◆181
凄まじい勢いで幻想ウルフを掃除する冒険者達。湧いても湧いても焦る事なく、一体ではなく複数体を一回に掃除出来るよう、まとまるように動き、タイミングを見極め剣術を発動するスキルを見て、わたしは漠然と、まだ先がる。と術式内で思った。
S-S1の冒険者になったとはいえ、わたしの実力はまだまだ下。ルービッドとランクこそ同じだが、冒険者としての中身は全てにおいてルービッドが上。
まだまだ、まだ、先がある。
わたしはウズウズとする好奇心を押さえる事が出来なくなり、術式を破壊し外へ。
「わたしも混ぜろよ! いくぜチビドラ!」
「ピェ!?」
帽子から未だ離れないドラゴン───ピョンジャ ピョツジャ へ戦闘乱入を告げ、わたしは魔術を発動させた。巨大な火球が霧を焼き爆発する広範囲魔術がジュジュのすぐ近くで爆発する。
「おっ、エミリオも参加か!」
近くで爆発した火球に全く動じる事なく、カタナを振りウルフを斬り捨てる和風防具のジュジュだったが、ニッと笑いフォンを手早く操作し武器を変えた。槍....にしては先端の刃物感が強い武器。
「お、それが噂の薙刀か!?」
アクロスがジュジュの新武器と思われる武器を見た隙を狙い、ウルフが背後から飛びかかるも、長剣の餌食に。よく考えてみればアクロスも以前は大剣タイプを使っていたハズだが、今は長剣を自在に操っている。
「フロー動かないでねえ!」
と言う声はだっぷー。しかしその声はすぐに渇いた破裂音に消される。パン、パン、と二回鳴り響くとわたしの背後でウルフが高い声を短く出し倒れる。ジュジュとアクロスの武器が気になり、わたしの周りにもウルフがいるという事を完全に忘れていた。しかしだっぷーは離れた位置から的確な射撃でウルフを撃破してくれた。
「助かったー! だっぷーありがと!」
と言いつつ、だっぷーの方を見ずウルフの死体を見ていると、ウルフは左右に広がるように....まるで上級風魔術の失敗時に見られる “形を保てなくなった風” のように消えた。
「..........なんだ今の」
まるで風魔術だ。
幻想、幻影、幻惑といった魔術ならば薄くなり消えるか、煙のように消える。水や地ならば崩れ、火や風ならば今のように左右にその属性が持つ色が薄く広がり消える。火ならば赤く風ならば緑。この霧の中で薄緑は正直見えない。それに、ウルフも薄い緑色と言えなくもない。
「.....チッ、エミリオ! 後ろ!」
舌打ちと共にわたしへ声をかけたのはダプネ。何も舌打ちする事ないだろ! と思ったが5体ものウルフが一斉にわたしへ飛び掛かってきているではないか。
近くにいるダプネもウルフの相手で手一杯、しかしわたしは天才魔女だ。天才的高速省略詠唱で消し飛ばしてやろう。と思ったが、わたしの横を風の如く走り抜けた別のウルフが謎の体術で5体の幻ウルフを文字通り蹴散らした。
「おー! だっぷーの犬やるやん。助かったぜ!」
「その言い方はやめとけエミリオ」
わたしをサラリと注意し、ダプネは地属性魔剣術でウルフを攻撃した。風属性は例外もあるが、基本地属性に弱い。
霧、空気中の水分が多い場所での地属性は威力が低下する場合もあるが、ダプネの地属性剣術に威力低下の雰囲気はない。
そしてダプネも、わたしとほぼ同じタイミングで、このウルフが風属性である事に気付き、地属性を使ったのだろう。
属性がハッキリしたのならば、幻想を消すのは簡単だ。
「音楽家!」
「hey! 久しぶり!」
短剣よりも長く剣よりも短いタイプの剣を二本、自在に操りウルフを斬り刻む、音楽家ユカは緊張感のない声で挨拶混じりの応答をした。
「全員音楽家の近くへ寄って、わたしの魔術を合図に音壁して! ダプネは上に空間繋いで!」
「ok、任せろ!」
「うえ!? ....どうなっても知らないぞ!」
2人の返事を聞き、わたしは停止し詠唱し、蒼狼カイトを見る。するとカイトは頷き、わたしへ迫り来る狼の相手を引き受けてくれた。
本来よりも多く、濃く魔力を混ぜ込めて詠唱した魔術。発動前にダプネの方を見て、わたしが頷くと一歩前の地面に空間の入り口が展開される。
頭の上にいるドラゴンを指でつつき、音楽家の近くに行くよう指先で伝えるも、ドラゴンは頭を左右に揺らしギュっと帽子を掴む。どうやら離れる気はないらしい。まぁ小さくてもドラゴン、ヤバイと思ったら自分でどうにかするだろう。わたしは帽子を被り直し、空間魔法へ落ちる。
地面から上、空へ繋いだ空間魔法なので浮いているのか落ちているのか、ハッキリしない感覚の中をわたしとドラゴンは進んでいると....
