-ドメイライト-

◆98




ノムー大陸。

ここからわたしの、魔女としてではなく人間...冒険者としてのわたしが始まった大陸。


言葉も文化も知らないまま、魔女界から落とされ着いた場所。

どこに居てもやる事は同じ。

気に入らなければ壊してしまえばいい。幼いわたしの思考は単純だった。

でも、ここは単純な世界ではなかった。


何の力も持たない人間を、力を持つ人間が善意なのかエゴなのか、進んで助け、力の無い弱い人間は感謝し、自分に出きる事をして恩を返していた。

意味が解らなかった。

弱い者と一緒に居て自分にプラスはない。弱い者を助けた所で、何の意味もない。

それなのに人間は強い弱いの差別なく助け合って生きていた。


知りたくなった。


この生物は何を見て何を望んで、何を希望に生きているのか。


この世界はどんな世界なのか。



魔術を貪り、試し、邪魔する者やわたしをイヤな気持ちにさせた者は全部壊して来た。


結果、魔女年齢5歳でワケのわからないこの世界に、魔女界から弾かれる様に落とされた、この世界を知りたくなった。



人間は生きて75歳だと知った。


この世界には人間以外にも沢山の種族や生き物がいる事も知った。


言葉も覚えた。



魔女のわたしよりも圧倒的に生きられる時間が少なくて、人間やこの世界にいる種族は魔女よりも身体の成長の速度が速いにも関わらず、生き急いでいる人間はごく僅かだった。


もっと知りたい。

もっと見たい。

もっと、もっと全部。


こうしてわたしはこの世界...人間界に興味を持ち、冒険者と呼ばれる者に興味を持ち、いつか自分も。と夢見た大陸。


その大陸1の街、皇都ドメイライトへ ...こんな形で戻る事になるとは。



イフリー大陸のデザリアで開催された闘技大会に出場するも、自分の存在をアピールする事も出来ず、犯罪ギルド レッドキャップに捕まり魔女の魔力を使った。

それにより、魔女がこの世界に存在する。と全員へ広まり、フレンド...友人達とも妙な空気、ほつれの様なモノを感じた。

そこに再び現れたレッドキャップにまたまた捕まり、わたしはレッドキャップのリーダー、パドロックの目的を知るも、何も出来ず。


ドメイライト騎士団が魔女を捕まえた事にし、世界にそれを発表して約3日。

ワケあって、わたしはホムンクルス捕獲用のビンの中。

ドメイライト騎士団本部に保管される様な扱いで3日が過ぎた。





ドメイライトは三階層に別れた街で一階は民間人...力ない者が暮らす街で一番範囲が広く、観光客も沢山訪れる。


二階層はドメイライト騎士団本部がある階層で、騎士達は民間人や世界の秩序とかいうよくわからないモノを守る為に日々鍛練や任務やらをしている。


三階層は貴族や王族が住む粘っこい空気の階層。城も三階層にあり一番範囲が狭い。とは言え城があって貴族達の家、貴族達の街がある。



今はわたしはドメイライト騎士団本部...つまり二階層目にいる。

想像では無駄に大きな本部があって、何か適当に修行出来そうな広場がある程度だと思っていたが、もっと広かった。

騎士団本部、騎士達が生活する建物、馬等を飼育するエリア、修行するエリア、そして犯罪者を黙らせる監獄と処刑場。


この二階層をもっと人々の為に使えば充分な街が作れる程の規模があった。


...まぁわたしがどう思っても意味のない事で、今わたしが考えなければならない事はどう逃げるか だ。


公開処刑という何か強者っぽい響きは悪くないが、殺されるのは悪すぎる。イヤだ。

人間達が魔女をどう思っているか教えてやる。って感じの事をパドロックは言っていたが、そんなの教えてもらわなくても解る。


魔女、魔術使う。

