◇228



「さて、おとなしく拘束される気にはなったか?」


ノムー大陸の新マークを胸に掲げるドメイライト騎士団 騎士団長代理のレイラは膝付く男へ長剣を向ける。レイラだけではない。音楽家で希少な音楽魔法を扱うユカに猫人族ケットシーのゆりぽよ と リナも武器を持ち、男を───レッドキャップのベルを睨む。


戦闘を開始してからベル───パラベルは驚かされた。自分の戦闘力には自信があり、並みの騎士や冒険者に負ける気は全くなかった。しかし相手は並みではなく熟練者とも言える存在である、と気付いた時には遅かった。


剣よりも扱いが難しく、大剣とは使い勝手が違う長剣を身体の一部の様に使う騎士。


剣で軽い連撃を決めつつ楽器の様な形状の片手斧で重い一撃、そして素早く音楽魔法を演奏する冒険者。


猫人族の種族特性である俊敏力───AGIを全開に移動しつつ正確に弓を弾くゆりぽよと、フラフラと読めない剣筋で攻め立てるリナ。


即席で組まれたパーティとは思えない連繋にベルは一瞬焦り、その隙を遠慮せずレイラは叩いた。


「一応、音楽魔法サウンドマジックの拘束曲で動けなくしてるけど.....怪しい動きをしたら、ゆりぽよが迷わず心臓ブチ抜くから気を付けろよ」


黒スーツを着こなすユカは緩んだ茶髪を軽く束ね直し、タバコをくわえる。


「にゃにが目的か知らにゃいしぃ、興味にゃいけど.....もう赤帽子にかき混ぜりゃれるだけの私達じゃにゃいニャ」


ギリギリと弓を鳴かせ、数本の矢を向けるゆりぽよ。ウエイトレスのようなエプロンドレスという遊び心のある装備だが、弓の腕は純妖精エルフの弓使いと肩を並べる実力者。


「んにゃ~残念だにゃペペベル、ヒック.....。お前らがコソコソしてる間にぃ、お前らの情報を集めぇる時間は、ヒック.....じゅーぶん、あったニャ。隠しネタでもにゃい限り、このリニャ様にゃ勝てにゃいぞ......ヒック」


ベロベロに酔っているリナだが、大剣や太刀といった大型の近接武器を自在に操るタイプの彼女は、酔えば酔うほど強くなる、と自称する猫人族。

リナの言った通り、ウンディー、ノムー、イフリーは全力でレッドキャップの情報を集め、仮説をたてては抜け穴がないかを何度となく話し合い、情報を共有し対応力を高めた。


しかし相手はSSS───トリプル指定の犯罪者。


「いいねぇ お前ら.....久しぶりに痺れたぜ? そこまでやってるなら、イレギュラーが起こった時の対応も用意してるんだろ?」


圧倒的不利な状態で、ベルは強気な発言をした。強がりにも思える発言に対し猫人族の弓使いゆりぽよは形のいい猫耳をピクリと揺らし、空気が震えるような音を拾った。


何かくる。そう言おうとしたゆりぽよだったが、クチは動かず、足から力が抜けそのまま濡れる地面へ倒れ込む。ゆりぽよだけではなく、リナもユカもレイラさえも同じように。


「おい頼むぜ.....俺達の情報を集めて対応できるようにしてたんじゃねぇのか?」


わざとらしく、ゆっくりと喋りゆっくりと立ち上がるベルは音楽魔法での拘束を破壊し、自由の身に。


音楽魔法サウンドマジックは希少な魔術で中々に万能。しかし音は振動。ベルは別の振動をぶつけ音をずらし楽譜のような拘束を魔術を破壊した。


その振動に対していち早く反応したゆりぽよだった。ゆりぽよの持つ能力ディアは聴覚を極限まで高める効果。空気の振動をも拾う事が出来る地獄耳だが、反応した瞬間にベルの能力ディアは炸裂していた。


指定レートSSS-S3犯罪者パラベル───ベルは “領域系” の能力ディアを持つ。

領域系は高い集中力を要求される能力故に長時間使用や連発使用が難しい能力だが、その効果次第では発動時に状況を一変させる事も可能な逆転力の高い能力。



「さて、おとなしく殺される気になったか?」





小雨降るウンディー平原をアイレイン方向へ進むわたしエミリオと愉快な仲間達。鬱陶しい小雨の中でも、わたしはテンションと高度をあげる。


「ひええー! 最高だぜムスタング!」


魔女の箒【ムスタング】をアイテムポーチから取り出し、自慢するようにわたしは箒へ乗った。魔女子時代は全く言うことを聞かなかったじゃじゃ馬箒も今では簡単に操作可能。高く昇っては一気に下がり、久しぶりの箒を堪能する。


「魔女で箒っていうのはわかるけど、その乗り方はどうなのよ」


「かっけーっしょ? てかそっちこそ、それで移動はどうなの?」


箒に股がる旧スタイルではなく、箒に足を乗せ、文字通り乗るエミリオスタイルで空を泳ぐわたしへ半妖精は呆れ声を出すも、わたしから見れば翅───エアリアルを移動手段に使うハロルドの方がどうかと思う。

純妖精との一件でハロルドのエアリアルは進化していた。薄桃色だった翅は桃色を濃くし、黄緑色の模様が浮かぶ。

本来のエアリアルは発動中魔力を消費し続け、別の魔術が使えないものだったが、ハロルドのエアリアルは発動に魔力は必要だがその後魔力は消費せず、別魔術も使える。

翅を広げるにしても要求魔力は本当に少量なので、正直羨ましい。


「でもこれでワタシ達は一応、全員移動手段を持ったワケだね」


白銀の狼───フェンリルのクゥへ乗っているワタポはわたしの箒を羨ましがる様子を見せない。が、多分めちゃくちゃ乗りたいと思う。後で貸してやろう。


「ハロルドは翅、ワタポはワンコ、わたしは箒、で.....プーは?」


立ち乗りに疲れたので箒の上に寝転がるわたしは、いい高さに高度を固定しプンプンを見る。


「ボクは走るだけだよ」


と、言いつつ走るプンプン。

走る、ではなく、跳ぶ.....跳ねる? そんな感じにも思えるプンプンの移動は雷の力を上手く使い、速度や移動距離を高めた走り。ちょこちょこと走っているワケではなく、一歩踏んで跳んで、二歩目も同じく。

踏み込む度に足下で雷が破裂するスタイルは妙に格好よく、跳ぶように移動しているので雷の余韻が尾のようにひく。雷魅狐プンプンならでは。


「雷の微操作も出来るようになったからこその移動方法ね。前の状態なら雨水で今頃みんな感電してるわよ」


クリスタルのような翅で優雅に泳ぐ半妖精は魅狐を見て微笑み、白銀の狼に乗る白黒騎士も小さく笑った。

プンプンもハロルドもワタポも、出会った頃とは比べ物にならないほど成長している。わたし自身も自分の変化や進化を実感出来るほど成長している。


こんなふうに思う事など今まで───魔女界でもなかったのに、不思議なものだ。


魔女、人間、魅狐、半妖精。

別々の種族がこうして肩を並べて歩いている事がわたしにとっては普通の日常にも思えるが......


「これも凄い事なんだろうなぁ.....」


「ん? エミちゃ何か言った?」


クゥの頭を撫でながらワタポがわたしを見る。


「んや、何かねむてーなって」


「そんな乗り方してたら今絶対落ちるよ。ワタシもクゥも拾わないからね」


「そこは拾ってくれよワタポ」



人間も魔女も他の種族も.....たいした違いなんて無いんだよな。







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