───!?
「ピョ!?」
肌を突き刺す濃い魔力を一瞬、本当に一瞬だが、ハッキリと感じた。今のは───と脳を回転させようとするも、すぐに出口、上空へとわたし達は吐き出される。考えるのは後でいい、今はとにかく幻想ウルフを消す事が最優先。
ディアを使い、詠唱し終えていた魔術、上級炎属性魔術を二発同時に発動させる。
真紅の大型魔方陣が上空に2つ展開された瞬間、音楽家は
「───消し飛ばすぜ!」
わたしは気合いの声を出し、炎の巨槍を地面目掛け一気に落下させた。魔方陣を纏うような巨槍は轟音と熱風を撒き散らし、地面へ突き刺さる。直後、一気に爆発し辺り一面は炎に包まれる超攻撃型の広範囲魔術【デモンズ コロナ】はわたしが大昔に産み出した炎属性上級魔術。久しぶりに使ってみて思ったが.....幼いわたしは何を焼き消したかったのか....呆れるほど攻撃的で、広範囲の魔術だ。炎の巨槍は地面に深く突き刺さり、炎のドームを創るように爆発。焼き消し飛ばすエグい仕様だ。
「.....ちょっとまて、これヤバイ!」
ゆっくりと範囲を広げる炎のドームは高温で周囲を焼きつつ、未だに範囲を広げている。そこへ落下中のわたし。
「サクッと消える魔術にすればよかった! どんだけ相手を焼きたかったんだよ! 子供のわたしは!」
二発は多すぎたか!? と思ったが、そんな事思っても今更だ。爆炎の中にいる音楽家やダプネはわたしの姿が見えないだろう。つまり助けはない。ならば───自分で空間魔法を使うまでだ。るー、だっぷー と炎犬を倒しに行った時やったように、空間を開き、入る瞬間に出口を展開する。
「───まぁ、こうなるわな」
わたしの空間魔法は広範囲移動は不可能なうえに、距離が短い。発動し入る事は出来たが出口が少しうえにしか設置できないレベル。つまり、また落下する。
「こうなったらエンドレス移動だ!」
炎のドームが消えるまで数分。その間、何度も空間移動を続けていれば何とかなるだろう! と、自分でも無茶苦茶な考えだと思うほど、呆れた方法しか思い付かない。
「ピィ! ピジャ!」
突然ちびドラゴンがわたしの頭を連打し、命綱である空間魔法の詠唱を阻止しようと暴れ始める。最悪のタイミングで暴れるドラゴンを必死に止めつつ、詠唱を続けていると、身体がフワリと浮く....いや打ち上げられるような感覚。その感覚は徐々にハッキリとしたものとなり、身体がうえへと。
わたしは両手でドラゴンを掴み詠唱阻止を阻止しようとしていた。そのわたしの腕───指先をドラゴンが、小さな爪を立て、確りと掴んでいる。
「───.....お前」
ドラゴンが頭の上から離れている事に気付き振り向くと、身体に全く合わないサイズの大きな翼を広げ、力いっぱい霧空を扇いでいた。
詠唱阻止ではなく、任せろ、と伝えたかったのか。
「やるな....任せたぜ?」
「ピジャ!」
ドラゴン【ピョンジャ ピョツジャ】は小さな身体で大きな翼を操り、わたしを高く、高く空へと。
「うっげぇー、高すぎないか!? こえー」
と、声を出すも、わたしは少し楽しい気持ちになっていた。
霧がなかったらアイレインの街が小さく見えただろう。そう思えるほど高く、どこか気持ちいい、霧空だった。
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