魔女、やばい。

魔女、怖い。ウザい。


とか、そーゆーノリだ。

そして公開処刑します発言の時にわたしのビン詰め写真も広まっただろう。ここでこう思う。


魔女、ちっさ....いやいや、こんな事考えている場合じゃない。とにかく脱走作戦を考えねば...。


もう何十回と見たフォンのアイテムポーチを懲りずに見る。

使えそうなモノはなく、わたしの武器もポーチにない事からデザリアにあるだろう。

無駄にベルトポーチのアイテムを補充したり、意味のない行動を繰り返していると木製の扉がガチャガチャと音立てる。


わたしが今居るのは監獄ではなく、騎士団本部。ビンに定番の魔術をかけられているので外部の音も聞き取れ、こちらの声も伝える事ができる。


薬草類、薬品や魔結晶の欠片、小さなマテリアも数個転がっていて魔女文字が書かれた紙切れがテーブルに散乱している部屋。

そして今あの扉からこの部屋に入ってくるであろう人物がこの部屋の主。


カチンッと鍵が解ける音を追う様に扉が開きデカ眼鏡を装備したデカ乳が入ってくる。


「ヤッホー、おとなしくしてたみたいだね」


たれ眼でマイペースそうな顔した、イカレ女。

ドメイライト騎士団 上層部隊 隊長の名前は確かシンディ。


「エミリオちゃんの言ってた街のレストランのバケットサンド買ってきたよー。だからそろそろ教えてよ」


また始まった。

コイツは騎士団長や王様の言うことを無視して自分の言葉をごり押しし、わたしを預かると言いこの部屋に連れてきた。上には「魔女から色々聞き出している」と言って処刑日を伸ばしてくれている。

これはありがたい事だが、コイツはただわたしから魔術の話を聞き出し、自分強化をしたいだけ。色々なんて聞かれてない。聞かれている事は...、


「ねぇ教えてよ、魔属性 魔術の事」


これだ。

魔術には属性があり、火を得意とする魔術師は水魔術が苦手、最悪の場合は下級水属性魔術も使えない。


魔女にもこれは通じていて、火属性を得意とする魔女は水属性が苦手、使えないワケではないが頑張っても中級ランクまでしか使えない。


魔女は全属性の魔術を使う事はできるが威力は得意不得意で変わる。 しかし魔属性 魔術を使える魔女は全属性魔術を完全に扱える素質がある。

勿論、その属性の反復...熟練度を上げなければ伸びないが、全ての属性が同じだけ伸びる壊れ性能持ち。

そして全ての属性に対して強く、悪魔や天使、ドラゴン等の強力な種族にも効果抜群の有能魔術が魔属性。


わたしもこの魔属性持ちだ。

しかしこの魔術は、


「教えれないってば!」


シンディへそう返事するも、意味はない。

何度も教えて教えてと言ってくるだけ。


しかし本当に教える事は出来ない。

魔女の中でもこの属性を持つ魔女は少なく、そして乱用する魔女はいない。

全属性の最上級魔術を同時に使うよりも、魔力が消費する。それが魔属性。

並みの魔女でも魔力が足りなくて発動出来ない。


わたしが教える事が出来、何らかの方法でコイツが魔属性魔術を発動できたとしよう。そうなればこの人間は脅威なんてレベルじゃない。

魔属性魔術は使えれば虫でも魔女も殺せるレベルの魔術。


悪魔や天使、ドラゴン等の種族よりも、魔女に対して絶大な効果を持つ。


魔属性持ちでも魔属性魔術の種類は1つしか持てず、残念ながらわたしはまだそれを形にしていないので、正確に言うと、魔属性持ちだが魔属性魔術はまだ完成していない。という事だ。

だから教える事は出来ない。


「そんな事言って処刑日を伸ばす作戦かなー?でも残念!お偉い様の方々はエミリオちゃんを殺したくて殺したくてモジモジしてるんだよね、だからあと2日で話してよ!じゃないと本当に首ちょんぱ!」


