていた。そして勿論、銀色は背後から攻撃を仕掛ける。朱雷纏う右腕で金色を貫こうと腕を引き、突き出す。

雷を拡散して威力を殺しても貫かれる。そう感じた金色だが、自分でも驚くほど頭は落ち着いていた。銀色の腕───だけではなく足にも微量の朱雷を感じ、周囲に残る消えかけの朱雷も金色の魅狐は捉えた。


───これだ。


パチッ、と気を付けなければ聞き取れないほど小さな破裂音を残し金色の魅狐は銀色の背後へ移動、朱雷の腕は轟音で空気を揺らし、虚空のみを貫いた。


「.....足の裏に雷を薄く纏って、跳ぶと同時に弾き消す。それをもう一度すぐにやって背後まで移動する.....空中を蹴る感覚なんだね」


金色は僅かなヒントから銀色が見せた移動方法を見抜き、すぐに試した。足裏の雷が宙でも足場代わりになり、それを弾く事で更に速度は加速。空中を蹴るように移動すれば一度で、一瞬で背後まで移動したようにも見える独特な移動方法。


『そう。ボクも金色キミも走るって言うよりは跳ぶ、跳ねるって感じの移動を使うから、今の移動方法も簡単には見抜かれない。和國にいる妖怪やアヤカシ達はみんなコレに似た移動を使うから、定番と言えば定番なんだけどね』


ご機嫌に言い、朱雷撃を拡散させる銀色。金色は今覚えたばかりの移動を匠に使い、複雑な雷撃の隙間をすり抜け銀色の肩を掴む。


「キミはどうしたいの!? ボクを消すとか、変わるとか言って.....今もこうして色々教えてくれた。キミは───」


『今ボクを攻撃しなかったの、後悔するよ?』


銀色は金色の言葉を聞くも、答える事なく全身から朱雷を一気に拡散。離れた金色を朱色の瞳で捉え───九本ある尾を全て、金朱の焔へ変えた。





風を切り進み現れた者は、ガラス細工のように繊細な翅をふわりと広げ、鋭い速度を一瞬で消し、優しく着地した。


何もない空間を砕き割り現れた者は、ピリピリと空気を揺らすほどの魔力を纏い、周囲を気にする様子もなく一直線に赤眼のピエロを見る。


「おぉ、半女帝の半妖精と、ウザ魔女じゃん。派手な登場ご苦労サン」


トーンを絞った声質で半妖精と魔女を迎えたグルグル眼鏡のピエロ。大袈裟に焦り驚いていたのは勿論ピエロ的演出で、ふたりがここへ来る事を誰よりも早く感知したのはフローだった。


「これがクラウン?」


半妖精のひぃたろはピエロメイクを見詰め言うと、フローは「これってのは酷いナリ~、お前のマナも酷い歪みだけどもねん! 半分ちゃん」とふざけた反応と安い挑発で返すも、半妖精は気にせず周囲へ意識を拡散させるように感知網を広げた瞬間、フローはリリスへ視線を飛ばし、リリスは指先を動かした。

感知されるとマズイ事がある、ではなく、感知中は隙が生まれる、という点でこのタイミングを狙う。


リリスが動かした指は竜騎士族を一斉に起動させ、なんの合図もなく乱戦が幕を開けた。





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