◆108





魔女は1年で中身が5歳成長する。見た目は1歳でも中身は5才、2歳ならば10歳。

見た目は他の種族と変わらず、1歳ならば赤ん坊と変わらないが、知能知識は他の種族の5歳とは比べ物にならない程高い。

他の種族と違う点は脳だけではなく、身体の作りもだ。

生まれて1年...5歳で言葉は完璧。早い者ならば魔術も覚え始める。歩く事も出来る。他種族の5歳と変わらない食事も生まれて1年で出来る。


エミリオの場合は元となる魔女が偉大な魔女だったため、魔力や魔術の知識吸収が同年代の魔女とは比べ物にならない程高いく、2年...10歳になる頃には上級魔術も覚え始めた。


3燃、15歳の時に使魔を殺され、エミリオはその魔女だけではなく、止めに入った魔女達も殺し、ヴァルプルギスから出られない様に魔術をかけられる。


4年、20歳の時にヴァルプルギスにある魔術書を読み漁り、上級魔術だけではなく禁術、それで止まらず自ら魔術を作り始める。

魔女達から見ても危険な存在になり、5年、25歳の時に人間界に投げ落とされる事に。


大魔女である叔母はエミリオの母親や他の魔女達には「危険すぎるから別の世界へ」と言ったが、この年齢でここまで魔術を操れるならば “人間らしい魔女” になれるかも知れない。と踏み、人間界に送った。


魔女は魔術能力は高く生まれた瞬間から魔術に触れ、生きている間は探求し続けている。そのせいか、生き物として必要な常識的な知識が大幅に欠けている。


魔女年齢5歳で数千歳の魔女を越える魔力量と魔力の細かい扱い、魔術を覚えたエミリオなら人間らしい知識や感情を持ち、殺伐とした魔女界を変えてくれるのではないか。と大魔女は...。


しかし魔女達に危険な存在と言ってしまった事により、魔女達はエミリオを排除すべき存在と認識。

多くの魔女から攻撃魔術や酷い言葉を受け、エミリオは人間界へ落ちた。


昔使魔を殺された事、同族である魔女達が自分を攻撃し、自分を弾いた事。エミリオは魔女達を怨み、人間界へ。


エミリオが魔女界から消えた後、魔女達はエミリオを追い殺すべきだと言うも、母親は魔女達を止めた。



母の愛情、ではなく、魔女の欲。

母親のエンジェリアは魔女界でも最強ランク強さと権力を持つ魔女。大魔女が魔女のトップ、そのすぐ下にエンジェリア。


エンジェリアは長年、悪魔や天使を黙らせ従わせる事が出来る程の力を求めていた。


エミリオは魔女を怨み人間界へ消えた。過去に使魔を殺された怒りで魔女を複数名殺した。ならば憎い魔女達を殺そうと思うだろう。


母親はそう思い、人間界にある黄金の魔結晶をエミリオが求め手に入れると疑わなかった。


殺すのはエミリオが黄金の魔結晶を手に入れてから。


エンジェリアは1人、虎視眈々とその瞬間を待ち、魔女達にはまだ殺すなと命令した。



どの種族も逆らえない程の力を、魔女を最強の種族にし、同族も逆らえない程の力を持ち、その頂点に立つ為に。





「魔女の為に、母親の為に働きなさい。エミリオ」






騒がしい昼食後はすぐに修復作業が開始された。

昼食をタダ食いしたわたしは修復を手伝えと言われた場合、全力で断るつもりだったが...「頼むから手を出さないで」と言われるとは思わなかった。芸術的センスならばアルミナルの住人にも負けないつもりだが、手を出すなと言われた以上は従うのがルールと言うものだ。


修復作業や怪我人の治療でワタポに声がかけられたが、その前にわたしが話をさせてもらう事に。


「ハロルドはなんて?」


「関係ない。って...」


やっぱりそう言うか...。

妖精エルフについて詳しく知っているワケでもないわたしだが、半妖精ハーフエルフが嫌われ者だという事は知っている。ハロルド...フェアリーパンプキンのマスターひぃたろは半妖精。

今までハロルドのクチから妖精の話が出た事はほぼない。

嫌な思い出があるのか、単純に嫌いなのか...

嫌な思い出があるならば、今さら妖精達がどうなろうと知った事ではない。と言う気持ちもわからなくもない。


しかし無視できないのも事実。ハロルドが妖精にノータッチだったとしても、わたしはレッドキャップをスルーする事は出来ない。


「んじゃ、わたしがエルフんトコ行ってアイツ等を止める」


「え!?いくら何でも無茶だと思うよ」


「うん、無茶だけど無理してでも止めなきゃ。血を集めた所で何の意味もない。だから別に止めなくてもいいって感じの考え方はもう止めたんだ」


エルフがどこまで強い種族なのかは知らない。レッドキャップより強いかも知れない。それでも、放置出来る問題じゃない。エルフがレッドキャップを止めてくれるならそれはいい。しかしレッドキャップが次に現れるであろう場所を知ってて、最悪誰かが死ぬかも知れない状況を無視し流れに任せるのは、それこそわたしが嫌いな魔女と変わらない。