「まぢで?」


「うん、私も粘着しまくったけど...ダーメだったぁ~。残念!」


あと2日で何とかしないと本当に殺される.....そういえば闘技大会はどうなったんだろうか?今こんな事考えている時間も余裕もないが、気になってしまったらもう頭から離れない。わたしはシンディへ聞いてみる事にした。するとシンディはある雑誌の記事をわたしにも見える様に置き、バケットサンドを頬張る。

この雑誌は冒険者だけではなく騎士や民間人にも大人気の、不定期 クロニクル。

あのぐるぐるメガネが作っている雑誌。


その雑誌には[闘技大会 中断]の文字が大きく書かれ、その文の中に魔女や犯罪ギルドの文字が。

中断、か。

物事が途中で終わる事...みんな少なからず楽しみにしていた闘技大会は予想外の形で終わった...でもまぁ、大会中やばい感じになっていたら魔女力を使ってでも勝ちを選んでいたと思うし、今回の事でエミリオさんは魔女だよ!ってみんなが納得してくれたら、次回の闘技大会で魔術爆発の即優勝伝説も狙えるワケだ。


...それは無理か。


魔女である事を認めさせると言うか納得してもらうだけでも相当大変な事。そして今わたしは処刑対象。

先を夢見るのはいいが、眼の前の事を一番よく見なければ。


「ねぇエミリオちゃん。本当にお腹減らないの?」


バケットサンドを見せびらかす様に食べるシンディがわたしに質問してくる。


「まぢでお腹へんないし、ジュースとかもまだ欲しくない。コレすげーな」


コレ と言って自分の全身を見せる様に両手を軽く広げる。コレとは装備やアイテムではなく、今わたしにかかっているディア。

キューレが持つ、対象のサイズを変更させるディア。


プーのディアが暴走ビリビリになった時、キューレはこのディアでわたしを助けてくれた。そしてあの時キューレが何かをしてわたしのサイズを元通りにした....戻るにはあの情報屋に会うしかない、か。


サイズを変更するだけではなく、筋力等もそのサイズに合ったステータスになる。しかし魔力や魔術、知能やスピードは変わらない。若返りではなく一部ステータスの弱体化...デバフ。しかしキューレはこのサイズを変えるデバフをバフの様に使う。プーの攻撃からわたしを救ったり、恐らく自分が情報を集める時等も使うだろう。空腹感が来ないのはこのサイズになる前に食べたり飲んだりしてチャージされた分のままサイズが小さくなっているからだろうか。

このサイズで空腹感が発生するのは元のサイズで超ゲッソリ状態でミニマム化しなければならないっぽい。

って事は今わたしが元のサイズになれば恐ろしい空腹感に襲われる確率もあるのか?怖いな。


「ねぇそれは何の魔術?」


大きな眼鏡を拭き質問してくるがわたしは魔術ではない。とだけ答える。


「残念!魔術なら欲しかったのに!ブービートラップとか?」


「誰がまぬけだよ。でもそんなノリ」


「ふーん。魔女ってみんなエミリオちゃんみたいな感じじゃないでしょ?強い魔女もいればエミリオちゃんより弱い魔女もいるよね?」



なんだコイツ。

何を企んでいるのか知らないけど元のサイズならお前を一撃で黙らせれるぞ。

まぁ今それを言った所で何の意味も効果もないか。



「うん」


「それなら安心!弱い魔女捕まえて中身見るチャンスがまだあるって事だね!安心安心!」


「中身?なんの?」


「魔女の中身だよ~!特に頭の中とか?脳みその中!話してくれないなら直接脳みそを調べればいいだけだもんね!」


なるほど。

コイツは闇魔術もかじってる奴か。闇魔術には相手の脳みそ...と言うか相手の心に入り込んで色々と調べるデバフ魔術がある。確かにそれを使えば色々と知りたい情報を得る事は出来るが、相手が自分より弱い場合は心に居座れる。相手が自分より強い場合は一瞬だけ。

