◆263



雑に抉じ開けられた空間から顔をひょっこり出し、一度憎らしく笑ったグルグル眼鏡のピエロは空間から愉しげに跳び、アイレインへ足をつける。

続くように現れた赤眼のピエロはつまらなさそうに空間から出て、最後は人形のようなピエロがニッタリと嗤い、空間が閉じられる。


異様な雰囲気を持つクラウン───ピエロにセツカ達は硬く構えるも、後天性 吸血鬼は、


「いらっしゃいデス、ピエロさん」


と笑顔で言い、ヒラヒラと手を振った。


「初めまして始めまして、クラウンの団長、座長でございます。団長さん.....座長さん お好きな方でお呼びいただけると何かアレで嬉しいです。さて、本日は皆様.........楽しんでってくださいなっ!」


グルグル眼鏡のピエロは大袈裟な仕草を混ぜた挨拶したと思えば、突然砕けた口調で言い放ち、指をパチンと鳴らした───のだが、これといって何も起こらない。


「.......なんじゃ? 段取りミスか?」


「サーカスの仕込みが不発したん? 頼むでぇ、金払って見る立場やったらブチギレとるでこれ」


キューレ、アスランが素早くツッコミを入れるような発言をするも、グルグル眼鏡のピエロはピンと立ったまま動かず、眼鏡の裏の表情もどこか誇らしげ、自慢気にも思える。


「........ありゃ? ちょっと高すぎたかいな?」


あまりにも何も起こらない状態に団長ピエロは「まずったかいな? まずったかな?」と何度も呟きながら空を見上げる。すると、


「きた。大、丈、夫」


ドールピエロがギザギザとした喋りで言い、左右の指を奇怪に動かす。


「うむうむ。ではでは気を取り直して! みんな楽しんでってちょーだいなーっ!


団長ピエロの声が一際大きく響き、戸惑い状態だった冒険者や騎士もスイッチを切り替え、遅くもクラウン拘束のため行動を起こした。が、


「───!? 全員下がって!!」


クラウンよりも大きな声でそう言い放ったセツカ。足を急がせていた者達は無理矢理停止し、大きく後ろへ跳ぶ。

また落雷でも落ちるのか? と思った数名は空を見上げると───無数の点が徐々に影へと変わる。


「おいおい.....なんだあの数」


アクロスは上空から落下してくる点や、光に言葉を漏らしつつも流石はベテラン冒険者。素早いフォン操作で赤銅色の鎧と同色の大盾を取り出し、装備する。


落下する影───よりも数十秒も速く色とりどりの光が落下し、地面を激しく揺らし周囲は爆煙に呑まれる。


「はいはい注目して注目してー!」


と、遊んでいるような声が響き、緑の魔法陣が展開され爆煙を一気に吹き飛ばした。


「.....なんスか? あの連中」


ドメイライト騎士のヒガシンはこんな状況でも自慢の髪型を気にしつつ、ずらりと並ぶ人影も気にする。


「なんデスかねぇ......古い血の匂いがするデスよ?」


小さな鼻先をピクリと動かし、血の匂いを拾った後天性吸血鬼へ、グルグル眼鏡の団長ピエロは親指をビシッと立て頷いた。


「今夜のゲストは......ドゥルルルルルルル、ばん! 竜騎士族の皆様とその飼い竜ワイバーン達でーす! 拍手拍手ぅ~!」


ひとり拍手する団長ピエロへ、今まで隠れ黙っていたイフリーの代表ビルウォールが尖った声を突き刺す。


「......竜騎士族、だと? もうその種は全滅したハズだろう!? なぜここに居る!? そして、なぜふざけた道化に手を貸す!? そんなゴミ以下の連中に手を貸すなど正気ではない........そうだ、今すぐ私の元でデザリア騎士として働くといい! そんな連中と手を組むより私と手を組んだ方がいい生活も出来るぞ! ゴミを漁るような連中と共に行動していても何の得も───......?」


「お前、うるさい」


マナも雰囲気も変えず、魔力感知もさせない速度で空間魔法を発動させた赤眼のピエロは、自分の右腕だけを空間に通し、ビルウォールの背後から心臓を突き刺した。

剣を引き抜くとビルウォールは力なく倒れる。予想外の攻撃に全員が停止する。


「わーお! 流石の団長さんもチミが動くとは思わなかったよ~、ナイス!」


沈黙を破る団長ピエロのおどけた声に、全員の時が戻る───と同時に物凄いスピードで迫る気配を全員が感知。


「なになになになに!?」


アワアワと手をばたつかせ大袈裟に慌てる団長ピエロだったが、さらにピエロは驚く。

クラウンと王族が向かい合っている丁度中心の空間が、亀裂もなしに破裂する。


ガラスを砕き割ったような耳を突き刺す音の中で赤眼のピエロは、


「.......黝簾」


と呟き、雰囲気を鋭く尖らせた。





霧棘竜の魔力が蒸発するように昇り、マナは爆発するように拡散した。

しかし拘束系空間魔法内では

逝く宛もなく消滅する事も出来ず、ただ浮遊するばかり。


「まっとけ。今出してやるから」


壁───と言うには少々異質な空間魔法の端をわたしは睨み、胸中で逆巻く言葉に出来ない何かをゆっくり吐き出すように、いつもより時間をかけて、魔術の詠唱をする。


霧棘竜───ピョンジャ ピョツジャは勝手にわたしに付いてきた。竜自身が付いていく事を自分で選んで。だから、こんな結果になってもそれは竜自身の問題で........いや、違う。自分で考えて自分で選んだとしても、この結果はあんまりだろ。

自分で選んだ事だろ。と今までは思い、放置してきた。そこに他人がクチ出しする必要はないと思っていたからだ。今でもこの考えは間違えだとは思わない。でも、正解だとも思えなくなった。


どんな考えや理由があっても、ダプネはピエロになっている。自分で考えて自分で選んでふざけたピエロメイクをしている。

霧棘竜も自分で決めてわたしに付いてきた。


だから勝手にしろと? 違うだろ。


自由と勝手は同じような言葉だけど、同じじゃない。


自由の中でも決まりはあるし、我慢もある。

勝手の中には決まりも我慢もない。


竜は自由に飛んでいたようで、ちゃんと人のルールを守ろうとしていたのではないか? 竜なのに、人を敵として見る事もせず人と一緒になってピエロに立ち向かった結果がこれか。


ダプネは、クラウンは勝手だ。目的もハッキリわからない中で、アイレインで好き勝手に暴れて、好き勝手に奪ってる。レッドキャップとやっている事は.....いや、レッドキャップより手癖が悪い。


アイツ等は一体なんなんだ?. .........何でもいいか。


お前らが好き勝手にやるなら、わたしは好き勝手 “自由” にする事をやめるぞ。

同じ様に “好き勝手” で対応させてもらう。


自由が抜けるという事は自由の中にある決まりや我慢もなくなるって事だ。


わたしが大事だと思っている相手や空間、時間を奪い笑ってるクソピエロが───



「───Drop dead. 目障りなんだよ」





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