◆182
霧空をゆっくりと降り、わたしとドラゴンは熱気が残る地面に着地する。
「サンキュー、自分の魔術で丸焦げになるかと思ったぜ」
「ピェ~」
ドラゴンはわたしの声に返事をするも、お疲れのご様子。頭の上でダラリと力を抜き休憩する姿はS2-SSドラゴンとは思えないほど、無防備で威圧感や緊張感などそこにはない。
弦楽器が鳴るような音が小さく響き、音楽家ユカが発動させた
「凄い範囲と火力だな! ピザでも焼けるんじゃないか?」
「あんなのでピザ焼いたら丸焦げだろジュジュ」
焦りも緊張もないジュジュとアクロスは笑い、わたしへ「お疲れ」と声をかけてくれた。音楽家はバイオリンを拭き、ルービッドは辺りを索敵するように見渡し、ダプネは───きっとガーガーうるさい小言を飛ばしてくるだろう。
「お疲れ、当然だけど昔より威力も範囲も上がってるな」
「お、おう。お疲れ」
巻き込みレベルマックスの広範囲魔術を報告なしでブッパしたのに小言なし、それどころか 魔術の感想まで.....頭でも打ったか?
「さっきのウルフは全部消えたねえ、フローが魔女って本当なんだねえ!」
だっぷーはそう言いつつ、わたしへ近付きハイタッチを。助けてもらった狼カイトにハイタッチは無理なので、わたしは狼の頭をワシャワシャと、少々荒く撫でた。
狼....ワタポの相棒、フェンリルのクゥは小型モードだとフワリと柔らかい毛。大型、フェンリルモードの毛は少し堅く確りとした毛。しかしこのカイトは姿形こそ狼そのものだが、毛の質はわたし達 人型の髪の毛と変わらない質。こうして接し、狼の知れば知るほど侵食───イロジオンの雑さが次々に見えてくる。
「エミリオ、目的は達成できたの?」
ハードケースへバイオリンを入れ、フォンポーチへ収納する楽器愛を見せた音楽家だが、剣は拭いたり刃こぼれの確認もせず鞘へ落とし、わたしへ確認するような質問を。
「目的?....あー、うん! わたしは終わった。ダプネはどうよ?」
ダプネの方は目的でもないが、イロジオンについて何か分かったか? と訪ねる形で話題を飛ばすと、ダプネはポーチから小瓶を取り出し呟く。
「一応、これがイロジオン魔術を解除する薬らしいが....イロジオン魔術自体が未完成だろ? この薬も完成された物だとは思えないんだよな」
侵食───イロジオンとはいえ、カイトにかけられたイロジオンは魔術だ。どんな効果を持つモノでもそれが魔術である以上、必ず何か手はある。
ダプネもわたしも魔女。魔術は万能でも無敵でもない、という事をどの種族よりも知っている種族。
「この薬を飲むか飲まないかは....2人が決めればいい」
小瓶をだっぷーへ渡し、ダプネは手をヒラヒラと扇いだ。薬を受け取っただっぷーは瓶を見詰め、数秒黙り、決めた答えは───
「....薬に、薬品に詳しい人とか心当たりない?」
「あ、それなら雨具屋のラピナさんがいいね! リピナは医術や治癒術、再生術を使えて、姉のラピナさんは薬剤師なんだ。リピナが治癒特化の冒険者になったキッカケ....かな? 今は雨具屋だけど、話くらい聞いてくれるかも?」
リピナ、ラピナと昔から仲がいいのであろうルービッドは、雨具屋のラピナが元々薬剤師である事をだっぷーへ伝えた。リピナもそうだが....ラピナもそういう、医療医学の知識や技術を持つ人間とは思えないほど....こう、なんて言うか、派手な見た目だ。
「お願い....その人を私に紹介して」
「いいけど.....うん、いいよ。アイレインへ戻ろう」
ルービッドは何かを言おうとするも、クチの中で言葉を消し、だっぷーへラピナを紹介する約束をした。
わたしは目的の角....ではなく棘をゲット出来たし、クエストの方はよくわからない結果になったが、先払いで報酬を貰ってるし、あのドメイライト騎士にどこかで会ったら、前の件は解決した! とでも言っておけば問題ないだろう。若い狼の調査とヤバめなヤツなら討伐ってのはまぁ....実際解決したっぽいし。新たな問題【イロジオン ウルフ】が残ったが、これは調査や討伐とは別問題だし、もうプリュイ山に用はない。雨の街 アイレインへ戻る流れになると、ダプネは気を効かせてなのか、空間魔法を展開させた。
「面倒事は勘弁だから出口は山道のスタート付近に繋いだ。少し歩けばアイレインだ」
直接アイレインに繋がなかったのは、プリュイ山から戻ってきた姿を見ていないのに街にいる、と制限区の出入りを管理監視している剣士が絡んでくる確率が高まるからだろう。そうなれば確かに色々面倒そうだ。
「だっぷーと狼と....ルービッドもラピナの店っしょ? ミストポンチョ渡すから返しといてよ」
