◆97







イフリー大陸の首都デザリアで行われた闘技大会。

世界中から年齢も性別も種族と別々な冒険者達が集まり、数年ぶりの闘技大会を大いに盛り上げる為、または自分の実力と存在を世界へアピールする為に集まった。


わたしエミリオも参加者の1人で、人間のキューレ、猫人族のるーとチームを組み優勝を狙っていたが、闘技大会1日目も終わらない内にわたしは闘技大会どころではなくなった。


ハロルド、ワタポ、プーのチーム フェアリーパンプキン+の試合が終わり、再会の挨拶へ向かったわたしは世界最悪の犯罪ギルド レッドキャップに拉致される形になり、デザリアの地中深くに眠っていた謎の宮殿で、レッドキャップと対峙した。


魔女であるわたしの魂を狙っているレッドキャップは魔女に悪魔をぶつける作戦で魂を奪いに来た。わたしも黙って殺される気はなく戦闘するも、敗北。

戦闘中に細工をし、猫人族のるーがわたしの居場所を感知し、乱入。

命は助かった。


戦闘時、魔女の魔力を使った事でデザリアに居る者達は魔女の存在を嫌でも感知し、レッドキャップと魔女が同時に現れた事で闘技大会は中断。不安な空気がデザリアを包んだ。


るーやみんなが助けてくれたのでわたしは何とか生き延びる事が出来た。戻す事が出来なくなった魔女の魔力はホムンクルス捕獲のビンに入る事で、外に溢れない様にしていたが、この魔力に対してなのか、単純にわたしの行動に対しなのか、ワタポが怒り、その言葉にわたしも怒り、喧嘩してしまった。

まだ何も解決していない状況でレッドキャップが、地下では感じなかった恐ろしく鋭い雰囲気を纏い、再び現れ魔女入りのビンを奪い空間魔法で姿を消した。


そう。今わたしをレッドキャップのメンバー、ベルとスウィルが運んでいる所だ。

行き先は解らない。


空間魔法を使った移動で、ここまで空間移動時間が長いという事は相当遠くへ、そして術者は相当空間魔法に優れた者だろうか。


数十秒の空間移動を終え辿り着いた場所。

ビンの中から見る外の世界。

そこはわたしの知る場所で、わたしの記憶に焼き付いた場所。


ボロボロに死んだ村。

奥にはボロボロになっても朽ちる事なく村を見守る教会がある。


ここはわたしが初めてレッドキャップを見て、初めてキューレと会って、初めて人間を殺そうと思った場所。

ノムー大陸のポルアー村から近い...廃村。



ベルとスウィルは迷う事なくこの廃村を進み、教会の中へ。


少し進み聖堂の扉を軋ませると、予想通りレッドキャップのメンバーが居た。

予想できて、予想していたが...明らかに地下で会った時とは雰囲気が違う。


いつものフードローブではなくメンバーが個人的に用意した装備...恐らくこの装備がレッドキャップメンバーのメイン装備だろうか。

武具にそこまで詳しくないわたしでも、それが高レベル武具だと解る。



メンバーがビン詰めのわたしを見て何かを話し、グレーのツインテールが不気味に笑い魔術を唱える。


黒紫のゴスロリ ドレスにグレーのツインテール。一瞬誰なのか解らなかったが、不気味に歪み笑うあの顔とオッドアイはアイツだ。


詠唱を終え何らかの魔術をわたしへ...正確にはわたしが今入っているビンへ使った。

一瞬ビンに魔術の光が宿り、閉ざされていた空間に音が届く。


「いい、姿、ね。魔女」


「リリス...こっち見んな」


ホムンクルスを捕獲した後に会話をする際に使う補助系魔術。

名前は...なんだか、こんだか。

壁越しでも会話できる様にその壁へ魔術をかけ、声や音だけを通せる様にする下級魔術だ。

このビンは特殊な作りで、そういった下級魔術はビンの内側では発動しない。魔術を使いホムンクルスがビンを破壊しない様に作られているから当然だが、所詮はホムンクルス。魔女の魔術力ならば簡単に破壊できる。