相手が瀕死状態で自分の魔力が最大値レベルまで残っている状態であれば効果は数秒。


一見有能っぽい魔術だがその魔術の使い方は情報収集ではなく、誘惑または幻想だ。

一瞬だけでも相手の心に話しかけ産まれた隙を自分以外の別の誰かが攻撃する。

術中は自分の意識は相手の中で相手の意識もその中に入るので別の誰かが攻撃しなければ意味はない。

今の会話でハッキリわかる。

この女は魔術を覚えて終わりだ。実際に使ってみて何が良くて何が悪いのか判断する所まで行っていない。


魔術も剣術もスキルも、そうやって自分に合うものを自分で見つけて、悪い点があるなら何かで補う形を自分で組まなければ...下手すりゃ死ぬぞ。

魔術、剣術、スキル、武具も情報は沢山あって他人から聞く事もできる。それだけ種類があり、それだけみんなが使うモノ。ただその情報を100の情報として記憶し、自分のスタイルを組まずテンプレでやれる程 甘くはない。


騎士にもアホがいて安心した。と心で呟いていると突然鐘の様な音が響く。


「なにこれ?」


わたしはビックリしつつ質問するとシンディはゆっくり口角を上げ言った。


「敵襲。街じゃなく上を目指して攻めてくる敵が現れた時に鳴らす鐘。今王様を襲おうとする人より...魔女をどうにかしようとする人が多いだろうね」


そう言い終えるとシンディのフォンが鳴り、通話する。


わたしをどうにかしよう?どう言う事だ?助けたい的な!?それは最高だ!早く助けて!


通話はすぐに終わりシンディが笑顔で震える。


「相手は冒険者だって!魔女だろうがエミリオちゃんは冒険者。冒険者が殺されるのを黙って見てる冒険者は居ない。それに...騎士団と冒険者は元々仲が悪い、いいチャンスだし魔女を理由に攻めちゃおうって感じだよきっと!でも残念!私達もそれは予想して騎士を残してるし...こっちとしてもいいチャンス。冒険者を根刮ぎ消して騎士が最強になるいいチャンス」




騎士と冒険者が小競り合いではなく、殺し合い...。


魔女を助ける為、ではなく...あとで全部魔女の、わたしのせいにする為。


理由なんて後でどうにでも変更できる。






魔女をどう思っているのか教えてやる。






冒険者に騎士と戦うチャンスを与え、騎士には冒険者を黙らせるチャンスを与えた。

そしてどっちが負けてもこの戦いを始めさせた理由は魔女。


勝った方を弱っている状態でパドロック達レッドキャップが叩いて邪魔しそうな奴等はみんな居なくなる。

その後ゆっくり確実に必要なモノを集める事が出来る。



人間達は魔女を...わたしをきっかけに使える道具だと、火種になってくれて全部の責任を押し付ける事ができる便利な存在だと思ったのか。





そう言う事か。







必ず冒険者は動く。

レッドキャップのリーダー パドロックはメンバー全員にそう言った。


魔女を仲間だと思っている冒険者は少なからず存在している。

そしてその中に、バリアリバルの女王 セツカも含まれている。


セツカが一言、魔女を助けたい。そう言えば全ての条件はクリアされる。


魔女なんてどうでもいい。

でも、騎士と何も気にせず戦えるいいチャンス。

そしてセツカが一言、魔女を助けたいと言った。これは冒険者達の中では騎士を倒したい。に変換される。


責任はセツカ持ち、自分達は魔女なんてどうでもいい。日頃から不仲で目障りな騎士を倒せれば何でもいい。


いざとなったら、全部をその魔女の責任にして予定通り誰かが処刑すればいい。そう冒険者達は思っているだろう。



しかし、それも起こらない。






パドロックの狙い通りに冒険者が動き、パドロックの指示通りフィリグリーは騎士達を本部へ集め、残し、冒険者達の襲撃へ備えていた。



騎士を勝たせ、予定通り騎士に魔女を殺させる。

デザリア王と同じくリリスが王を操り、騎士団を操り、必要なモノを集めさせ、最後はレッドキャップが全部いただく。





自分達の手を汚さず進めるパドロックの計画は冒険者達の襲撃により、狂う事なく動きはじめた。





今はまだ、狂う事なく。






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