わたしはそう言いつつ、装備中のミストポンチョを外す。このポンチョのおかげでプリュイ山のデバフミストの中をグイグイ進めたので、貸してくれた雨具屋のラピナへ直接返し、お礼を言いたい所なのだが、わたしには大事な大事な、大事な用事がある。それは、武器生産だ。
【ミスリルインゴット (大)】
【炎を宿した喉笛】
【優雅な風切り】
【地核鉱石】
【濃霧の秘棘】
フォンポーチに並ぶ素材を確認し、さらに素材をロックする。これでロックを解除するまで取り出す事も破棄する事も出来ない。つまり、無くす事はない。
ついに揃った...わたし専用の、最強装備となる武器ベースの素材が、ついに。今すぐにでも【アルミナル】へ飛び、武器生産をお願いしたいが、とりあえずアイレインだ。外したミストポンチョをルービッドへ渡し、いざ! アイレインへ! と足を一歩進めた所で、音楽家が声を奏でる。
「アイレインについたら、私達は別行動させてもらうわ。エミリオはバリアリバルまで付いてきて」
「───は?」
「私達が霧山まで来た理由が、エミリオをバリアリバルまで連れていく事なんだよ。多分これ “クイーンクエスト” だから、よろしく」
「はぁー!? なんで、いやわたし最強装備作るんだけど」
最強装備という言葉が持つ魔力に完全に執り憑かれたわたしは、音楽家へどうにか【アルミナル】経由で、とお願いするも、クイーンクエスト───女王から直接下る依頼 は報酬が旨い分、最優先で攻略する事が暗黙のルール。忙しく無理な場合は断る事も可能だが、受けた場合は最優先クエストとなるので、わたしの願いは「無理」の一言で粉砕される。
なんだってこんな大事な時にセッカはわたしを呼ぶんだ....と、肩を落とし歩いていると【雨の街 アイレイン】へ到着。剣士が門を開け、わたし達は中へ進む。
「それじゃ、私とだっぷーさんカイトさんは雨具屋へいくね。ダプネと....その子はどうするの?」
ルービッドは視線をわたしの頭の上、帽子へと流し言った。その子 とは帽子に今もしがみついているのは【霧棘竜 ピョンジャ ピョツジャ】だ。わたしも今の今まで存在を忘れ、街まで入れてしまったが....このチビっこいのはモンスターであるドラゴン。モンスター相手だというのに結界マテリアが働かないのはなぜだ?
「結界が反応しないって事はテイミングしたって事か? でもエミリオにテイマーのセンスあるとは思えないしな....」
「フェアリーパンプキンのフェンリルと同じ現象じゃないか? エミリオになついてるし、問題無さそうだけどな」
ジュジュ、アクロスがチビ竜を観察するように見て呟く。確かにワタポはテイマーではないし、クゥはチビ竜と同じSSランクのモンスター。何がどうなっているのか、全然わからないが....問題なさそうだし、放置だ。
「このチビっこいのは放置でいいだろ。飛べるし飽きたら帰るだろ。ダプネはわたしと来いよな」
もう馬車なんて乗ってられない。サクッとバリアリバルまで帰り、セッカに会い、サクッと用事を済ませて武器生産だ。
「やる事ないし、いいよ。どうせ空間繋げとか言うんだろ?」
「さすが相棒、話が早いぜ」
鳴りもしない指をパスッとスカし、ルービッドとのパーティを解散。ラピナによろしく、と伝え、わたし達は別れた。
「何の用事か知らないけど、サクッとセッカんトコまで行こうぜ。ダプネ、街中に空間繋いじゃってよ」
「はいはい」
虹色の空間がクチを開き、わたし、ダプネ、音楽家ユカ、アクロス、ジュジュはウンディーの首都【バリアリバル】まで移動した。
ふわりとした浮遊感が一瞬身体を包み、すぐに足は地面へ。
「おっとと....あ? 雨?」
バリアリバルへ着地すると、雨粒がわたしを軽く叩く。アイレインの雨空とは違い、こちらの雨は重い雲から───
「───ダプネ! あの雲!」
空を覆う、街を覆うように浮かぶ分厚い雲を見上げ、わたしは声を荒立てた。
「紫色の雲......これは、ギフトレーゲン! 魔女の魔術だ!」
ダプネの言葉にわたしは舌打ちするも、何がどうなっているのか....そんなフリーズに近い思考の中で、アクロスの声が響く。
「エミリオはユニオンへ! 俺達は街の様子を見てから行く!」
「───わかった! いくぞダプネ!」
「わたしもかよ!?」
謎の雨が降り落ちるバリアリバルをわたしとダプネ、ピョンジャピョツジャはユニオンを目指し、アクロスとジュジュ、音楽家は街の様子と冒険者ではない民間人の様子を見に街中へと足を急がせた。
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