◇233



粗削りされた岩のような大槌を振り、フローが攻撃をした相手は赤髪のルービッドだった。


小柄なフローは大槌を軽々と振り、油断しているルービッドの頭部を遠慮なく強打した。


「ジャグリングの剣技は魅力的だけど、お前は使えないから、いらないわい」


ルービッドに対しフローは、想像以上に使えない、イライラする、と発言していた。その時点でダプネは、フローが直接処理するだろう、と予想していたため素早く行動へ移った。小さな空間魔法を展開し、傾き倒れるルービッドから【サクラ】を手早く回収。


ルービッドはピエロメイクをし、カイト、だっぷー、ししの前に敵として立ちはだかった。しかしリピナの登場でメイクは崩れ、始めからクラウンメンバーではなく、何か理由があり今現在クラウンのメンバーになっているのだと冒険者側は予想していた。しかしクラウンメンバーとしても認められていないような事態に混乱が渦巻く。


「カイトとだっぷーは空間ピエロを、私は眼鏡ピエロを狙う。ししと子竜は隙をみてルビーを」


冷静に状況を判断したように見えるリピナだったが、眼鏡ピエロ───フローを自分で狙う理由はルービッドを攻撃されたからだろう。

それに気付いたフローはグヒヒと笑い、ルービッドを空間魔法へ落とした。


「面白いもの見せたげるわさ。それまで任せたぞ、えっと......空間ピエロちゃん!」


フローはダプネを見てニッと笑い、次にリピナを見て悪巧みな笑みを浮かべ、空間魔法の中へ消える。突然現れて突然大槌を振り、そして突然消えたフローに冒険者達は戸惑う以前に、唖然とするしか出来なかった。





唖然とする冒険者を前にダプネも呆れる。冒険者に対してではなく、フローに対しての呆れ。


「......アイツの事は気にするな。自分が楽しいと思った事は全て正解。それ以外は全て不正解、間違いだと思うタイプだ」


ダプネは疲れたような声で言い放った直後、ピリッとした空気を出す。


「この教会には術式をかけてある。街が崩壊しようと人が死のうと、中から見れば何も変わらない雨の街に見える。中の連中は外に出ようという気にもならない様にしてある」


───フローが何を考え、ルービッドを空間へ落としたのか予想出来る。そしてわたしからサクラを回収しなかった理由も.....多分 “使え” って事だろう。


ダプネは空間魔法を使い、子竜を空間へ落とし捕獲した。それを見ていたししが一歩前へ足を進めた瞬間、術式が発動し、周辺には魔法陣が展開される。


「3分動けなくなるだけの術式だ。黙って見てれば3分後には自由だ」


───障気をばら撒くなら人型よりモンスター型.....ドラゴンならば広範囲に障気を撒き散らせるだろう。その後コイツがどうなるかなんて、どうでもいい。サクラが使えるか使えないか.....それが分かればなんでもいい。


ルービッドから回収したサクラを眺め、ダプネは子竜を入れた空間へサクラを投げ入れた。





ダプネが発動させた術式は内部の声が外部に届かない仕様だった。術式を破壊ようと必死に武器を振るうも手応えはなく。


「ダメだ、堅すぎる」


大剣を地面へ突き刺し、腕をブラブラと振るカイト。


「魔銃でもダメだあー!」


ホルスターへ銃を納めるだっぷー。

いくら攻撃しようと、魔法陣を破壊しなければ術式は破壊出来ない。リピナも攻撃魔術を放つも、元々攻撃型ではないリピナは火力系魔術は中級ランクが精一杯だった。ししはコクン、コクン、と頭を揺らし必死に睡魔と戦う。


「あのピエロ、子竜をどうするつもり?」


「わからないけど、良い事じゃないだろうね.....」


リピナの言葉にカイトが答えるも、ダプネが何をしたかまではもちろん知らない。


とにかく術式から出る方法は何かないか? と周囲を見渡していた だっぷーは、


「.......、?」


何かを発見したのか背後をじっと見る。


「ねぇ.....ねぇカイト、なんか来てない?」


その声に術式内のメンバーが振り向く。それを見ていたダプネも気になり、視線を飛ばし、捉えた影に両眼を大きく開いた。





やべー速い、速いやべー! と、わたしは箒の上で自分が出した速度に全力でビビっていた。今誰かが飛び出してきたら100パーセント衝突事故を起こす自信がある。それくらいスピードは出ていて、制御出来ていない。


何かの魔術が発動しているであろう、この先へ突っ込む。

その後の事はその時考えればいい。などと適当な思考で爆走していると、その何かの魔術がハッキリ見えた。


「術式ぃー!? 邪魔くっせーな!」


魔法陣の範囲を包む魔力の壁。術式の特徴であり、破壊するには魔法陣を破壊しなければならないが───中に誰かいる。魔術を使って地面ごと魔法陣を破壊する作戦は中の誰かを巻き込んでしまうので使えない。術式の魔力的に考えて、中にいるのは冒険者か騎士だろう.....この魔力量は簡単な術式じゃない。となればやる事はひとつ。今のわたしは魔法に対して強い。


「───頼むぜ中の誰か! わたしを優しくキャッチングしてくれよー!?」


と、叫び、わたしは短剣を抜き風魔術を詠唱しつつ短剣を術式へ投げ、魔術を発動する。手から短剣が離れた瞬間に箒から飛び、あとはもう運任せだ。

術式の先にあるのは教会だが.....箒が衝突したくらいで壊れないだろう。術式が相手となれば壊れる確率もあるが、投げた短剣【ローユ】は魔法破壊の特種持ち。詠唱、発動した風魔術で短剣を押し投擲速度を上げているし、まず間違いなく術式は解け箒は教会の壁に衝突するだろう。

魔箒【ムスタング】は魔法系ではない壁にならば、衝突しても壊れない。魔女の箒をナメるなよ!


短剣は狙い通り術式を破壊し、箒は消えた術式を通過して行った。


「よっしゃ───.....ぁぁあああ、誰か助けて死ぬ死ぬ!」


わたしの全力の叫びが届いたのか、落下地点に大きなキノコが生え、ポフンっと柔らかくわたしをキャッチしてくれた。


今回ばかりは心臓が喉まで上がってきたと言っても言いすぎではない。それくらい無茶をしすぎた事をわたしは少し反省した。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る