が、今破壊して脱走した所でミニマムエミリオでは何も出来ない。


ゴスロリが妙に似合うヤンデレっぽい雰囲気の死体人形使いリリスへ一言いい、とりあえず外と会話できる様になっただけでも良しとしよう。


正直、今ここで殺される事になるのならば、わたしは左手首に装備しているマテリアを外すだろう。

それで命が助かるかは、解らない。でも黙って終わりを待つ気は多分これから先もないだろう。


「やるならやってやる。って顔だな」


首の無い天使の様な像に腰かけていた髪も装備も黒い、青眼のゴキブリがわたしを見て言った。

こいつはレッドキャップのリーダー、パドロック。


地下で会った時はダサいローブ姿だったが、それがお前のガチ装備か...黒とかダッセ。


「そんなんどうでもいいから、そろそろ目的言えよ。コソコソしてみんなをかき混ぜて、ウゼーっての」


コソコソして世界を混ぜて、ウザい。それは本気で思ってる。目的なんて正直興味ないが言うか言わないかでパドロックは焦らす様に迷う。

その隙にわたしはブレスレットを一瞬で外せる様にした。


「エミリオ。状況見て、よく考えて発言して。殺すよ?」


わたしの言葉のヘイトが悪魔ナナミのターゲットを取った。魔女に黒紫の刀身を持つカタナを抜く。


「お前がわたしをサクっと討伐してりゃこんな面倒な事にならなかったんじゃないの?無能なメンバーを持って大変だねリーダー」


挑発で更にヘイトを稼ぐも、ナナミは動かない。

この辺りで一発斬り掛かってくる計算だったがハズレた。

誰かが一度このビンを攻撃してくれればビンの強度を知る事ができ、どのレベルの魔術で破壊出来るのか大体わかるが...リーダーの命令が無い今は動かない か。


「魔女や悪魔、天使...他にも色々種族がある」


突然話を始めたパドロックだが、ここは下手にクチ出しせず様子を見る事に。


「その中で人間は弱い種族になる。それをあっさり受け入れて他の種族に頭を下げて関係を求める...戦争になれば一番最初に消されるのが人間だ。何故だと思う?」


「弱い種族だから?」


わたしはそう答えた。

でも、何か変だ。弱い種族ならば消す必要はない。そこで時間を使うよりも邪魔な種族を消した方が効率はよくなり無駄もなくなる。


これを考えると...人間は邪魔な種族になるのか?


「そう、それだ。人間は他種族から見ると弱いが圧倒的に邪魔だ。力も弱く、体力も高くない、知能も技量もずば抜けて高い訳じゃない。でも、欲はどの種族よりも多く汚い」


コイツ...何言ってるんだ?

自分も人間だろ...自分の種族をボロクソ言い始めたし、頭イカレてるのか?

今の言い方だと、自分達も欲まみれで汚い。と言っている様なもんじゃん。


「そう言う事だ。俺達は正直になる事にした。平等だの平和だの、そんな綺麗な言葉で汚い内面を隠すゴミに呆れた。人間のトップ達は自分達が可愛い。他はどうでもいいと思ってる。黄金魔結晶を持って、全種族の頂点に立とうとしてるんだよ。そうなったらどんな世界になる?」


「意味わからんて。もっと簡単に言ってや」


「黄金の魔結晶を使えば魔女だろうが悪魔だろうが、雑魚になる。それを手に入れて俺達が頂点になって、世界を変えてやるよ。不平等でいいんだ。お互いの足りない部分を助け合えばいい。そんな簡単な事に気付けない人間もお前等 魔女も邪魔なんだよ」



...コイツ悪い奴なのか?

やり方は最悪すぎるけど、みんなの事考えてるじゃん。

何なんだよ...もっと「世界は俺様の物だ!ひゃっは!」とかそんなノリの方がよかったわ。


「...クチでは平等と言って、上下を決めたがる奴や、優れた知識や技術を独占している奴等を消して、どの種族も助け合える世界を作ってやる。だからその魂を今後の世界に賭けてくれないか?」