「エミちゃ...うん、そうだよね!...でもごめんエミちゃ、ワタシ闘技大会の時フェアリーパンプキンに入れてもらったんだ。ギルドの調和を乱す様な行動は出来ない...一緒には行けないかも、、」


「へぇー、ギルド入ったんだ!わたしの事は大丈夫だから、ハロプーと足並み揃えて、今やるべき事をやりなよ」


ワタポがハロプーのギルドに入っていたのは知らなかった。ギルドに入ったという事は今までみたいに好き勝手動けるワケではない。もちろんフェアリーパンプキンはギルドメンバーを縛り付ける様なギルドではないが、マスターが状況を知ったうえで動かないならば、ギルドメンバーが勝手に動くワケにはいかない。


「...んし、まずは妖精の情報集めか、わたしキューレんトコ行ってくる!ワタポも何か情報ゲットしたら教えてねー!」


わたしはワタポと別れ、キューレへ[妖精の情報が欲しい]とメッセージを送った。すると[了解、一階層の大通付近にある広場に居る@90]と返事が届いた。メッセージ通りわたしは一階層の大通付近にある広場へ向かうと@90ことキューレがベンチを独占するかの様に寝ていた。


「早かったのぉ」


キューレは身体を起こし、言葉と一緒にオレンジジュースのビンをわたしへ投げ、ニッと笑う。

キューレのオゴリ...これは何かある。


「早く情報欲しいからね...、コレの対価は何?」


オレンジジュースをありがたく頂き、栓を抜き対価...何の情報が欲しいのか聞く。

先にそっちを済ませてから、ゆっくりエルフの情報を仕入れたいが、キューレのニッと笑う顔...あれは少々厄介な時に見せる笑顔だ。


「ウチが欲しいのはのぉ...お前さん、魔女の情報じゃ」


「なんで魔女の情報?誰かに依頼されたの?」


「お?知りたいかのぉ?」


「...んや、いいや」


これ以上踏み込むと “ なぜ自分が魔女の情報を集めているか ” の情報を売り付けてくる。売られた状態イコール商品になった時点でで断ると、二度と聞き出せなくなる。もちろん商品として買えばいいのだが、一度断った情報をやっぱり買いたい!と言えば平気で値段を上げてくる。それが@90のやりクチだ。


「わたしの用件より先にキューレの用件、魔女についての方を終わらせよ」


面倒そうな色を持つ声音を出し、ベンチへ座りオレンジジュースを少し飲んだ。薄く水っぽさが無い、濃いオレンジの味は...結構高いオレンジジュースだ。この女、わたしの好みを知り、それを渡したうえで情報尋問する作戦か。


「そかそか、それじゃ遠慮なく質問...する前に、コレ装備せい」


そう言い渡してきた装備は革製のローブマント。フード付きではないタイプも持っていたとは知らなかったが、質素でダサいマントだ。普段装備せずフォンポーチにブチ込んでる事からキューレもこのデザインに不満があるのだろう。ジジ言葉を使うフードローブの情報屋、としてキューレの存在は固定されているし。


ローブマントを受け取り、わたしは言った。


「コレなに?ダサいんだけど」


「馬鹿者!それはお前さんにはいい装備じゃぞ。お天道様が顔を出しとる時 限定じゃが、ハイド率を底上げしとくれるマントじゃ。冒険者の存在は今この街じゃ名物化しとる。店に入っても隠れきれんからのぉ」


「なるほど。それでこの場にハイディングして会話しようって事ね」


「そじゃ。リビールされん限り会話は出来るし、大声出さん限りハイディングは消えん」


街でのハイディングは非常識な行為だが、キューレの言う通り、今のドメイライトには冒険者が沢山いる。ドメイライトに住んでいれば騎士は毎日見かけるが、冒険者は珍しい存在。無駄に見に来る人達もいて落ち着けないので、みんな二階層に停泊している。

と言っても二階層で情報のやり取りは冒険者達に聞かれる恐れもあるし、キューレにとって情報は商品で財産。

ここは黙ってハイディング作戦に乗ろう。


質素なローブマントを装備し、ゆりぽよから教わったハイディングテクを使ってみると、キューレは「よいよい」と呟き頷く。

ハイド直前までお互い相手をを見て、会話していたのでお互いにハイディングは通じない。


「街の音があるから、大声出さん限り大丈夫じゃろ」


キューレはフォンと大型フォン...タブレを取り出し、早速質問を投げ込んでくる。


「早速じゃが...魔女界って何処にあるんじゃ?」


「外側の大陸」


嘘を付く事も、誤魔化す事もせず、わたしはキューレへ答える。情報を商品にするキューレだが、売っていい情報と売るべきではない情報の区別は出来る人間だ。

魔女の事を話しても大丈夫だと思うし、何よりわたしがキューレを信頼...と言えばそうなるのかわからないが、情報屋としてではなく、キューレという人間が好きだ。


「外側...昔悪魔は外来種じゃと聞いた事あったがのぉ...アレは本当と言うことかのぉ?」


「外側って言っても、本当にこの地界...人間界を覆う様にあるワケじゃないよ。なんて言うのかな...別の世界って言い方がピッタリかも。歩いても飛んでも行けない。けど本当に存在する大陸、世界」


