◇232



「お前ら、わたしに勝てそうか?」


呆れ声で眼の前の冒険者や騎士達を見る紅玉色の瞳を持つピエロ。既に何十人もの人間を容赦なく殺しているピエロを前に、臆する事なく武器を構えた人間を見て、ピエロは呟く。


「.....バカかよお前ら」


向かってくる者には容赦なく対応する紅玉の瞳を持つピエロ───黒曜の魔女ダプネ。


冒険者や騎士達は武器に無色光を纏わせ、渾身の力で剣術を振り振り切ろうとするも、剣術よりも早く魔術を発動させ、炎魔術で容赦なく消し炭にする。焦げと熱気が残る中、ダプネは空間魔術を感知する。


「うっはー、容赦なしの燃やしっぷりだわねーダプネちゃんや」


空間を抉じ開けて現れたグルグル眼鏡が愉しげにはしゃぐ。


「お前、黒髪の相手はどうした?」


「あー、中止中止。それより片付いたろ? 行くぞダプネちゃん」


「行く? どこへ───おい、引っ張るなって!」


グヒヒヒ、と笑いフローはダプネの手を引く。


ふたりが向かう先は───アイレインの教会前。つまり、ルービッドがいる場所。





「おいおいおいおい、やべーぞ何か!」


雨の街【アイレイン】がすぐ先に見える距離で、わたしもハッキリと異変を感知し、箒の上でフォン耳に当てる。通話を飛ばしている相手はナナミンだが、応答がない。


「何かヤバイのはみんなわかってる。エミリオが誘ったんだから、散る先も決めなさい。私達はそこへ向かうから」


何とも心強い声色で言う半妖精のひぃたろ。確かにアイレインへ行こうと誘ったのはわたしだ。しかしこんな状況───街中で派手に誰かが暴れているような状況だとは予想させしていなかった。


わたしは魔女力のおかげで自然と魔力やマナの感知が出来る。大量の魔力が忙しく変動し、今数十のマナが一瞬で消滅した───つまり誰かが死んだ。


ハロルド───半妖精は元々のステータスが高水準なのか、感知もわりと出来るタイプだが.....雨の匂いに混じる血の匂いを拾ったのだろう。形のいい鼻を一瞬揺らした瞬間に表情が変わった。


ワタポも感知は出来る。得意か不得意かで言えば、不得意になるだろうけど、クゥの上で感知のみに集中した事で魔力の変化を拾っている。ワタポの経験から今の魔力の変化の答えを戦闘だと判断し、赤々とした長剣を撫でた。


そして魅狐のプンプンは独自の感知術で魔力やマナを拾う。まだ安定しないものの、今回はプーの感知練習がなければアイレインの異変に気付くのがもっと遅れていただろう。


細かく説明しなくても、このメンバーならば散るのも集まるのも簡単だ。


「......わたしは一直線、膜がある感じのトコいく! ワタポとハロルドは一瞬濃くなった範囲の場所! プーは.....粘っこいヤツんトコ!」


大胆すぎる説明で言い終えるや全員猛スピードで散る。このメンバーでなければこの言い方、ザックリした言い方は出来ない。


「飛ばしていくぜ、魔女箒ムスタング


魔女の箒は扱う者の魔力で加速する。箒へ魔力を注げば速度は一気に加速し、雨を切る。


わたしの勘が正しければ.....粘っこい魔力の正体はリリスだ。

一瞬だが範囲的に濃くなった魔力の場所は誰かわからない。でも決まった範囲へ一時的に何か出来るのは “領域系” の特徴。ひとりではなくふたり送る方が安全だ。


「魔女力ってのはこんなに便利なのかよ」


わたしは自分の魔女力の特性を知らない。しかしここまで敏感に感知出来るのは大きい。これがわたしの魔女力の特性なのか、魔女全体の特性なのかは知らないが、持っているモノならば最大限に使うだけだ。


一直線、わたしが向かっている先には数名いる。そしてそこへ今.....魔力量が普通の種族にしては多すぎる存在が向かっている。


「この量は完全に魔女だな......誰が何しに来てんだよ」


箒の上に立ち低く構えた姿勢で更に速度をあげ、アイレインの門を抜けた。





今ルービッドが行おうとしている事。それはルービッドからギルドを奪った魔女と同じ、理不尽とも言える。

リピナの言葉でルービッドの心は大きく揺れた。しかし、現実はひとりの心の変化など、待ってはくれない。


「あいやー、まだモタクタしてたのかいな! メイクも消えてるし頼むよー......想像以上に使えないなぁチミは。イライラしちゃうわさ」


割れるように開いた空間から楽しげな声をだし、飛び出てきた新た道化。その道化を追うようにまたひとり。


「だっぷー」


ピエロを前にカイトは大剣を構え、恋人の名を呼んだ。

だっぷーは頷き、しし、リピナ、小竜を後方へ下げ、自分は中距離で魔銃を構える。


「ほぉ。その大剣はフェンリルかいな? 悪くないけどまだ上があるね。それより防具が先かいな? 後ろのは鉱石と金属で作られた魔銃!? リボルバータイプは珍しいねー、武装から見て弾数が心配に......ん? お前もしかして......」


武器を構え戦闘体勢に入るメンバーを前に、道化───フローはカイトとだっぷーの姿を見て感想を並べる余裕を見せたと思えば、だっぷーを見て言葉を止めた。


「.......うん、少し遊んでもらおうかな! チミは手出すんじゃないぞい」


フローは手を合わせ、愉しそうに言い、ダプネには手を出すなと命じた。ポケットからフォンを取り出し画面を撫で取り出され武器は大型で、それを見たリピナは奥歯をギリッと鳴らし震えた声を出す。


「ナメすぎだぞクラウン.....そんな店売りの量産品で、私達に勝てる気でいるのか!?」


「あらら怒ってる!? 少し遊ぶってゆっただけじゃーん。そうカリカリせず、ね?」


どこまでも人を馬鹿にしたような態度を見せるフローにリピナは怒り、声を震わせていた。


「お前がルービッドをそそのかした犯人だろう.....、一発ブッ叩いてやる!」


リピナは豪華な装飾を持つロッドをフローへ突き付け、普段ならばほぼ見る事の出来ない怒りフェイスで睨みを効かせる。


「おっほー! 怖い怖い。でも、そのロッドはちょっと飾りすぎだと思うよ~。武器とオシャレアイテムは別物って理解してないタイプかな? 盛り髪ちゃん」


フローは軽く挑発し、最初に攻撃するターゲットへ視線を流した。





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