他の種族の事は知らない。

でも魔女は...魔術の知識や技術を、見方を少し変えれば独占状態だ。人間や他種族も魔術を覚え使うが、そんなの魔女達が持つ魔術に比べれば一握りの一握りだ。


ロキが前に言ってた犯罪者反対!は今更だけど嘘だったって事か...まぁロキが犯罪者代表チームにいる訳だし、みんなを騙してユニオンに潜伏するにはそう言うわな。


しっかし...何だろう。

この変な気持ち。

やってる事は極悪ゴミカスだけど、理想と言うかそーゆーのは極悪とは思えない。

わたしも種族の壁を越えてワイワイ楽しくしたいって思ってるクチだし。


でも、死ぬのはヤだな普通に。


「ごめ、死ぬのは無理だわ。痛いのとかヤだし、まだ色々見たり知ったり食べたりしたいし」


「...そうか。それじゃあ俺達はお前の魂を奪う形になる。悪く思うなよ」


「うん。わたしも、はい!どーぞ!って魂差し出さないけど、そこは悪く思わないでね」



もっと別のやり方なら他の人間も他の種族も助けてくれたんじゃないのか?力ばっかり求めて...リリスの行動でプーは悲しんだ。それは必要な事だったのか?ただリリスが欲しいって欲で動いたんじゃないのか?


ロキが前に「いい結果が出ればそれは必要な悪」って言ってたけど...リリスのした事や猫人族にした事も必要悪で結果が出れば問題なし。で終われる事なのか?


くっそ、もう悪とか悪じゃないとか、わかんなくなってきた。


「魔女。これからお前の存在を人間達がどう思っているか見せてやる」


「は?」


「フィリグリー。騎士団が魔女を捕獲、公開処刑にしろ。ナナミ、リリーがビンにかけた魔術を消せ」


「は!?ちょ、何で騎士出てくんの!?公開処刑とか...何か格好いいけどもさ」


ここで悪魔ナナミがカタナの先でビンをつつき、バフが消滅した。

地下でわたしが最後に感じた事や今の事、ナナミがわたし...魔女を狩る様に言われていた事。


...こいつのディアは魔術を消すディアで間違いない。


地下で斬られた時、魔力を吸収されると言うか、斬り消される感覚がした。

武器の特殊効果エクストラスキルではなく、こいつのディアが武器に魔力や魔術を打ち消す効果を与えたのか?

特殊効果エクストラスキルでは魔女の魔力を消す事は出来ない. . .ディアならば可能性は無くもない。


面倒なヤツかよ。


そして、パドロック。あいつのディアは間違いなく、相手の...対象の考えを読み取れるディアだ。対象の条件は解らないが、わたしとの会話中にわたしが考えていた事に答えた。

今の対象はわたしか。


ならばさっきの考えも読まれているハズだ。

考えを読めるなら何故わたしの答えを待った?死ぬのは無理ッス。と思った瞬間にパドロックが次のステップへ進めばよかったのに、わざわざ返事を待った...。


心を読む。


...この力があれば相手の心を覗いて、揺らす事が出来るんじゃ?もし、もしパドロックが話した事が全部嘘なら?

そしてそれをメンバーが知らないとしたら?


心を読み取れれば、相手を揺らす事も出来る。共感させる事も、操る事も出来る。


あれが全部嘘話で、強そうなメンバーを集めた理由は金玉の発見と入手率を高める為。

みんなにはさっきみたいな事を言って共感させて...わたしにも魂を差し出させようとしたし、あり得るんじゃね?


ナナミやリリスがパドロックの命令をちゃんと聞く事にビックリしてたが、共感させて共通の目的を持たせて、導いている様な雰囲気を出せば、無理な事じゃないし...。


「...ん?」


粘りつく様な視線を感じてわたしは眼線を向けると、パドロックがこの考えを読み取り、ニヤリと笑った。


あの笑いは何なのか。

そんなの考える必要ない。


あの笑いは、わたしが今考えた事は正解です。の、嘘つきでズルいヤツが見せる笑い方だ。


直後パドロックはメンバーに指示を出し、ビンを受け取りメンバーは全員何処かへ消えた。


ハドロックは詠唱し、先程リリスが使った魔術を発動させわたしに言った。


「凄いな...初めてだよ。ここまで読まれたのは」


「お前だけがズルい生き物じゃないって事だ。てかやっぱり嘘かよ...お前の目的はなに?」


レッドキャップは確かに危険だ。でも、レッドキャップよりもコイツの方が危険度は上。


「目的なんて存在しないな...言うなら、暇だったから。だな」


コイツ...まぢで頭オカシイのか?暇で世界を混乱させたり、みんなを怖がらせたりってレベルじゃないぞ。

それに、今のは嘘じゃない気がした。


「今のは本当だな。暇で...強い奴と戦いたいだけだ。殺したいだけだ。最初は軽いPKをしていたけど物足りなくなってな...国や世界、別種族を相手にしたくなって、その為には切り札として黄金の魔結晶が欲しくて。あれは凄い。その気になればこの世界も、お前等魔女の世界も吹き飛ばせる兵器だ」