「ほぉ、人間界の事を地界と言うんか」


「うん、人間界は地界ちかい。そんで魔女とか悪魔とかが住む大陸は外界がいかい、そして天界てんかいがある。外界から天界へ行くには天門を登れば行けるけど...行こうと思う人はまずいない」


わたしの言葉を聞き終えると、キューレは空っぽになったオレンジジュースのビンへ指を入れ、ポンっと心地好い音を鳴らし言った。


「そかそか、詳しい話はまた今度聞くとするかのぉ。次の質問じゃ」


キューレは次の質問をする前に色々なクッキーが入っている紙袋をくれた。オレンジジュースは外界の対価、クッキーは次の質問の対価か....量的に次の質問とやらが本命か?


「お前さんは何歳じゃ?」


「え、歳!?そんなの聞いてどーすんの?」


まさかの質問に驚き、質問で返してしまった。普段のキューレならここで、質問の答えを情報として売りつけようとしてくるが、あっさり無料で答えてくれた。


「20歳でその魔術とディアの知識はオカシイと思っとってのぉ。魔女だからと言われれば納得せざるを得ないがのぉ...その魔女だから、の理由の1つが年齢じゃないのぉ とな?」


さすが情報を商品にしているだけの事はある。普通なら魔女だからで納得し、流す部分も溢さず拾い集めていたとは。


「正解だよ。魔女の年齢ってめっさ面倒なんだよね、あって無い様なモンだし。5歳で地界に飛ばされて、そこで15年生きたから人間的年齢なら20歳。でも魔女年齢で答えるなら今のわたしは...1000歳かな?ちょい待ってね」


説明してもいいが、何度も聞かれると面倒なので文、文字としてキューレに教える事にし、メッセージを作りキューレへ送信した。


「ほぉ、こりゃー助かるのぉ!なるほどのぉ...1000歳じゃが常識が無いのはそれこそ魔女だから、じゃの」


魔女の年齢や魔女の事を打ち込んだメッセージを読み、キューレは捻る事なく、魔女は常識ない。と言葉の暴力を炸裂させてくれた。

しかし、本当に魔女は地界で言うところの常識は無い。


無駄に魔術を使ってはいけない。

ムカついても攻撃してはいけない。

人を簡単に殺してはいけない。


これらの常識は魔女からすれば、窮屈で息苦しい鎖。

しかし地界...人間界では守るべきルールや従うべき規則などのレベルではなく、日常的で当たり前の事。

これらの事にルールだの規則だの言ったり思ったりする方が、異常者扱いになる。


「...歳の話はおっけ?」


もらったクッキーを1つかじり、わたしは次の質問を求める様に言った。

粉っぽさがない、ほどよい甘さのクッキー...これも中々のレアリティを持つクッキーだ。

紙袋を見ているとキューレが紙袋の裏を指で突つき、ニッと笑った。わたしは覗く様に紙袋の裏を見て、吹き出しそうになるのを堪えた。


紙袋の裏側には赤色でチェスのキングとクイーンをクロスさせたマークが描かれている。

これは...王族御用達のアイテムに描かれているマーク。

このクッキーは王族が食べる高級品と言う事だ。


「さてさてー、どんどん行ぞエミリオ」



人間の姿をした、悪魔よりヤバイ女が「ニシシシ」と歯を鳴らす様に笑い、魔女への質問が終わる頃、遠くの空はうっすら夕方色に染まっていた。


妖精の情報は夜にまた、と言う事になり、わたしは一旦キューレと別れた。



キューレに教えた情報は、外界の存在、魔女の年齢、魔女と悪魔はディアを絶対持っている事、そしてわたしの魔力は他の魔女達より圧倒的に濃く多くという事。


詳しい所まで聞き込んで来なかった事から、誰かに依頼されたワケではなく、個人的に知りたかっただけだろう。



聞き込んでしまったお礼に、と1つだけ情報をくれた。

キューレが言うには「ウチも聞いただけの情報でのぉ、内容的にもアホ臭くて...面白がって作った雑なガセ情報じゃろ」と言ったが...。




黒髪黒眼の女と、左手に縄状の妙な模様を持つ少女...。


黒髪の女は、緑髪で赤眼の女剣士を探している。

縄状の模様を持つ少女は、青髪で緑眼の女剣士を探している。


黒髪の女は視点を合わせた部分に魔法陣を展開させ、詠唱なしで魔術を発動させる。


少女は左手の縄模様がムカデに変化する。


モンスターではなく、人間がそんな事...馬鹿げた話だ。

キューレはそう思っただろう。



しかし、この情報と一致する存在を、わたしは知っている。



「....ッ、地界まで何しに来たんだよ」



左手首に装備している...魔女界から追放される時、無理矢理装備された魔力の質を変化させ、魔力量、魔術威力を極端に抑え込むマテリアが埋められたブレスレットをグッと握り、無意識に舌打ちしていた。






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