「兵器か、でも使い方を変えれば守る方にも使えるって聞いたけど...それって殺られる前に殺れ的な?」


「ある塔にマナを集めてそれを撃つ。起動させた時点でマナが集まり、撃たなければ貯まりに貯まったマナが爆発してその世界はほぼ消滅する」



なんかスゲー話になってきたな。武器素材にすれば相当ヤバイ武器になるって聞いたけど、それはあくまでも素材にした場合で本来の使い方じゃないって事か。

魔結晶を核に使った兵器...ね。すげーな。でもダサそう。

てか、コイツめっさ詳しいな。


「なぜこの世界に人間以外が住んでいると思う?魔女や悪魔、天使は各々の世界を持ちそこに住んでいるのに、なぜ妖精や猫人族...魅狐もお前の近くにいたな。そいつ等が人間の世界に住んでると思う?」


「ビンに入ってるからってホムンクルスだと思うなよ。そんな事しらねーよ」


「そいつ等は過去に魔結晶を使って自分達の世界以外を破壊しようとしたからだ。最初は魅狐だったか?次は妖精、次は猫人族、他の種族もそうだ魔結晶を使って他を破壊しようとして、同族がやめさせようとして貯まっていたマナがそいつ等の世界で爆発しちまった。生き残ったゴミが人間の世界に住み着き数を増やしてるって話だ。そして数百年前、やっと黄金の魔結晶が人間界に回ってきた。次は俺が使って成功させてやるよ」



起動させて放置してたら爆発、起動させるな言っても使いたがる奴は絶対現れる。堅すぎて壊せない系か...くっそみたいな魔結晶だな。

コイツはそれを使う為に知識を詰め込んで、過去に失敗した種族のデータから、周りにヤバ強の仲間を置いて邪魔しそうな奴を掃除させる作戦か。

そこで自分のディアが役に立つ。考えを読み取れれば操れるもんな。随分いいもん揃ってるなコイツ。



「で、なんでわたしが狙われてるワケ?お前が狙わなきゃ魔結晶の事も全然知らなかったし、止めようって思った時には遅かったパターンになってたかもじゃん?」


「魔女の魂、悪魔の心臓、竜の爪痕、妖精の浄血、そして他に魔結晶が複数個。これが黄金を使う時に必要なアイテムだ」



そう言えば猫人族の王猫が心臓だの魂だの言っていた...それがコレか。

なら必要な魔結晶は世界樹が死んで解けた封印術で現れるであろう塔に眠っている。

そしてその塔のどれか1つが兵器に変わるって事か。


この世界...人間界にいた魔女がたまたまわたしで狙われた。次は悪魔か?いや、悪魔は既に持ってる。竜の爪痕...妖精の浄血...。

妖精はエルフの血か。ハロルドはハーフなので浄血ではなく血、狙う対象ではなかった。

ならば竜は...竜騎士族か?プーは魅狐だし、モモカ。



「正解。だがリリーはモモカを持っていなくても誘っていただろうな。アイツの力は使える。さて、そろそろ話は終わりだ。死ぬ前に色々知れてよかったな魔女」



パドロックはわたしのビンにかかっている魔術をバフやデバフを打ち消すポーションを使い消した。


モモカを持っていなくても誘っていた...ならリリスが竜騎士族を襲ったのはレッドキャップの命令じゃなくリリスの意思。

わたしがここで殺されれば必要な素材アイテムを3つ入手した事になり、次はエルフを襲うか。


「くっそ、なんでビンに入ってんだよわたしは」


内側からビンを蹴るも、足が少し痛くなるだけで意味はない。

そこにドメイライト騎士の紋章を持つ装備に身を包む男が現れた。



おいおい、おいおいおいおい、ドメイライト騎士団長がレッドキャップのフィリグリーってまぢかよ...。


セッカの正義感が邪魔になりそうだからレッドキャップがセッカをハメて、騎士団長のコイツが王に何か上手く言って殺そうとしたのか。



「これは殺されてる場合じゃねーのな」



と、言ったものの何も出来ずわたしはホムンクルスモードでドメイライト騎士団本部へ連行される事になった。





初のドメイライト騎士団本部がビンの中からって...。





最悪だ。






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